40.美しい男とはどういうものか:橋本治『美男へのレッスン』を読み始める(03/11 22:42)


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私はこういうところに橋本の作家としての力量と魅力を見るのだけど、それは一言で言えばどういうことか、ということを今日考えていて、つまりは「知的で、シニカルだけど、あたたかい」ということだと思った。私が面白いと思うのは、まず「知的である」ということだなと思う。まあ「感覚的である」でもいいのだけど、やはり「知的」な部分がないときついなと思うところはある。帰りにiPhoneで『ほぼ日』の対談を読んでいて、糸井重里という人はつまり、「知的で、いい人ぶっているけれども、あたたかい」人だなと思った。まあつまり、橋本よりは糸井の方が人が悪いのだ。これはまあ糸井という人の方がある意味芸が多いというか、「知的で、悪ぶっているけれども、あたたかい」ということも平気で出来る人なのである。ということはつまり糸井の方が「大人」であり、橋本の方がいくつになってもいたずらっぽい「少年」であるというふうに言ってもいいのだと思う。

まあ上の3点セットを読んで、「知的」と「あたたかさ」はいいが真ん中の「シニカル」とか「いい人ぶってる」とかはあれなんじゃないか、「知的で、いい人で、あたたかい」がベスト、と思う人もいるかもしれない。しかし、知的でいい人、というのはありえない。「知的である」ということは、ある意味「容赦のない」ことであるので、「いい人である」こととは両立しないのである。知的な切れ味のよい「いい人」はまあ概念として両立するまい。

まあつまり、「知的である」というのは本質的なことであり、だから「感性的である」とかと入れ替えてもいいのだけど、「いい人である」というのもある意味での本質であるから、相容れない本質同士が両立することはまあないわけではないだろうけどその分葛藤が強くはなる。また、「あたたかい」というのはあたたかくする、ということであって、やはり自らそうあろうとしている、その道を選びとっていることであるから、ある種の方向性だと考えてもいいのだろうと思う。だから「知的で、シニカルで、暗い」とか、まあ作家にはいろいろタイプがあるだろうが、本質的には知的であるか感性的であるのがまあだいたい好きな条件で、(その2つは両立しうる)方向性としては、やはり「あたたかい」ものを目指している、書こうとしている人に共感する。

その真ん中の「いい人ぶってる」とか「シニカルである」というのは何かというと、まあつまりそれが芸であり、芸風だ、と言っていいのだと思う。だから真ん中を入れ替えてみれば、「知的で、リアリストだけど、あたたかい」とか「知的で、理想家肌で、あたたかい」とかもあり得るようになる。「感覚的で、描写力があって、暗い」とか、「感覚的で、描写力があるけど、何も考えてない」(志賀直哉とかちょっとそういう感じがする時がある)とか、「感覚的で、理想家肌で、自滅する」とか、まあそういう破滅型天才みたいな(三島とか太宰とかか)本質、芸、方向性を持っている人もあり得る。まあこの3つの軸で見る考え方って結構面白いかもしれない。

まあそんなことを電車を降りてから家に帰るまでの間考えていたのだけど、「知的で、シニカルだけど、あたたかい」なんて作家の王道のような気がするのだけど、やはり日本では多分少数派なんじゃないかなと思うし、日本の文学ってもっとドグマ的な部分が結構強いから、橋本のような知的な小説家はやはり異端になってしまうんじゃないかなという気がする。

今日、丸善で本を調べていて、橋本の著作が思ったよりたくさん書棚に並んでいて驚いたのだけど、でもまあ日本で主流になる作家というのはやはり何らかのドグマを持ってる人が多いような気がする。

まあちょっと議論が中途半端になったが、私はそういう作家が好きなので、なかなか私が面白いと思う小説というのは数がないし、むしろ海外の作家の方にそういう人が多いのは、まあちょっと残念なことでもある。自分の面白いと思うものを世の中に広めていくためには、まあつまり自分の面白いと思うことを売り込んでいくしかないんだろうなと思う。

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今日は3月11日。震災から2年。黙祷の時間は気付かずに通り過ぎてしまったけれども、震災のことを考えていてちょっと涙が出てしまったりはした。被災された方々をはじめとして個人にとっても、日本全体にとっても辛い耐えがたい体験であったけれども、希望がないというなら希望を作ってしまえばいい、ということをテレビで言ってる人がいて、本当にそうだなと思った。どんなに大変な状況の中でも、生きて行かなければならないし、そして生きていくためには希望が必要なこともある。なければ作ればいい。まさにそうだと思った。


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