2.「近代の超克」の失敗と「現代の超克」の見通し:ジェンダーやコロナをめぐる混乱などにも関連して(04/24 09:26)


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こうした議論の中でそれまで国家建設の一つの推進力になってきた「近代」の力、科学主義・実証主義に対して前近代的な暴力主義みたいなものがブレーキをかけるようになり、同じような志向を持っていたナチスなどの全体主義勢力と手を結ぶという愚挙に出ることで共産主義の牽制も成し遂げようとした。英米や西欧近代勢力と日本の現実との調整がもう少し時間をかけてゆっくりできればそういう方向にはいかなかったと思うが、政治家の人材不足や経済的な苦境、社会的な貧困圧の高まりなどはそういう日常性を日本社会に許さなかったという不幸もあっただろう。

結局独ソ不可侵条約の締結によって「共産主義の牽制」すら画餅に帰したことがわかり日本政治はますます混迷を深めて、とはいえ欧米協調路線に戻ることは中国での戦争をやめない限り不可能だったので、ますます間違った方向へ行ってしまったのだろう。

その時の日本の思想というのは例えば石原莞爾の「最終戦争論」にあるように、資本主義・近代主義のチャンピオンであるアメリカと最終決戦を行なって勝利することで日本が世界の盟主になる、というような発想だったのだけど、日本が近代世界で力を持ちえたのは西欧的な方向での近代化が成功してきたからだという前提がやはりあまり強く持たれていずに、自らの力や精神文明を過大評価していたことが失敗の原因だっただろうと思う。日本の良さが近代性とは別のところにあるという議論はもちろんあり得るのだが、それが強さの根源になるという考えがやはり難しいところはあったというべきだろう。「大和魂は腑抜けた欧米人に勝利しうる」という客観性に欠けた主張が社会を風靡してしまったことは大きな問題があっただろうと思う。

結局日本は「近代の超克」には失敗し、戦後世界を「敗戦国」として生きることになるわけだが、英米派外交官であった吉田茂は軽武装・日米同盟路線を選択し、また武装よりも工業化・産業化を選択したその後の路線によって日本は高度成長を実現し、繁栄することになった。これは吉田が巧みに共産主義・軍国主義の脅威をGHQに吹き込み、自分の政敵や共産主義の運動を封じ込めていったからというところもあり、戦前は利用することができなかった蒋介石流の共産主義の脅威を、蒋介石が覇権を失った後の戦後においてうまく受け継ぐことができたということもできる。アメリカにとっては日本に対抗するために蒋介石を援助する方向で多量の犠牲を出した後に今度は共産中国に対抗するために再びアジアに関わらざるを得なくなったわけだからある意味外交の失敗と言えなくはないとは思うが、状況は戦後の日本には味方したという面はあるだろう。

こうして再び日本は欧米近代主義の枠内での発展という明治以降の基本路線に戻ったわけだが、戦前に比べると冷戦という状況は複雑化はしていたが基本的には日本の発展には有利な状況が続いたというべきだろう。現代とはいつ始まったのか、という考え方はいろいろあるが、社会主義国家の存在を重視する立場からは第一次世界大戦後から、という考え方が強かったように思うけれども、その社会主義権が崩壊し、残骸としての中国やロシア・北朝鮮のような権威主義国家が残っているだけという現状を見れば、国連憲章によって進むべき世界の方向性が明確に示された1945年以降が現代と考えるのが妥当なのではないかと今は私は思っている。

現代社会の進展の中で共産圏が崩壊し、「共産主義の脅威」が神通力を失ったことによって、アメリカの対日姿勢も変化し、特に90年台のクリントン政権はジャパンパッシング的な日本軽(い敵)視政策をとったこともあって日本経済は長期低迷に落ち込んでいったわけだが、ロシアや中国も含めて世界はグローバルに一体化するという幻想がロシアにおけるプーチン政権の、中国における習近平政権の独裁的な執政の長期化によって壊されていく中で、アメリカは昔日の世界平和に対する義務感を失いつつあり、オバマ政権もトランプ政権も紛争には関わらない姿勢を示すようになっていったが、そうしたアメリカの空気を変えたのが今回の岸田首相の米議会における演説であったと思う。

アメリカは世界平和を維持する暗黙の責任のみが負わされ、それでいて感謝も同意もされないという不公平感、虚無感があったのが、ちゃんと熱い期待を持ち応援してくれる国があるということに感激して、あれだけ大きな反応が起こったのだと思う。どんなにアメリカが大国でもそのモチベーションが下がっているときに世界平和を維持するなどという巨大な責務を背負い続けることは難しいわけで、岸田首相の演説はうまくアメリカのツボをついたと思う。

そういう意味で、日本は共産主義とか国家社会主義のような全く新しい枠組みを提案し推進していくことよりは、既存の枠組みをフル活用し、その中で地位を高めていくことで次の世界の主導権を握る、というスタイルの方が得意なのではないかとは思ったのだった。まあこれは日本に関しての話だが。


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