12.「2.5次元の誘惑」第138話「何者」を読んだ:やりたくてやっている人と何者かになりたくてやっている人/作品に必要な批評とエンタメに必要な感想、それらを支える「解釈」(05/27 10:33)


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だからと言って暴走した例が「日本画」の発表で自分がコスプレしたものを作品として提出した例として示されているが、例えば今日ニュースにあった「これが自分だ」と思って全ての商業看板を青に塗りつぶして逮捕されたりするのもまた、そうだろう。こう言うのはバンクシーや路上アートなどと紙一重のところがあるから難しくはあるのだけど。

アートや学問というものは、「やりたくてやっている人」と「何者かになりたくてやっている人」の両方がいる。後者は割とハードモードだと思う。「これを知るものはこれを好む者にしかず。これを好むものはこれを楽しむ者にしかず。」と孔子がすでに言っているのだけど、他の目的のために取り組んでいる人は、それをやりたくてそれ自体が楽しくてやっている人には及ぶことはできない、と言う残酷さはある。

「何者かになる」ことを目指すにしても、例えば「麻原彰晃」になるよりは何者でもない人の方がマシだと思うけれども、そうでもない人たちが東京新聞の記者になったり猟友会に入る気もないのに猟銃の許可を取ったりする、と言うことも世の中にはあるのだろうと思う。そこに社会への迷惑や悲劇の芽が含まれていても、止めることはできない。

私などは「やりたいことしかやれない」のに、それにすぐ飽きてしまうという最悪のパターンで、それで才能があったら「万能の天才」なのだがそうでないと「器用貧乏」でしかない、と言うことになる。こなせてればまだいいのだけど。「何者かになりたい」と言うことは考えたことがあったけれども、これはつまりはある種の競争に勝つと言うことなので、私のような飽きっぽい性格だとそこまで執念を燃やすのは難しい。食べていくために身につけたスキルというのは結局人に何かを教えることとこうやって文章を書くことくらいなのだけど、これらは元々好きだからできたことで、なかなかどちらもそううまくは行っていない。

再度中身の話に戻ると、リリサは本音として、先輩=奥村のことが好きだ、というのがある。そしてそれが自分のコスプレへの思いと合体してしまっていて、うまく整理ができない。奥村への想いは今まで上手に隠して来たけど、もう隠せなくなった。コスプレへの想いが自動的に奥村への想いに回収されてしまう悪循環。いや、悪循環というにはあまりにも美しいのだが。

もう一つ、コメント欄などをみていて思ったことなのだけど、マンガは作品=アートでもあると同時にエンタメでもあるから、「作品」には「批評」が必要なんだけど「エンタメ」に必要なのは「感想」なのだよな、ということ。

アート論や作品論が展開するからそれを期待する人はジャンプラの感想コメにエンタメとして読んでる人たちのヒロインレース的な感想が並ぶのを嫌がるコメをよく見るのだけど、「にごリリ」という作品にとってはどちらも大事なコメントなのだと思う。

リリサ自身が作品を作りたいという想い、アート的な感情を強く持っていると同時に、奥村を自分のものにしたい、自分だけのものにしたいと言う強い感情を持っていて、(その恋愛感情というのはエンタメの王道なのであって、)その強さが今のみんなの関係性を壊すものだということに気がついて恐れている。みかりの奥村に対する感情の強さも知っていて、奥村にふさわしい人は自分ではないという半ばコンプレックスのようなものも持っている。読者から見るとリリエルオタクとしての息の合いぶりは他にないものがあるのだが、視野が狭くなっているから見えなくなっているのだろう。

コスプレへの想いは奥村に出会う前から強かったのだけど、奥村に出会ったことで夢が実現する方向へ大きく走り出し、また奥村の人間性に触れて強く惹かれるようになったわけで、ただその思いと向き合ってこなかったからコスプレへの想いと奥村への想いが整理できずにパニクっているということだろう。

書いていて思ったが、私が今書いてるのは批評でも感想でもなく「解釈」だなと思う。解釈の仕様は他にもあるだろうし、そこで「解釈違い」が発生する。私が書いてる解釈はたくさんあり得る解釈の一つなのだが、まあこれを元に自分は感想や批評を持つわけで、解釈はどちらにとっても重要だなと思った。

まあだから私の解釈に基けば次の展開はリリサが奥村への想いとコスプレへの想いをどう整理するかという話になるわけだけど、多分これはユキ自身のコスプレないしアートへの想いとエリカへの想いの葛藤とシンクロした問題なのだよな。ユキは自分のアートへの想いのために、エリカとの関係を切ろうとしているのだと思うので、おそらくリリサに対しても奥村への想いを切るような方向でアドバイスしてくるような気がする。

でもリリサにとってはどちらも大事なものなので、それはできない。「天乃リリサは欲張りなんだ??てへっ」と推しの子パターンで言い切れる強さがあったら苦労しないが、その辺は多分、奥村への想いとコスプレへの想いをどこでバランスを取るか、みたいなところで落ち着くような気がする。そうなるとユキも切り捨てることでなんとかしようとして来た自分を振り返って、エリカとの関係を見直して修復する、という方向に行くこともあるような気はする。


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