38.守られている感とか美味くてやばいとか/黒人、フランス語、ジャズの三題噺/ふみふみこ「ぼくらのへんたい」の魅力(03/20 17:37)


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<画像>ぼくらのへんたい(1) (リュウコミックス)
ふみふみこ
徳間書店

魅力のある作品とは何か、売れる作品とは何か、というようなことを考えていて、たぶん、文学文学した作品は批評家には褒められてもあまり売れないだろうし、じゃあどんなのを目指せばいいんだろうなあということを考えていたのだけど、やはり「ぼくらのへんたい」は面白い。

昨日ツイッターを読んでて『売れないマンガ家あるある』というまとめを読んでいたら、「新人さんの新連載を読み、それが売れるか売れないかの判断を、編集者が過去のケースを並べて推測しようが、売れっ子漫画家が売れる理屈をいっぱい語ろうが、「あ、ボクにない華があるから売れるね」の一言で瞬時にわかってしまう。で、当たる。で、うらやましい。」というのがあって、なるほどそうだな、と膝を打った。そう、要するにそうなのだ。当たるかどうかは基本的にその作品に「華」があるかどうかだ。石川啄木や太宰治、古くは西行などは、文壇の主流からは外れているけれども今も昔も日本人に愛され続けている、それは他の作者にはない「華」があるからだ。そして批評家はそれをあまり評価して来なかった。

それ(と言っても主に西行だが)を例外的に高く評価し、正当に位置づけようとしたのが白洲正子だった、と私はそんなふうに思ったのだけど、彼女が『両性具有の美』を日本の美意識の中心に据えたのはやはり慧眼だったなと最近では思う。

<画像>両性具有の美
白洲正子
新潮社

ふみふみこの選ぶ題材は性的マイノリティのものが多いのだけど、ホモセクシュアルで禿げの中年教師とか、わざとそういうかわいいけど華という点ではちょっとね、というあたりが多かった気がする。しかしこの「ぼくらのへんたい」はまさに中学生男子、稚児の世代、世阿弥の言うところの「時分の花」の真っ盛りであり、三人の主人公、中一のまりか、中二のユイ、中三のパロウのうち、ユイとパロウは思春期の悩み真っ盛りなのだが、唯一まりかが本当の意味での性同一障害「間違って男として生まれて来た」と確信していて、しかも一番本当にきれいでかわいい。(三人とも男としても美しく、まりかの幼なじみのあかねに「どこのイケメンパラダイスだよ」と言われているのだが)このマンガの華はあれこれあるが、やはりその核になるのはこのまりかの魅力であると私は思う。このマンガは本当に、けがの功名なのかもしれないが、本当の意味で華のある作品なのだ。

華というのは確かに、ジャズおたくと住んでるスケコマシの売れない黒人作家にもあるかもしれないのだが、やはり日本人に受けるのはこの手の華であり、そういう意味ではBLややおいというのは正統的な日本文化をある意味受け継いでいるところがあるのだろうと思う。(まあ表層的な印象はあるけれども)

まあ両性具有の美であるかどうかはともかく、(でも考えてみたら啄木とか太宰とか、最近では村上春樹なども、ある意味両性具有性を持った存在が大きい感じがする)そういう華のあるキャラクターを押し出した売れそうな作品も書いてみたいと思うのだった。



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