1128.アゼルバイジャンはなぜアルメニアに勝ったのか(11/12 10:36)


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ナゴルノ・カラバフ紛争は1980年代末からずっと継続していて、険しい山地での争いでもあり解決が見えない紛争でもあったが、アゼルバイジャンが「歴史的勝利」を収めた( https://www.jiji.com/jc/article?k=2020111001136&g=int )ことは、主に日本語メディアによって観測していた私にとってはかなり意外なことだった。それで関連していろいろなことを調べたのだが、そのことについて書いてみたい。

メインとして読んだのは清水学「アゼルバイジャン外交と非同盟主義 ーイランとイスラエルの狭間ー」(中東レビューvol.6 2018-19)で、この論文をDLして読んだ。( https://www.jstage.jst.go.jp/article/merev/6/0/6_Vol.6_J-Art02/_html/-char/ja )

これまでのところでもあまりよく知らなかったアゼルバイジャンについて、いろいろな疑問が解決できたとともに、アゼルバイジャンについてのイメージがだんだん明確になってきた。

ここのところ、アゼルバイジャン が注目されるようになったのはもちろんアルメニアとのナゴルノ・カラバフをめぐる戦争によってであるわけだが、キリスト教アルメニア正教のアルメニア、イスラム教シーア派・12イマーム派のアゼルバイジャンという以上のことは知らなかったし、旧ソ連の引いた線引きが紛争の元になっていること、アゼルバイジャン自身がナヒチェバン自治区と領域が二つに分かれていて、アゼルバイジャン国内のナゴルノ・カラバフがアルメニア人の多数居住地域であること、くらいしか知らなかった。

ここでこの論文を読み、また関連して調べたことなどを元に、私なりにアゼルバイジャンについて理解したことを書いてみたい。

アゼルバイジャンはザカフカス地方、つまりコーカサス(カフカス)山脈の南側で、北がロシア連邦、西がジョージアとアルメニア、南がイラン、東はカスピ海に面しているという場所で、交通の面でも資源の輸送の面でも軍事的にも要衝であり、つまり地政学的に重要な場所だ。そして首都バクーは原油の生産地でもあり、沿岸のカスピ海では天然ガスも産出する。民族はトルコ系のアゼリ人で、宗教はイランと同じイスラム教シーア派の12イマーム派だ。歴史的に言えばカージャール朝ペルシアに支配されていたのが 1828年のトルコマンチャーイー条約でロシア領となり、このときにアゼルバイジャン南部はイランの支配下に残り、アゼリ人はイラン北西部の主要な少数民族になっている。

ロシア革命後はソビエト連邦の構成国となったが、ソ連成立前の1918年に一時独立しており、現在もアゼルバイジャンでは独立年を1991年ではなく1918年としているのだそうだ。ソ連崩壊直前にはアルメニアとの間でナゴルノ・カラバフ紛争が起こって、ナゴルノ・カラバフはそれ以来アルメニアに実質的に支配下に置かれてきた。

周辺諸国との関係でいうと紛争以来関係が良かったのはトルコだけなのだが、近年はアルメニア以外の諸国との関係改善が続いている。特に南のイランはイラン領内のアゼルバイジャンと連合する動きがソ連崩壊後に起こったためにギクシャクした関係になっていたが、近年は関係改善が進んだ。

一方、イランを敵視するアメリカと、アメリカを背後にしたイスラエルとは良好な関係を続けてきていて、BTCパイプライン(バクー・ジョージアのトビリシ・トルコのジェイソン)を経由して他の中東諸国から原油を輸入できないイスラエルに原油を輸出し、一方でイスラエル産の兵器を多数導入してきた。

今回のナゴルノ・カラバフにおけるアゼルバイジャンの圧勝と言っていい勝利は、このようなアゼルバイジャンの地道なバランス外交と軍事強化の賜物と言っていいのだと思う。

この論文の注目点は表題の通り「非同盟主義」なわけだが、1961年に25か国で設立された「非同盟運動Non-Aligned Movement NAM」は米ソなどの大国との同盟関係を持たない国々で構成され(従ってNATO加盟国であるトルコは参加していない)、冷戦時には第三勢力の一つの核としての役割が期待されたわけだが、その意味で冷戦終結によってその重要性が失われるかと思われたが、1991年に102であった加盟国は1918年には120となり、国連加盟国の3分の2を占めるまでになっている。このあたり日本ではほとんど報道されないが、非同盟運動がアメリカ一強体制が成立したのちも存在価値を失っていないことが看取される。


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