30.山岸凉子『言霊』/ホメロス『イリアス』/ラマナ・マハルシ『あるがままに』(05/15 16:16)


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【ホメロス『イリアス』】

<画像>イリアス〈上〉 (岩波文庫)
ホメロス
岩波書店

長いあいだ懸案というかあまり縁がなく感じていたホメロスを読み始めたことは先日ブログにも書いたのだが、そこでも言ったことだが、なぜ今まで読んでいなかったのかと大変残念に思っている。かなり以前になるが、一念発起して谷崎潤一郎訳で『源氏物語』を読んだことがあり、これは本当に読んでよかったと思ったのだが、ヨーロッパの文芸作品でそうした長編もの、特に叙事詩を読もうという気持ちには不思議なことにならなかった。一つには、子どものころからギリシャ神話ものにはかなり親しんでいたこともあり、新たに知っている話を読んでも仕方がないと思っていたことがあったからだろう。

しかし物語というものについて考え始めると、やはり何か自分にとっての源泉になる話をもっと持っておきたいというところが出てきたのかなと思うのだが、そういうものを読みたいという気持ちが出て来た。かなり以前に『神曲』を読み、これは自分にとってかけがえのない記憶になった。それから『ドンキホーテ』なども考えたが、やはりそうした近代的なものよりももっと古典的なものの方がいいという感じもあり、『ルシッド』などを少し読んでみたが何か違うという感じがあって、もうそれはそのまま放置していた。

むしろ『ガリア戦記』など実録物は塩野七生の影響で読んだのだけど、ホメロスに届く回路ができないまま、今までアクセスしないで来ていた。

文芸評論を読もうと思った時に、取り上げられていたのがホメロスで、その内容を知らないとその評論自体が読んでも全く理解できないということがあり、ああいつか読んだ方がいいんだろうなとは思いつつ、内容についての敷居も高く、訳文も最初は難解に感じたため、またしばらく放置していた。

しかし何かの機会にウィキペディアなどを読んで、つまりはこれは吟遊詩人が語るものであり、琵琶法師が『平家物語』を語るようにあるくだりを演じて見せて王侯貴顕や客たちを楽しませるものであるということに気づいて、トロイア戦争という長大な叙事詩すべてをうたったものではなく、そのごく一部をうたったものであるということに気づいて、つまりは逆に物語もそうではあるけれども、叙述そのものを楽しむ作品なのだということに気づいて、読んでみようと思う気になったのだ。

ある意味どう言う作品なのかという性格を理解してから読み始めたせいか、非常に読みやすく、『イリアス(上)』第一歌を読み終わったのだが、それぞれ構成的にも面白く、天上の神々の世界と地上の人間の世界が交響して語られて行く物語は、国譲りから天孫降臨、神武東征に至る古事記の物語を思わせるものがあり、その中でより一層きらびやかに語られて行く、まさに物語の古典といえる作品であると思った。

今のところ解説まで含め454ページ中64ページなのでまだこれからだが、こうした描写の文章に触れて行くことを重ねていくことが、自分にとって滋味ある養分を吸収して行くことに感じている。読むべき時期に読んでいるのだろうと思うが、それがもう少し早く来ればよかったなあとも思う。



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