9.書くことによって見えてくるもの/関係を切るときに自分の存在を重く感じさせること/きれいな世界で生きていたい(03/01 14:35)


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【関係を切るときに自分の存在を重く感じさせること】

『週刊漫画Times』も、いくつも面白いものはあるのだけど、書きたいと思ったのはデリヘルのドライバー(女性)を主人公にした『デリバリー』のことになった。『ギャングース』とかもそうだけど、どうも社会の裏側のどろどろした感じ、みたいなところを扱った作品について、書きたいという意欲がそそられるのはなぜなんだろうかと思う。

正直そういう世界は苦手だし、できれば避けて通りたいと思うのだけど、でもやはりそういうところにも「生きているということの本質」がさらけ出されているということは確かだから、好き嫌いというよりも、そういう本質性にひかれて行ってしまうということなんだろうなと思う。

<画像>エソラゴト 1(ガンガンコミックスONLINE)
usi
スクウェア・エニックス

作者はusiさん。イラストレーターであり、マンガ家でもある。柔らかい、なんと言うかある種のアニメ絵なのだけど、柔らかく大人の世界を表現することができるように頭身を長くとっているのだろうと思う。(上の作品はアダルト系ではないけど、そっち方面の方が作品としては多いようだ)

この作品はデリヘル嬢を送迎する女性ドライバーが主人公なのだけど、何人もデリヘル嬢が出てきて、本当の主人公は彼女たちだろう。その彼女たちの生態と言うか生き様みたいなものを、サポートするドライバー(護身術や体術にも優れている)の立場から描いているという感じだ。

今回のデリヘル嬢は、客との関係が深くなり、その男から「デリヘルはやめられないのか」と言われている。

そういわれて彼女は、「借金があるしやめたら追い込まれたりあなたの実家に押し掛けたり迷惑をかける」と言う。

彼女を救い出さなければ、と思った男は、デリヘルの場所を突き止め、押し入って強引に彼女を連れ出そうとして主人公に取り押さえられる。

「借金につけ込んで彼女は食い物にされている」と思い込んでいた男が、そこで聞かされたのは、「抜け出すなら彼女らはいつでも抜け出せる」という話だった。もし借金を方に食い物にされているというのが現実だとしても、警察に駆け込めば業者は営業できなくなるから、そんなリスクの高いことはしない、という話だった。

ならなぜ彼女はそんなことを言ったのか、といぶかる男に、主人公は「あなたとの関係を重く感じたから借金という理由を付けて切ろうとしたのだ」と言う。「脅されていると言えば男は手を引くだろうと思って言ったんだ」と。

つまり、結局本気になってしまった男の独り相撲で、上手く切ろうとして理由を付けた嬢の意図が裏目に出てそういうことになった、という話だったわけだ。

まあよくある話と言えばよくある話なのだが、「風俗嬢はみな借金の形に搾取されている」という良識の立場からのみしか見えない人には、風俗産業を正当化しているのではないかという風にも見えるだろう。というか私は一読したときにはそう思った。

ただ、この辺りのところは本当に微妙で、実際彼女たち自身にしてもまずいと思いながらずるずる続けている人もいるだろうし、とんでもない男に引っかかってやらされている人もいるだろうし、割とさばさば割り切ってやっている人もいるんだろうと思う、現実には。

「遊女は客に惚れたといい 客は来もせず又来るという」というのは浪曲だが、基本この世界は虚々実々なんだろうと思う。

つまりこのマンガでは、「風俗嬢は搾取されている」という「神話」(搾取されてないとはもちろん言えないので「」をつけておくけれども)を利用して、「自分と付き合うとあなたに不利だから分かれた方がいいよ」というメッセージを送ることで「関係を切りたい」という意志を実現させようとしているわけだ。

しかし世の中には、困難であればあるほど燃える、という人もいるので、話はそう簡単には済まない。言う相手に言い方を間違えると、このマンガのようなことが起こるわけだ。


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