1126.「感染拡大を防ぐ」とは、「感染経路を物理的に遮断する」ということ。(11/19 13:27)


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岩田健太郎「丁寧に考える新型コロナ」読了。

<画像:丁寧に考える新型コロナ (光文社新書)>
丁寧に考える新型コロナ (光文社新書)
岩田 健太郎
光文社
2020-10-23



ファイル2までは前回に読んだ内容、思ったことなどを書いたので、あとの残りで思ったことをまとめて書こうと思う。

今この病気に関して最も重要なことは何かといえば「新型コロナ感染症の感染拡大を防ぐ」ことだ、というのは共有されていると考えていいのだろうか。この病気の罹患した場合の致死率は0.5%であり、今のところ有力なワクチンは実用化されていないし、治療薬も実地での治験を積み重ねている途上であるということもあり、「ヤバイ状況」であることに変わりはない。もし日本人1億人が感染したら50万人が死ぬ計算になる。これは西浦博さんが言った「何も対策しなければ42万人死ぬ」というのに近い数字になる。

だから基本は「感染拡大を防ぐ」ということが今現在最も求められていることになる、という判断は医学的には正しいと思う。

そして、「感染拡大を防ぐ」というのはどういうことかというと、つまりは「感染経路を物理的に遮断する」ということが、パスツール以来の感染症医学の基本中の基本ということになる。

新型コロナの感染経路は主たるものが飛沫感染であり、従となるのが接触感染である、ということのようだ。ということは、「飛沫が他者に飛ぶのを防ぐ」ことを主に、「危険なものに接触しないようにする・消毒する」のが従ということになる。

で、飛沫が飛ぶのを防ぐ最も望ましい対策が「距離を置く」ことであり、1mでもないよりはいいが、2mならなおいい、つまりソーシャルディスタンスが基本になるということのようだ。

次に有力なのが「マスク」で、これは感染のリスクを低減することは確かだが、完全ではない。これはたとえば「雨の日の傘」のようなもので、稀にぽつ、ぽつ、と降ってくる程度ならあまり傘をさしても意味はないが、本格的に降ってきたらさした方がいい。そして、さしたら絶対濡れないかというとそんなことはないわけで、マスクをしても感染のリスクはゼロにはならない。マスクはその程度のものと考えた方が良さそうだ。

最強なのがロックダウンで、これは外出を禁止するわけだから完全に感染経路が遮断される。これはどの国の例を見ても必ず感染は減る最後の手段だということだ。しかしもちろん経済的な打撃は大きいので、この扱いが難しいというのはその通りだと思う。緊急事態宣言の出し方については日本の政策決定システムが「ステイクホルダーが集まって議論をつくし、出し切った後で決を取る」という不満が残らない形にこだわりすぎて、必要な時に迅速にロックダウンできず、その結果感染が拡大してしまうために切り上げる時も遅くなり、長期間になってしまったという反省点が書かれていた。

ゾーニングの問題も同じことで、感染経路をいかに断つか、そしてそれをいかにしたら日常的に行えるように簡便化できるかが重要になるわけで、ただこれは日本に経験者は少なく、ダイヤモンドプリンセス号ではそこを失敗したと岩田さんは主張している。

感染が拡大しているか縮小しているかは実効再生産数が1より下か上かによるわけだが、日本の場合は緊急事態宣言の前からすでに中国からの入国が禁止されたり連休の人出に対する危機感が言われたりして実質的な自粛が始まっていたので宣言前に1以下になっていたが、大事なのはこれを1以下に維持することであり、そのためには必要だったという見解だ。もし2週間程度早ければもっと短くて済んだという見解だが、日本のシステム上それは難しかったということのようだ。

これは新型コロナとは少し関係のない話だが、日本の近代医学はドイツから輸入されたわけだけど、そのためにドイツでの診療科の考えがそのまま輸入され、日本の医学は「臓器別」に診療科が立てられるようになったのだそうだ。消化器内科とか循環器科とか呼吸器科とか。それがアメリカの影響で新しい診療科が立てられるようになったのは21世紀になってからで(これは何か法律の改正とかもあった気がする)、感染症専門とか悪性腫瘍専門とか緩和ケアという専門ができたのは最近のことなのだそうだ。


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