29.ティム・ボウラー『川の少年』/『十五少年漂流記』と『進撃の巨人』/「少年」をこじらせ続けて数十年:『ランドリオール』『ぼくらのへんたい』『来世であいましょう』(06/12 15:42)


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【ティム・ボウラー『川の少年』】

<画像>川の少年 (ハリネズミの本箱)
ティム・ボウラー
早川書房

昨日、帰郷の特急の車中で、ティム・ボウラー『川の少年』"River Boy"を読み始めた。読み始めてすぐ、それが正しい選択だったことが分かった。この少年向けの小説は、田舎に向けて家族で車を走らせるところから始まる小説だということがわかったからだ。

主人公のジェスは、泳ぎが好きで、得意な15歳の少女だ。頑固者で、有名な絵描きであるおじいちゃんと、お父さんとお母さんと4人で生活している。おじいちゃんは身体が弱っていて、楽しみの一つであるジェスが泳いでいるところをプールに見に来たとき、胸をかきむしってプールの中に倒れ込んでしまったのだ。

それなのにおじいちゃんはすぐに病院を飛び出し、家に帰ってきてしまった。つぎの日からの夏の休暇に、おじいちゃんの故郷へ旅立つことになっていたからだ。60年間、一度も帰ったことのないおじいちゃんの故郷。そこにどうしても行かなければいけないとおじいちゃんは考えていた。そこで絵を描かなければならないと。描きはじめられた絵には、一面に川の水面が描かれていて、そして無題でしか絵を描かないおじいちゃんには今までなかったことに、題名がつけられていた。「川の少年」と――

泳ぎが好きな少女。読んでいて、私はその人のことを思い出した。イルカのように泳ぐのが得意だった。平泳ぎも背泳ぎもクロールも、バタフライでさえも難なくコースを泳ぎ切った。ジェスは、自分のペースにのめり込み、夢中で泳ぐ。ストロークにあわせて、寺宝のように規則的なリズムで息づかいを刻む。泡が唇を小さな魚のようにくすぐる。その人も、泳いでいるときに、そういうことを感じ、考えていたのだろうか。いや、そうではないだろう。あの人はただ泳いでいた。そう、ただ泳ぎ続ける人だった。

ひとつのことに熱中し、何時間でもやり続けられる。それは少年の特徴だ。しかし、ただ好きなだけで純粋にのめり込むだけにはなれないというのが15歳という年齢だ。すでに、忘れてしまいたいことも心に刻まれ、見たくないことも見てしまっている。傷つくことも知っている。ただ好きなだけでなく、のめり込むためにのめり込む、そういう熱中があることも知っている。

繊細な少年の、少女の心。この先の展開は、まだ描かないけれども、ここに広がる世界が自分にとても親しかった、あるいは今でも親しいものであることが私にはわかった。そして多くの人にとっても、思いだしてもいい、あるいは思い出すことができる何かがあると思う。現在86/246ページ。



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