4639.美女の仮面/ロンリー・アーミー(05/14 08:09)


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金曜夜上京。それにしても寒いな。金曜の夜は郷里で仕事しながらも足元が寒くて暖房を入れてしまったが、東京に戻ってきてからも寒くて困っている。昨日は一日冷たい雨、今日も朝から動いている分にはいいけれどもPCの前に座っていろいろやっているともうだめだ。仕方なくひざ掛けをして足元に暖房を入れる。初夏を通り過ぎてもう梅雨か。

金曜日は『右翼・行動の論理』読了。平成18年現在の右翼運動の難しさのようなものがよくわかる。社会が保守化しているといっても、少なくともいわゆる「右翼」が求めているような形の保守化ではなく、保守の人たちは逆に右翼との違いを明らかにするためにより右翼に対する締め付けが厳しくなっているというのはなるほどと思う。いわゆる反体制右翼の活動はより厳しくなっているのだろう。皇室典範問題などについてももっと発言があるかと思ったが、このあたりは既に行動右翼にとっては語り得ない事柄なのかもしれない。いろいろな意味で彼らにとっても、我々一般国民にとっても難しい時代なのだろう。

今の時代は、明治の立身出世主義の時代にやはり似ているのだと思う。貧乏であることは悪であり、己の才覚で成り上がることが善。実業(虚業も含め)系の成功哲学が幅を利かせ、プラスチックの仮面のような美女が熱っぽく成功を語る。最近は日記・ブログ系でも女性には特にそういう価値観の記述が増えてきていてなんだかなあと思うが、まあそれも一時の(といっても10年単位かもしれないが)現象なんだろうと思う。ココ・シャネルのようにある種の新しい造形を生み出してくれるなら、ある種のプラスが人間の文化にも加えられるだろうとは思うけれども。

まあ勝ち組とか負け組とかニートとかフリーターとか言っている時代はロマンチシズムの流行る時代でないことは確かで、根本的にある種の暴力的ロマンチシズムに依拠している右翼が逼塞するのは仕方のないことだろう。暴力主義はともかくロマンチシズムの不足を不満に感じている人はそう少なくはないと思うけれども。

郷里においてあった『中原中也詩集』を少し読みたくなって持ち帰ったが、『在りし日の歌』はやはりすごいなあと思う。「今宵月はめうが(茗荷の異体字)を食ひすぎてゐる」とか「潅木がその個性を砥いでゐる」とか、これは言いたくてもとても言えないことばなのだが、これだけ「他に表現しようのない言葉」が書けるかどうかというのが凡百の詩人と中也との違いなのだと思う。

金曜日の昼間、散歩の途次にコンビニに寄ったら古谷三敏『レモン・ハート』(双葉社)の22巻が出ていて購入。最近なんとなくグレードが落ちている感じがしていたのだが、この巻は充実がすごい。平成元年に亡くなった漫画の神様(もちろん手塚治虫のことだろう)の17回忌の幻の話、酒の話だけでなく動物の話がいやに出てくるなと思っていたが、ローレンツ『ソロモンの指環』に影響を受けた話などが出てきていて、へえと思った。『ソロモンの指環』は友達が読めといって貸してくれたのに読まないままになっている本で、読みたくなったが見当たらない。探さなくては。我ながらとんでもなく失礼な奴だ。

金曜夜に上京し帰宅したらアマゾンマーケットプレイスに注文した二冊が届いていた。1冊は大河原正敏『ロンリー・アーミー』(集英社ジャンプコミックス、1993)。『王様の仕立て屋』の大河原遁の初期作品集である。線としては作画グループ系の線でちょっと若さゆえかの硬さを感じる。内容は「ツンデレ」、といっては用法が間違っているが、普段はドジな女の子だがだが実はサイボーグのスーパー工作員、という「普段は」と「実は」がギャップのある漫画・アニメ系の設定。考えてみればこれは「スーパーマン」以来の王道の設定なんだな。ある種の人間の欲望の典型的な形なのかもしれない。

これは多分、読者が読んでいてもカタルシスがあるし、作者が書いていても楽しいに違いない。あまりにもフィクショナルな物語で「文学」にするにはいろいろ難しいだろうが。ドジな部分の魅力(「てへっ」的な)と「実は」の徹底的にクールな魅力のギャップがポイントだが、実際にはその背後にある人間的な一貫性が物語の全体性を支えている。それはヒューマニティやより日本的なたとえば自然との一体的感覚に裏付けられるもので、そのあたりのところは『王様の仕立て屋』の普段は三枚目だが実は天才の仕立師の造形などにも一貫した物が流れている。『ロンリー・アーミ−』は本人も自信作だと断言しているし、これは手塚賞受賞作品なので、やはり彼の原点と言うべき作品なのだろう。どうしても整理しきれずごちゃごちゃしている部分があるが、『王様の仕立て屋』のときに「余白の美」的な部分すらある余裕のあるコマ割りに到達するにはいろいろ大変なこともあったんだろうなあと勝手に想像している。


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