公暁が「自分は源頼朝の孫、源頼家の息子として名を上げたかった。なのに私は武士としての名がない。それでも私は四代目の鎌倉殿です。それだけは忘れないでください」と祖母の政子のもとを訪れて訴えるのはやはりとても哀切で、「運命に翻弄され暴走し死んでしまった若者」という今までの公暁像の基本線を変えたわけではないにしても、「強く振舞いたい頼家」「理解してやりたい実朝」にたいして鬱屈はしていても若者としてある意味真っ当な「名を上げたい公暁」という人物像を作り上げたのは感銘を受けた。
公暁を演じた寛一郎さんが上総介を演じた佐藤浩市さんの息子であり、さらには伝説の俳優ともいえる三國連太郎の孫であること、つまり三世俳優であることとかなり意識的に脚本上の重ね合わせが感じられるのは指摘されるべきだろうと思う。
はっきり言って寛一郎という役者がどういう出自かを知っている視聴者は当然ながら父や祖父の存在をそこに見るわけで、逆に彼がそれに対してどう臨むのかという難しさは出てくる。
公暁の野心は寛一郎さん自身の野心の吐露としても見れるという線を、当然ながら三谷さんは狙ったんだろうなと思う。もちろんそこはあざといとは思うが、この芝居に全力で何でもかんでもぶち込むという鬼気迫る作り方、というふうにも見える。
そこを前提に考えると、寛一郎さんの演技のある種抑え目でありながらパッションの表出においては圧倒的なものを見せた演技は、さすがだとしか言いようがない。しかしそれもまた「獅子の子は獅子」と視聴者に思わせるある種の嫌味もまたあるわけで、そういうものを含めてウェルメイドだなと改めて思う。
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また例によって長大になってしまったが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。