2.「近代の超克」の失敗と「現代の超克」の見通し:ジェンダーやコロナをめぐる混乱などにも関連して(04/24 09:26)


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4月24日(水)雨時々曇り

昨日はいろいろ忙しかったのだが、少しずつ前に進んでいるところはあるのでそういうところをさらに確かなものにしていければいいなと思っている。

現代のさまざまな問題の根底に「言語論的転回」の問題があると思っていて、要は既存の社会秩序を疑い、再構築していこうという方向の根底にこの考え方があると思うのだが、ある種の社会の常識的な枠組みがあちこちで破壊されていて、それに対する反発や再反論、決めつけや憎悪などがさまざまに現象してきているような印象がある。

近代社会を成り立たせてきた、推進してきた原理は啓蒙主義から発展・成長した科学主義・実証主義であり、キリスト教に依拠した階級社会や絶対王政の論理を超克して絶対主義の主権国家の枠組みを守りながらブルジョア民主主義制度を一般化していく方向になったわけだが、近代とは明確に西欧ブルジョア社会優位の時代であったから、それに対する異議申し立ては各所に起こった。帝国主義的国家間競争の破綻によって第一次世界大戦がおこり西欧諸国、特にイギリスが没落し、ロシアが崩壊して共産主義政権になるなどの大変動は起こったが、共産主義もまた近代主義のバリエーションではあっただろう。また敗戦国ドイツでは暴力的なナチス運動が国家を支配するに至り、近代は危機に晒される。

その中で日本は、明治維新によって封建国家体制を超克して近代国家、また当時のスタンダードの近代帝国主義国家に脱皮することに成功したわけだが、基本的に西欧近代のスタンダードを追いかけ、その規範の中で成長することを選んだわけである。第一次世界大戦もまたその成長のきっかけの一つになったが、西欧近代の受けたダメージは大きく、不戦条約など暴力的な手段によらない近代世界の安定を目指す方向性が生まれた。

ロシアの共産主義政権の成立により、発展しようと志した国が近代化の方向性として日本やトルコが選んだような西欧モデルだけでなく、ロシア=ソ連の共産主義モデルを選ぶ手段が生まれたことは「近代」の相対化と多様化において大きな契機になっただろう。明確な共産主義化を選ぶ国は1920-30年代にはモンゴルを除いてなかったが、中国は国民党が政権を握ることでソ連と欧米を天秤にかけ、「革命外交」を行うことで日本のような条約改正の苦労をすることなしに自らの主張をイギリスに認めさせて行く。

日本ではそれまで西欧スタンダードの大国になることを目指していたが、共産主義国家の成立はむしろ外交的にはある種の思考停止をもたらしたように思う。西欧の人権理念の真の実現を求めた人種差別禁止条約は成立せず、また満洲における権益の共有を拒絶したアメリカからは排日移民法を食らうなど、「西欧の理想」を疑問視する傾向が強くなってきて、また中国のようにソ連の存在を示唆してより有利な交渉を英米側に求めるというような外交術もなかった。これはうっかり日本が先進国、五大国としての矜持を持ってしまったために中国の瀬戸際外交的な外交を行う泥を這いずり回るようなセンスが失われたこともあるし、「共産主義の脅威意識」を英米と共有することにも失敗したということがあるのだろうと思う。

日本国内では外交面では欧米協調路線が強く、軍事面では中国における権益確保への指向が強かったために中国情勢に翻弄され、アカデミズムや学生運動の中では共産主義への憧れが勢力を持ちつつあり、いずれにしても幾つもの要素がある当時の日本をめぐる情勢を現実的に捉えて日本が有利になるような外交を行う手練手管に富んだ外交者たちや強力な政府を持てなかったことは当時の日本にとって残念なことだったと思う。これは戦間期の大政治家になる可能性があった原敬の暗殺という突発自体が招いた不幸という面はあり、現代の安倍首相の暗殺もその轍を踏まないかと懸念する部分がある。

中国での権益確保の欲求という理念なき軍事方針の爆発が満洲事変の形で起こったときにそれに政府は有効に対処することができなかったのはいろいろと問題の指摘の仕方はあるけれども、「近代」国家としてやはりまだ未熟だったから、という面は大きかったような気がする。この意図せざる暴発をきっかけにして国際世界で孤立していったことが日本の大きな失敗の始まりだったことは確かだろうと思う。

ただ一度自体が動き出すと起こってしまったことは仕方ないとしてそれはそれとしてその方向性での国家建設を考えようという方向になるところがある意味日本らしいとはいえ、その中で構築されてきた哲学的な議論が「近代の超克」というものだったようには思う。


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