40.美しい男とはどういうものか:橋本治『美男へのレッスン』を読み始める(03/11 22:42)


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【美しい男とはどういうものか:橋本治『美男へのレッスン』を読み始める】

<画像>美男へのレッスン 上巻 (中公文庫)
橋本治
中央公論新社

丸善丸の内本店で橋本治『美男へのレッスン』上下(中公文庫、2011)を買った。ついでに文房具のコーナーを見たら、今まで丸の内店では売っていなかった原稿用紙ノートを売っていたのでそれも買った。帰りにM'sでビーフシチュー弁当を買って帰った。昼にカレーを食べたということをなぜ失念したのか、夕食を食べながら不思議に思ったのだが。

最近、橋本治という作家の自分の中での重要性を再認識していて、でも実はそんなにたくさん読んでいるわけではないので、橋本の本の中で今読んで一番面白そうなものを買おうと思っていくつか立ち読みしてみて一番面白そうだったのがこの『美男へのレッスン』なのだが、うちに帰って読み始めると思った通り、というか思った以上ににやにやゲラゲラクックッという感じの始終いろいろな種類の笑いが込み上げる本だった。現在上巻95ページまで。Lesson22まであって今のところLesson3まで読み終わったところ。

美男とはいかなるものか、という「難問」に橋本がああでもないこうでもないと言いながら主にトニー・カーティスを軸に話を展開している。私はこの俳優をよく知らないのでネットで検索しながら読んでいるわけだが、他にもルドルフ・ヴァレンティノや歌舞伎の市川寿海などについても論じられていて、例によって教養に満ち溢れた橋本の縦横無尽の評論芸が展開されていく。

例によって橋本は美男とは何かということについていくつかテーゼを上げていくのだが、論証の中でしょっちゅうそのテーゼを改変していくので、いちいちそれを真に受けていてはだめなのだ。にやにやしながらそれを読まなければならない。で、美男とは何かということなど、実は「どうでもいい」ことなので、(いや美輪明宏とかはものすごく真剣にそれを論じているけど)そのテーゼは実にそれぞれが魅力的でばからしいのである。

一番面白いと今のところ思っているのは、人間は自分に似たものを求める、というテーゼである。だから男の思う美男と女の思う美男は違う。男は美男に逞しさを求めるが、女は美男に女のようにやさしい顔をした男を求める、という主張だ。これはなるほどと納得した。BLが流行るのもやはり基本はそういうところだろう。極端に言えば男の理想の美女は歌舞伎の女形であり、(ゲイバーなどでも実際の女性にはこんな理想的な女性はいないだろうなあと思うような人がいたりする、いやゲイバーというところに行ったことは今まで一度しかないのだけど)女の理想的な美男は宝塚の男役だというわけだ。

まあそんな感じの議論がどうでもいい感じの真剣さで展開されていき、読む側は終始にやにやしながら自分を振り返ったりしつつも読んでいくわけだ。何しろ橋本が言うように、女性のほとんどは自分を美女ではないと思っている(しかし醜女だと思うのもつらいので、「普通の女」という概念を発明し定着させたというテーゼもまったく橋本らしい辛辣さでおかしい)が、男性のほとんどは自分を美男だとどこか妄想している(だから男に関しては「普通の男」という概念は未発達)からだ。それはまあ、わかる気はする。

まったくこの人の議論は、知的で辛辣、シニカルなのである。しかしその全体を冗談めかすことにより、また「若くて力のない美男」に対しむしろ同情的な視線さえ送る、したたかで侮れないやさしさの持ち主なのである。


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