3670.身体性と芸能/考えたように生きてみよ/「感情」について考える(08/04 16:28)


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途中で台詞を忘れたり、衣装があまりに日常着だったり、舞台にいるのにお母さんだったり、そういうところが目に付きすぎて何を見ればいいのかよく分からずに混乱した。ストーリー自体もむらの長者が出てきたところで結末は分かる物だったので後はどういう演出をするかということだけだったのだけど、そういう演技的なノイズの多さに比べてあまりに音楽(生演奏)が上手すぎて、隙がなさ過ぎ、コンビニのおにぎりを食べながら野田岩の鰻を食べているようなバランスの悪さを感じて、何を押さえればいいのかわからないうちに終わってしまった感じだった。

終わった後主催者と少し話しをしたが、衣装に関してはあまり考えていない、ということでそれなら仕方がないかと思った。とっくりは彼の息子だということで、なるほどとっくりであることにも納得がいった。また劇団時代の友達と少し話をし、主催者は『芸能』を目指しているんじゃないか、といわれていろいろな部分が腑に落ちた感じがした。

あまりにないものねだりとはいえ、思ったことを一応書いておくのだけど、『芸能』ということになるとまた難しい問題がいろいろ出てくる気がする。『芸能』を支えているのはその民族の身体性だと思うのだけど、現代の生活は日本人が本来持っている身体性を破壊してしまっている。農村の芸能は農村の生活、農家の生活に根ざした身体性によって成り立っている。数年前黒澤明の『七人の侍』を見て一番感動したのは、あの映画に出てきた若い役者たち、エキストラたちが農民の体、農民の身体性を持っていたことだ。今テレビを見ていてどうにもならないなと思うのは主役級の演技ではなく(それもどうにもならないことも多いが)そうしたその他大勢のあまりに農民でない体なのだ。子供はそれでも、子供らしい身体という特権を持っていて、これは結構感動するのだが、埼玉の子供は信州の子供よりもずっと子供らしい身体性を持っていて、それは見ていて面白かった。もちろんそれはあまりに無意識的なもので、それが評価すべき物なのかどうかも微妙なのだけど。大人の身体性はどうも、見ていて辛いものがあった。

しかし今の生活で農業にかかわる体を作ることから芸能をつくることが可能なのかどうか。それは、今の大相撲の凋落振りを見ていればよく分かる。昔なら、農村の生活の中で必然的に作り上げられてくる身体のその延長線上に力士の体があるわけだから、大相撲は日本全土に広がりを持ちえる芸能に成長しえたのだ。しかしこれだけ生活が変わり、からだが変わってしまった現在、それを求めるのが困難になってしまうのは必然だろう。

だから問題は、現代人の生活の中から芸能は生まれ得るか、ということにならざるを得ない。演劇や舞踏や、芸術なら特殊な訓練を施せば出来ないことはないからそれはありえる。しかし生活と一体であるべき芸能を志すとすると、生活そのものを変えるのか、生活そのものとはある程度一線を画して身体訓練を施すのか、という問題がでてこざるを得ないのではないか。

まあたとえばだけど、稽古の一巻としてみなで草むしりをするとか、稲刈りをするとか、そんなことでもやって見ると違うのではないかという気がする。みんなで泥鰌掬いを踊るだけでも違うだろう。よけいなお世話だが、そんなことを考えた。

***

帰りは再び東武動物公園駅まで歩き、駅構内のパン屋で腹ごしらえをし、再び急行中央林間行きで帰る。何だかそのまま家に帰るのが物足りなかったので三越前まで行って日本橋に出、丸善の地下で原稿用紙を買った。本を物色するが、結局買わず。立ち読みした本のフレーズが印象に残る。

「考えたように生きてみよ。さもないと、生きたように考えなければならなくなる。」フランスの作家ブールジュの言葉。

これはあまりにその通りで笑ってしまった。やはり人生、上手く行かなかったことをあれこれ考えてしまう。生きたように考えてしまうということだ。考えたように生きること、つまり、人間は自我が大切だということだ。

夜は疲れが出てしまって早く寝た。

朝は5時前に起床し、久しぶりに荒川河畔まで散歩に出かける。どうも今日の夜に江東区の花火大会があるらしく、場所取りのブルーシートがそこらじゅうに敷いてあった。それにしても朝の散歩は得る物が多い。頭がすっきりするし、いろいろな物が新鮮に見える。

散歩しながら感情という問題について考える。「感情は、強い力を持つが、一時的なものだ。うまく使わないと危険だが、それに頼るともっと危険である。」一時の感情の勢いでやってしまって後悔することはよくあるが、一時の感情の勢いを使わないと上手く出来ないこともまたある。なんてことを。


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