4897.小林よしのり『いわゆるA級戦犯』/「まあ、私なら自分が先に死ぬわ。」(07/03 11:01)


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昨日も体調が上がらず、日課をこなすのに精一杯でなかなか創作まで行かない。というより、創作の方向性が見えずに苦しんでいるといった方がいいか。しかしまあ、物を作るということは苦しむことが仕事のようなものだ。それを避けていては何も出来ない。

午後遅くになって出かけ、神保町に行く。いろいろ見て回ったが、小林よしのり『いわゆるA級戦犯』(幻冬舎、2006)だけ買った。最近そっち方面から関心が外れていたせいもあるが、三省堂の日本近代史関係のところを見るとまたぞろいわゆる従軍慰安婦ものやらそういう方向性のものが増えている。書店の売り場というのはイデオロギー戦争の最前線なのだなということを改めて思う。しかし全く十年一日というか、進歩のない争いではある。

<画像>いわゆるA級戦犯―ゴー宣SPECIAL

幻冬舎

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落ち着いて本を読もうと思って「きゃんどる」に行ってみたら閉まっていた。他の喫茶店に行く気もあまりしなかったので三田線に乗って日比谷に出、銀座のほうまで散歩する。途中中年のおばさんに有楽町駅はどちらですかと聞かれる。目の前に山手線が走っているのだが。あの線路のところまで行って、左ですよ、というとこの通りを渡るんですね、と確認して小走りで行った。私はどちらかというと道を聞かれやすい方で、知らないところを歩いていてもよく聞かれるので困るのだが、なんというかそれもシーズンがあり、最近またきかれやすい体質になってきたようだ。数年前はそういえば最近は全然道を聞かれないけどなぜなんだろうと思っていた。よほど険しい顔をして歩いていたに違いない。最近はちょっとは柔和になったということか。

旭屋書店など物色し、買わないつもりでいた新しい『SAPIO』を買った。壱真珈琲店の地下の店でモンブランと珈琲を頼む。このモンブランはとろけるようで美味しかったな。『いわゆるA級戦犯』を読む。市谷の極東軍事法廷の写真。いまは防衛庁の記念館になっている。第1章は東條英機の簡単な伝記。とはいってもMPに逮捕される日の様子などは細かく描写されている。しかし、知らなかったことはそんなに多くない。小林の作品はいつもどこで調べてきたのだろうと思うほど細かい描写や記録がふんだんに使われていて驚くのだが、このあたり正当に評価されていないのはマンガというメディアに対するアカデミズムの強い忌避感がいつまでたっても解けないところにあるのだろう。

東條逮捕の場面で印象的なのは米兵たちが自決を図った東條を運び出す際、東條邸で略奪行為を働いたこと、また東條の身につけていたものを「記念品」として奪い合ったり、その血をハンカチに浸したりしたというエピソードである。これは日本ではあまり知られていないことだが、硫黄島の戦いの際等にも日本兵の髑髏を記念品として持ち帰る米兵が多く、故郷で待つ婚約者に髑髏を送ってその髑髏を見ながら女性が物思いにふける、といった写真もある。

これは「メメント・モリ」のための古くからのヨーロッパにおけるアイテムとしての扱いのようなもので西欧絵画にもよく髑髏は出てくるが、遺骨収集に行った日本人がどうしても体の数に比べて髑髏の数が足りないので困ってしまい、硫黄島の戦いに参加したアメリカ人をたずねて回って返してくれるように頼んだ話を上坂冬子が書いている。髑髏の持ち出し行為をしたこと自体を現代アメリカ人はみな否定するのだが、別に彼らが野蛮だというのではなく、そういう習慣を持っていたというだけなのだから素直に認めればいいのにと思う。

奥崎謙三も『ゆきゆきて、神軍』のような勝者が笑ってみていられる戦場における罪の追及をやるより、米兵一人一人をたずねて回って髑髏の返還を要求するドキュメンタリーを撮ればよかったのにと思う。戦争における最大の不条理は勝者は何をやっても責任は追及されないというところにあるはずだ。

<画像>ゆきゆきて、神軍

ジェネオン エンタテインメント

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