4529.小林よしのり編集『わしズム』夏号/民主主義というウソ話/「話をまとめる能力」に対するこだわり(07/23 16:57)


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昨日。午前中、昼食の買い物に西友に出かけ、三階の本屋で小林よしのり編集『わしズム』2006夏号(小学館)を購入。わしズムを買うのは3号ぶり。最近は『新ゴーマニズム宣言』の単行本も買ってない。ただこの号はこうの史代が巻頭カラーで書いていてそれに引かれた部分もあり購入した。こうのの作品は凄い。ただどのように凄いかは書いてしまうとネタばれになるので暫くは書かない。しかし、こういうのは少なくとも私は初めて見た。

この号は「戦争論以後」と題し、1998年の『戦争論』発売以降の世論の変化、いわゆるネット右翼の隆盛等についていろいろな議論が展開されていてなかなか興味深い。こうの史代の作品掲載もその一環なのだが、「自称愛国者」への失望を語り、今までいろいろな形で離れて行った切通理作や西尾幹ニの一文も載せ、対極にあると思われた大塚英志や香山リカを招いて鈴木邦男・富岡幸一郎と五人で座談会を行い、これが相当充実していた。

大塚英志は「戦後憲法が自分にとっての(宗教に変わる意味での)超越性だ」と言っていて、彼は確かに筋金入りの戦後民主主義者だ。そこまで言い切っている人は評論家や作家を含めてなかなか聞いたことはないが、彼の立論はすべてそういうところに論拠を置いていて、どうも私などはチャンチャラおかしいと思ってしまうけれども、憲法をそこまで深く掘り下げて――超越性というからには、憲法を守るためには命を投げ出しても惜しくないと言う意味だろう――確信の根拠におくというのは、一つのあり方だろうとは思う。鰯の頭も信心から、と思ってしまうのはもちろん私がそう思わないからに過ぎない。

で、小林よしのりもそういう大塚のあり方を実は結構感心して共感を持って聞いている。小林が依拠するのも結局は神仏ではなく、おそらくは公共性でもなく、「情」であるから、戦争論がたまたま悪者にされている「出征した老人たち」を擁護するのが目的で描かれたために右翼とレッテルを貼られたにすぎない。小林は自らの作品の作家性に強くこだわる人物で、そういう意味で文学的であるから、基本的には近代人であって、超越性の問題にはそんなにとことん深い関心を持ってはいないような気がする。そういう点ではかなりフレキシブルで、表現が強いから「極右」だとか誤解されやすいけれども、表現ほど極端な思想性を持っているわけではない。

最近の作品ではずっと『嫌韓流』に代表される韓国人バッシングに強い忌避感を表明しているし、特にイラクの人質(男二人女一人)バッシングにショックを受けていた。彼の主張は結局イデオロギーではなく「情」であって、元兵士の老人たちにも、関東大震災で襲われた朝鮮人たちにも、政府の警告を無視して行動して危機に陥ったイラクの人質たちにも同様に「情」を持って描いているに過ぎないのだ。ただそれぞれの際に徹底して論拠を積み上げて描くのでものすごく堅牢な思想性を持っているように誤解されてしまい、「敵」はビビリ「味方」は浮かれてしまうために後で違う面について発言し始めると「裏切られた」と言う印象を持つのだろう。まあそれはそういう作家性の持ち主だと割り切っておいたほうがいい。

そのほか遊就館の特集や戦没した若い兵士の手記なども載せられ、いろいろな意味で充実した一冊だと思う。

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「超越性」の問題と言うのは最近よく考えているのだが、結局私と同じような思考をする人とはまだ出会ったことがない。私が日本国憲法がちゃんちゃらおかしいと持ってしまうのは、(だから全く無効だ、と言う意味ではない。現憲法に変わるものを自分が持っているわけではないから「より少なく悪い」ものとして現状では甘受すべきものだろうとは思っている。部分的にはもちろんどんどん替えてよりベターなものにしていくべきだと思う。それは教育基本法等についても同様。)結局はこの憲法が社会契約論に立脚して成立しているからである。

子供のころ―多分中学生のころだろう―だが、私はなぜ自由とか平等とか権利とかそういったものが「絶対」のものとして存在しているのかと言うことがどうしても納得できず、とにかくいろいろ調べてみて、これは学校で言葉だけ出てきた社会契約論というものに基づいているらしいと言うことがわかり、ホッブズやロックの言うことを自分なりに考えてみて(せいぜい高校生向けのものだと思うが)どうしても納得できなかった。つまり、人間が「自然状態」にあると「万人の万人に対する戦い」が起こったとか、お互いの公共の利益のために自らの権利を委託して政府を作ったとか、そういう記述が納得できなかったのだ。


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