3643.銀のしずく降る降るまわりに(10/16 16:35)


昨日。『そのとき歴史が動いた』で知里幸恵を取り上げているのをみた。仕事が長引いたので最初のほうを見損なったのだが、途中からでもたいへん見ごたえがあった。知里幸恵というアイヌの少女が『アイヌ神謡集』をまとめ、19歳で亡くなったことは知っていたが、それ以上に詳しいことを知ったのは初めてで、見ていてどんどんひきつけられるものがあった。

銀のしずく降る降るまわりに
金のしずく降る降るまわりに

というフレーズは忘れられない響きを持っている。岩波文庫で出ている『アイヌ神謡集』の冒頭に収められたこのカムイユカラは、知里幸恵の名を不朽のものにしたと言っていい。

少し驚いたのは、幸恵が女学校を出ていたということ。当時の進学率を考えれば、アイヌの女性で女学校を出るなどというのは本当にごくわずかだったに違いない。そして調査に来た金田一京助と出会い、ユカラやカムイユカラを収集するようになる。そしてその日本語訳のみずみずしさ。

そしてその出版のために上京し金田一宅に寄寓した幸恵は東京の町を見て回る。一番印象に残ったのはデパートに行き、そこに集まる人たちを見て、この人たちと自然の中に生きる自分たちアイヌと、どちらが豊かだろうか、という根源的な批判を記していることだ。カムイユカラを収集する過程で彼女はアイヌ文化の豊かさに絶対的な自信を持つに至ったのだろうと思う。

しかしそのとき既に病魔に冒されていた幸恵は、校正の仕事で無理が重なり、校了直後に19歳で亡くなってしまう。翌年出版されたのが大正12年8月10日だったというから、関東大震災の3週間前だ。震災で崩れていく文明都市を幸恵は見ることはなかった。

<画像>アイヌ神謡集 (岩波文庫)

岩波書店

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