ただこれはこれとして考察すべき大きなテーマであるし、彼らの言動やネタニヤフ政権、あるいはトランプ政権やアルゼンチンに成立してミレイ政権などもまたこうした観点からも見直してみたいとは思う。反知性主義やポピュリズムはいわゆる知性や合理性を運動の基礎にしているのではないとしたら、何が基礎なのかということは考えられるべきだろう。特に強硬的な右翼層を支持基盤にしてしまったネタニヤフ政権の殲滅作戦・民族浄化行動などは実際に何をやっているかだけでなく思想的背景と、そうした層を政権に取り込むことの危険性など様々に考えなければならないことはあるのだろうと思う。
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これらのことについて考えながらもう一つ思いついたのがハマスのことだが、ハマスのようなイスラム過激派組織、他に例えばアフガニスタンのタリバンやイエメンのフーシ派もそうだが、彼らは単なるテロリスト集団ではなく、政治的目的の実現にテロ行為を行うことを躊躇しないという特徴を持ってはいるが学校や病院なども持っているある種の統治組織でもあるわけで、人道問題以外では国際社会との関わりがないので実態が見えにくいが普通にイスラム世界の民衆に支持されている社会組織でもあり、フーシ派やタリバンは準国家組織でもあるわけで、ハマスもそれに近い。
ただ国際社会から彼らが「国家」として認められないのは女子の教育禁止などにみられる極端な政治的主張(宗教が背景にはあるが)や先に述べたように通常の軍組織だけでなくテロ行動も行うことにあるわけで、恐らくは19世紀以前に彼らのような存在があったら普通に国家的勢力として認定されていた可能性はある。まあ一時的なものにとどまったらスーダンのマフディや中国の太平天国のように反乱者の定義で終わったかもしれないが。タリバンなどはかなり長期的に「政権」を維持しているわけで、普通のテロリスト集団と見たら対処を見誤るだろう。
もちろん、普通の国家であってもテロ行為に近いことをやらないわけではなく、アメリカがキューバのヒッグス湾で亡命キューバ人を使って侵攻を仕掛けたり、ピノチェト政権をひっくり返したりなどの工作もするし、「汚い」と言われるような手段を使わないわけではない。日本も中国や韓国に対して閔妃殺害事件や張作霖爆殺事件などを仕掛けたこともある。現代においてはより巧妙にはなってきているが、ロシアがウクライナで反ロシア政権が成立したのはアメリカの陰謀だと主張するようなことは、全く妄想だとは言い切れない面があるのも事実だ。
近年、特に日本に対して仕掛けられてきた国家的なテロリズムといえば、もちろん北朝鮮による拉致である。北朝鮮も曲がりなりにも70年以上「国家」の形を維持してきてはいるが、ラングーン事件や大韓航空爆破事件をはじめとして様々なテロ行為を行なってきている。
ハマスがイスラエルに対して仕掛けた10月7日のテロリズムはこうした北朝鮮の行為とどこが本質的に異なるのかといえば、北朝鮮はとりあえずは隠密理にそれを行なっているということで、ハマスや日本郵船の輸送船を乗っ取ったフーシ派はそれを誇示する形で行っているということだけだろう。
国家は暴力装置であるということは昔から言われていることだが、ハマスと北朝鮮の違いを明示的に明らかにすることはそんなに簡単ではないような気もする。いずれにしても、国家あるいは準国家組織であればそうしたテロ行為が正当化できるというわけではなく、もちろんハマスのテロ行為も強く非難されるべきことだが、国家論的には結構難しい問題もあるのではないかと思ったのだった。
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なんか外が暗いなと思ったが、曇っているわけではなく、霧が出ているようだ。天気の予想は晴れである。