2974.釣りと祭と社会問題/妄想大国日本はクールか/「太陽の季節」はいつまで続く(09/06 11:45)


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昨日は「釣り」と作家の才能、というような話を書いたが、社会問題の告発、というのも結局同じような手順というか才能で行なわれているんじゃないかと思った。社会問題を訴える、というのは個々の問題について当事者が頑張っていてもなかなか取り上げられない。拉致事件などもそうだった。しかしそれが報道で取り上げられ、常識を共有する多くの国民がひどい話だと思うと問題意識の共有化が進み、政治家を動かし、社会問題として一般化されて「解決しなければならない事件」になり、社会に非難されるべき側が明確化するとメディアが連日取り上げて相手が音を上げるまで続ける、という構図になる。これはネット上での「釣りと祭」と基本的には同じ構造だ。

今朝ネットを見ていたら電車の中で騒ぐ子どもとその親に対して外資系企業に勤めるらしきOLが「みんなこれから働きに行くのだから降りてください」と迫り、親子が泣く泣く降車した、という話が話題になっていた。これもまあ、事実かもしれないけど少し「釣り」の匂いがする。いや何というか、事実であってもそれをネットに載せること自体がある種の「釣り」的な要素がある。北朝鮮によって拉致された人がいる、という事実が何も知らないままネット上に載っていてもむしろ「電波か?」と思われるのが落ちなわけだけれども、「そういうOL」は明らかにいそうだからだ。まあつまり、身近なだけに人々の不安や不満に結びつきやすい。「釣り」には向いた事例なのだ。

これと似たような話は以前、新聞の投書欄で読んだことがある。朝の東京行きの新幹線は大体長距離通勤の人の睡眠時間になっていてしんとしているそうなのだが、たまたま乗ってきた親子連れがいて、その子どもがぐずりだしたのだそうだ。迷惑そうな顔をして起きる人がちらほら出てくる。するとOLが(やはりOLということになっている)「みんな貴重な睡眠時間を確保しているのにこんな時間に子供づれで新幹線に乗るなんて非常識だ」と親子連れに怒鳴りつけたのだという。

まあこれも、今考えてみると結構「釣り」的な感じがする。この二つの話は、サラリーマンの(特に女性)の「働いている者」が「子育て中の主婦」より偉いという傲慢な意識を批判するというところに主眼があるわけだが、まあもちろんサラリーマンの意識の中にはそういう事態が起こったらやはり「うるさいな」と思う人がいるからこの話が成立するわけだ。

まあつまり「釣り」というのは非常識なことを確信犯的に書いて世間の注目を集めることを目的とする愉快犯的な人騒がせな存在、ということになるけれども、それが出来る才能というのは社会問題をアピールする能力というのと基本的には同じところがある。もちろん「拉致問題」のような大きなテーマになると才能云々よりも気の遠くなるような地道な努力やさまざまな関係先の圧力や妨害に耐える覚悟のようなものが必要になるからこんなお手軽な話と軽々に同じには出来ないが、「取り上げられるような」新聞の投書の書き方というレベルでいえば同じようなものだろう。以前、朝日新聞の投書欄で明らかに「釣り」と思われる投書がされているのが2ちゃんねるかどこかで話題になっていたことがあったが、そういう部分がある。

実際社会に出てみると、「騒ぎ屋」みたいな人は実際に存在する。クレーマーといわれているような人も実際にいる。本当に困って苦情を行ってもそういう扱いをされて憤慨するというのも実際本末転倒なのだが、そういうこともある。やっているうちに何が本当で何が作り話なのか分からなくなってどうでもいいやという気がしてくることも実際に経験したことがある。ああいう経験をしているとなんだか本当にまじめにやっているのが馬鹿馬鹿しくなってくるものだ。

常識があって初めて何が非常識か分かるから釣り師は基本的に常識を持った人だ、という話を昨日書いたが、それでもなおかつ妄想力のようなものが皆無の人にはそういうことは出来ない。こんなことが起こったらひどいよな、という想像というか妄想自体を、本当に常識的な人はしないからだ。だからこそそういう非常識を提示されると怒りを感じるわけだし。

人はリアルの世界に生きているからこそフィクションを楽しむことができるのであって、妄想の中に生きている人と現実にあまり付き合いたいわけではない。しかしそういう形で妄想の中に生きている人はどうにかして人にこちらを見て欲しいのであの手この手で注目を集めようとする。しかしそういう形でも注目を集め得るのはよりリアルに近いところ、現実に近いところにいる人たちで、現実のある種の力に近いところにいる人たちに利用されるとこれもまた困ったことになる。


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