23.身体は動く/キッシンジャーの外交思想とウィーン会議のカールスレー(03/07 09:25)


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キッシンジャーは「ドミノ理論」によって共産化を危惧したことによるケネディ・ジョンソン政権のインドシナ介入を批判し、一方では「悪の帝国」に対立する「善の帝国」としてアメリカを動かしたレーガンを冷戦勝利に導いた存在として評価はしている。まあ結果論の後出しジャンケンという気はしなくはないが、現実論ではなく理想論で動く政治であっても結果を出せばよしとする、という現実主義だと言えば言えるのだろう。

カールスレーの勢力均衡政策でうまくいかなかったのがプロイセンの強化とポーランドのロシア支配で、この二つはロシア牽制の意味があるわけだが、19世紀後半になってフランスよりもロシアがイギリスの脅威になるようになると、その失敗の意味が大きくなってきた、という指摘がある。

同様にキッシンジャーが中国を贔屓し台湾問題を意図的に小さく考えようとしたことが、今中国との対立がアメリカの主要なテーマになってきていることを考えると、「リアルポリティークの賞味期限」というものを考えざるを得ない。

キッシンジャーは「違法なこと、これ は直ちに行う。違憲なことは、もう少し時間がかかる。」と言ったそうだが、必要とあれば手段を選ばない姿勢には当然ながら批判はあるし、どんな手段を使ったところで外交も軍事も限界はあるわけだからその辺りのところも考えていかなければいけないだろうなとは思う。

キッシンジャーはウクライナ戦争に対してはロシアの領土的野心をある程度認める「現実的な提案」を行っていたし、ガザ問題に関しては西岸地区のヨルダンへの、ガザ地区のエジプトへの併合を主張し「二国家解決を放棄せよ」「イスラエルに対する強力な支持を示せ」と提案したり、また中国に対しても「アメリカは和解すべきだ」と主張するなど、相変わらず勢力均衡的な視点からの提案を行なっていた。民主党政権のうちはそうした方向性は出てこないだろうが、もしトランプが政権に復帰したらこうした方向の提案も復活する可能性はあるのだろうなという気はする。

現実的な視点で言えばガザのハマスはエジプトの反政府勢力ムスリム同胞団の系統なのでエジプトはその受け入れを拒否するだろうし、ヨルダンにしても現在でもパレスチナ人が多数派なのにこれ以上多くのパレスチナ人を抱え込みたくないという考えはあるだろうから、まず両国が受け入れないのではないかという気はする。

彼の主張はそういう意味ではロシア・中国に適当に飴を与えてアメリカと協調させた方がいいし、イスラエルが良ければパレスチナはどうでもいいという考えが感じられるから、当然ながら批判は多いだろう。

彼が現場を離れた後の冷戦終結後や911後にどういう発言をしていたかなどはよく知らないので彼の考え方の全体がわかるわけではないけれども、こういう考え方で世界に臨んでいた外交家がいたことは知っておいた方が良いと読んでいて思った。



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