12.「2.5次元の誘惑」第138話「何者」を読んだ:やりたくてやっている人と何者かになりたくてやっている人/作品に必要な批評とエンタメに必要な感想、それらを支える「解釈」(05/27 10:33)


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5月27日(土)晴れ

ジャンププラスで「2.5次元の誘惑(リリサ)」第138話「何者」を読んだ。ほぼ1ヶ月ぶりの本編の更新で、長い間楽しみにしていた人は多かったのだと思うが、明るい展開になるという当初の予想は全く裏切られ、いきなりハードモード全開の展開に、すぐには受け入れられず戸惑っている感じが感想コメント欄やTwitterでの感想などにぽつぽつと現れていて、ああそう思ったのは自分だけではなかったのだなと思ったのだが、いろいろ考えながら他の人の感想など読んでいるうちに、ここはまあ読者として受け止めなければならない展開なんだなと腹が据わってきた感じがある。といえば大袈裟なんだけれども。

https://shonenjumpplus.com/episode/4856001361266868108

これから書くことは上の回の連載だけではなくて、この作品をずっと追いかけてきている人でないと通じない部分が多い、というかマンガの感想などというものは全てそうなのだけど、ただ一応普遍的なこともあるのではないかと思う。ただ恐らくは読みづらい部分があるとは思うので、その辺一応お断りした上で。

一番最初の感想は、やはりいきなりハードモードの突入したことへの戸惑い、ということで、次に思ったのは、エリカのユキへの誘いの言葉、「私の作品になってくれない?」というのは「残酷な言葉」だな、ということだった。作品へのこだわり、自分が「何者」かになるために必死で足掻いてきたユキに対して、「私の作品」になってくれ、というのはハードな申し出だな、と思ったのである。

しかし、感想をいろいろ読んでいると、ユキはエリカに救われた、と思ってる人が多くて少しびっくりした。もちろん、そういう部分はないとはいえないけどそこから自分の世界でなくエリカの世界を生きることになってしまったわけで、それはそれで楽しかっただろうとは思うけど、そうであればあるだけエリカの凄さと自分が自分の世界を作れてないことの辛さが明らかになって来てしまう。

「モデルとして生きる」は一つの生き方で、実際みかりはそのように生きているわけだけど、ユキは「アートをやりたい」のであって「アートになりたい」わけではない。「アートになりたい」モデルたちもたくさんいる中で、自分の生き方に中途半端さを感じて、一度エリカを離れたい、と思ったのではないかと思う。

それにしてもガンとして口を割らないエリカがリリサのために自分の苦しい過去を告白し、自分のようになるな、他人の世界を生きるなと言うのはなんと言うか熱い展開だ。少年マンガはこうで無くっちゃと言う感じなのだが、ヒロインレースとして読んでる人には何が何だかわからない話が複雑になって来たなと言う感じはするだろうなと思う。

エリカがエリカの側から見たコスプレや淡雪エリカ像、コスプレ作品を作る側の気構えを語り、ユキがコスプレを「する」ないし「させられる」側の気持ちを語る。ただアイデア豊富なリリサと何者かになりたいと足掻いて来たけどまだ自分が人の作品でしかないと思ってるユキとは違う。この辺、この話がどこに着地するのか見えないところがあって、まだ先がわからない。と言うか、今回の展開は前回のラストからは想像もつかない展開になってて、思いがけないハードモードで頭と心がついていけない感じがあった。

こうやって書いているうちに「意味」は見えて来たけどみかりはどうなる?リリサはどうなる?エリカとユキの関係は?リリサが「ただ一人の先輩」との関係が「ただの後輩の一人」と言う思いから抜け出せるのか?と言うとても多層なテーマがどのように着地していくのか、どんどん話が大きくなったまま放り出されていて、読んだばかりなのに続きを読みたい。

でも逆にいえば大きないろいろ絡み合った話だからこそ小さく区切られることでこんなふうに考えられるのかもしれない。私が「にごリリ」を読み始めたのは冬コミのあたりから断続的に読んでこれは面白いと思って最初から読んだのだけど、一気読みは面白いのだけどやや消化不良の部分も残って、何度も読み直している。特にジャンプラの各回の感想はとても参考になる。2週に一度の連載のペースが多分この作品を消化していくには良いペースなんだろうなと言う気はした。

エリカさんはいい人なのだけど、天才の意識せざる傲慢さみたいなのが周りを引っ掻き回してしまうタイプなんだよなと読んでいて思った。でもそのスパルタについて来てる奥村とリリサも凄い。何がどうなるかまだ見えないけど読者は二人の未来を信じるしかない、みたいな。どう言う未来を描いてくれるかはまだわからないわけだけど。

今月の「ブルーピリオド」を読んでも思ったが、アーティストであると言うことは大変なこと、と言うかむしろ業のようなものかもしれないと思わされる。

ユキがリリサに言う、「他人の世界を生きるな」って本当は言うほど簡単なことではない。ツイッターにわらわら湧いてくるエピゴーネンもそうだけど、人は他人の「思い」に囚われたり縛られたりもする。大事な人の思いなら尚更である。


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