4529.小林よしのり編集『わしズム』夏号/民主主義というウソ話/「話をまとめる能力」に対するこだわり(07/23 16:57)


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そのころから歴史に関しては強い関心を持っていたので、簡単に言えば歴史上「自然状態」が存在したことなどないのだし、そこで「社会契約」を行ったことなどないではないか、と思ったのだ。簡単にいえば「自然状態」も「社会契約」も「ウソ話」だ、と思ったのである。しかしそのことを断言して保証してくれる人も本も見つからず、私の発見したこの考えが本当に正しいのかどうか、ずっと不安だったのだ。だからと言って民主主義を否定したりすれば居場所がなくなることくらいは中学生や高校生のころの私だって理解できたし、自分の考えが間違っているのか、みななぜ平気で民主主義など主張できるのか、いつも不安に思っていた。

後になっていろいろ考えたり歴史を調べたりして、たとえばピルグリム・ファーザーズによる「メイフラワー誓約」が「社会契約」とみなされていることとか、フランス革命でも1790年の「連盟祭」が国王・貴族・ブルジョア・民衆のそれぞれが参加しての「社会契約」のイベントだったことを知ると、彼らは実際に「社会契約」の行事を行って彼らの国家を再組織したと納得した。その伝で行くと日本国憲法は衆貴両院の議決が「社会契約」の手続きであったことになるだろう。そんなことをいう人は聞いたことはないが。

まあ要するに西欧において契約国家観は「完全なウソ話」ではなく、いちおうの(十分とは思えないが)手続きを踏んで成立しているということはある程度納得のいくものだった。逆に日本において誰もそんな認識を持っていない以上、日本国憲法の架空性はさらに高まるものと思われた。

最近またそのあたりのことをいろいろ考えていて、要するに聖書に基づく「王権神授説」に対抗するためには聖書に全く依拠しない、キリスト教的な根拠を持たない「自然状態」という新たな「神話」を仮構することがどうしても必要で、現代国家というのはそうした啓蒙主義時代の人々が考えた『「世俗的な」「神話」』と言う全く相矛盾するアイデアに基づいてようやく成立すると言う歴史的過程をたどったのだと言うことを今になって理解した。

つまり、王権神授説がいわば「聖書のウソ話」によって成立しているのと同様、民主主義も自然状態と社会契約という「啓蒙主義者のウソ話」によって成立しているのであり、人権概念もまたすべてそういう「空から林檎を取り出したような手品」によって成立していると言うことになる。もちろんそれらの概念はもっと古く、ローマ法から続く実定法上の歴史の中で形の上では考えられていたものもあろうが、少なくとも現存の人権概念は手品によって生まれたものだと考えるべきだろう。

このあたりは私の理解力が不足しているためかようやくこの年になって把握したのだが、同様に天皇の「万世一系」という考え方が一種のイデオロギーであると言うことも最近になってようやく理解した。いままでは単純に「事実」として私は受け止めていたし、天照大神から暫くの系譜をそのまま信じていたわけではないにしても、まあ聖徳太子くらいからは続いていたわけだし8割くらい万世一系なんだからそれでいいんじゃないの、位に考えていたのである。

まあ国体論に関しては「だいたい万世一系」位のいい加減な考えだったが、科学と言うものに対してはこれもかなり不信感を持っていて、「科学は絶対に正しい」というのは事実ではなくてイデオロギーだよな、と考えていたし、今ももちろんそう思っている。しかし、まあ「科学のいうことは結構当たってるよな」くらいのことは思っているわけで、そのあたり「だいたい万世一系」というのと似たようなものである。だから「科学が絶対に正しい」というのがイデオロギーなら「絶対万世一系」というのもやはりイデオロギーだ、とようやく腑に落ちたのである。

まあここまで書いてきて改めて思うが、こういう考え方をしている人間というのは私の他にそんなに多くはないだろうなあと思う。ひょっとしたらゼロかもしれんなあ。

まあしかし、進歩派が「万世一系はウソだ」というと「何で?私はそうは思わないな」と返答して嫌な顔をされたものなのだが(だいたいそれで人間関係が気まずくなることも多かった)、彼らのいうことが国体論、「万世一系」説がイデオロギーだ、ということを意味しているなら、それはそうだな、というくらいには思う。だがそれは、契約国家論がウソ話だ、というのと同じくらいのことでしかなく、つまりどういう考え方を取ろうと「真実性」ということに関しては全然変わらないんじゃないかと思うのである。それなら別に私が結構いい加減ではあるが「万世一系」説に立ったっていい訳で、とやかく言われる筋合いでもないな、と思う。もちろん議論はしたっていいし、こういう人間がいるからこそ「聖徳太子はいなかった」みたいな「万世一系」説破壊に狂奔する人々が出てくるんだろうなとは思うけれども。

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