4.村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』(講談社文庫)を読みました。(10/02 11:17)


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村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』(講談社文庫)を読みました。

<画像>風の歌を聴け (講談社文庫)
村上春樹
講談社

正直、思っていたよりずっと、面白かったです。何となくイメージとして、難しいことを言ってるんじゃないかとか、あるいは逆にお洒落すぎることを言ってるんじゃないかとか、まあ以前私が村上春樹さんに対して持っていたイメージがあって、特に初期の作品にはあまり手を出していなかったのですね。

私が読んでいるのは長編では『ねじまき取りクロニクル』(1992-95)以降。「アフターダーク」は読んでいません。短編集では『中国行きのスロウ・ボート』、『蛍・納屋を焼く』、『レキシントンの幽霊』、『神の子どもたちは皆踊る』、『東京奇譚集』、『めくらやなぎと眠る女』『女のいない男たち』を読んでいます。それから、数年前に映画化されたのを見たあと、『ノルウェイの森』(1987)も読みました。

ですから、長編の初期の作品がすっぽり抜け落ちていたわけです。

1980年代前半、私が高校から大学に通っているころ、村上春樹という名前はどちらかと言えば「お洒落で車とか乗り回して女の子とデートしている人たち」、が読む作家というイメージでした。同じような傾向の作家と見られていたのは例えば片岡義男さんであり、また今回読んで見て思いましたが、『風の歌を聴け』には沢山のアメリカのミュージシャンや曲の名前が出てきますが、そういう意味で言えばカタログ的で、そういう意味で言うと田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』にも共通するものがあります。『なんクリ』は当時、小説なのにたくさん注がついていて、お菓子屋の名前だとか制服のかわいい女子高の名前だとか、そういうディテールについてすごく詳しくなれるという配慮?がなされていました。当時、マジメ(社会を憂う)系の男子大学生の間では田中康夫さんは蛇蝎のごとく嫌われていましたが、村上春樹さんはそれほどではなくてもやはり自分たちとは縁のない世界、まあ荒井由実さんの音楽などに共通しますが、そんな感じだと思われていました。

私は文学クラスタ(高校で文芸部に入っているような)ではなかったし回りにそういう人はいなかったから、文学をやっている人たちがどういう風に感じていたのかはあまりよくわからないのですが、私の回りはどちらかと言うとそういう「社会科学系」の人が多かったので、ちょっとそういうところに影響されて、村上さんの作品を読もうという感じはありませんでした。

村上さんはその後『ノルウェイの森』でブレイクし、いわば社会現象化しましたが、上下巻で緑と赤と言う単行本の色からも「クリスマスプレゼント向け」というレッテルが貼られていた覚えがあります。ずっとあとになって読んでみて、内容はとてもそんなものではない(笑)と思いましたが、自分の中ですごく長い間固定観念があったのですね。

それが変わったのはもう21世紀になってからのことで、2006年。初めて読んだのが「スプートニクの恋人」でこれはあまりピンと来なかった。感想がこちらに残っています。次に読んだのは『ねじまき鳥クロニクル』で、これは異様な感動を覚えました。特に今でも印象に残っているのは、「井戸に籠る」というモチーフです。「井戸に籠るのもアリなんだ」、というメッセージを自分としては受け取ったように思います。(笑)感想はこちらです。 

でも、特に初期の作品に対する「食わず嫌い」は変わらなくて、『ねじまき鳥』以降の作品は読み方がわかった、という感じがあったので基本的には読むようになったのですが、初期の作品は機会がなければ読まない、という感じで、「村上春樹という作家」も「気にはなるけど自分としてはそんなにすごいと思わない」という感じであったわけです。


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