10.コミュ力重視思想(コミュニケーション・マッチョイズム)と「38℃の話」の楽しみかた(01/30 10:25)


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こういうことを書いていると、昨日読んだ記事を思い出す。朝日新聞デジタルで読んだ吃音の看護師が自殺したと言う事件の記事だ。この記事に関してfujiponさんがツイートで「医療業界って、基本的にマッチョなんだよな」と書いていて、そうだろうなあと思ったのだった。

戦場のように忙しい医療現場において、吃音の看護師の言葉が出てくるまで、じっと待ってあげようと思う同僚はあまりいないに違いない。患者の方も、聞いたことにすぐ答えられない看護師では、大丈夫なのか、信頼できるのかと思いがちだろう。しかし、逆に言えば自分の身体が思うようにならない戦慄とともに過ごさなければならない患者たちにとっては、そういうマッチョイズムは心強く感じられるばかりではないだろう。まさに上に書いてきた話につながるが、患者というものは医者から見たら大したことないと思う話をとにかく言いたくて仕方が無いと言うのがある意味普通なのだと思う。

私も父が死の床で入院していたときにお世話になった言語療法士の方が足が不自由で、院内でも足を引きずりながら歩いていたけれども、とても親切ですごく好感を持ったことがあった。医療現場と言うのはむしろ、そういう不自由な部分を抱えた人たちこそが働くのにふさわしい部分が本当はあるのだと思う。

ただ、実際の医療現場では、いろいろとつらかったし、理解もしてもらえなかったと言うことはあったのだと思う。自分がこういう状態だと言うことを言ってこういう風に接してほしいと言っても、そんな面倒なことを押し付けるな、と思う人が多いのがやはり一般的なんじゃないかなとは思う。それはやはり悪気があるわけではなくて、そういうことが分からない、ないしはマッチョ的な考え方でがんばる自分に誇りを持っている人が多い(でなければ医者も看護婦もあんなにがんばれないだろう)から、そうでない人の考えがなおさら受け入れにくいと言うことはあるだろうと思う。

今の社会が、「コミュニケーション能力」を求める、重視する社会にどんどんなってきていると言うこともまた、そういう人にとってはつらいだろうと思う。

就職活動もそうだが、大学入試においてすら、「コミュニケーション能力」がも止められるようになってきた。そして誰もがそのような能力を備えているわけではない。高度なコミュニケーション能力は、ある意味アスリート的な能力(つまり、すべての人が自然に備えている能力ではない)だと言う認識が、十分に共有されていない。つまり企業社会も官僚社会も大学社会も、基本的にはコミュニケーション強者の社会であり、またその傾向は強くなりつつある。吃音のような不利な状態を持っている人だけでなく、38℃の話しかできないような人はある意味コミュニケーション弱者と言うことになり、社会の中で不利なポジションに振り分けられてしまう傾向は強くなっているのだろう。

上にも書いたように、私はどちらかと言うとぺらぺら喋る方なので、口が重い人の前にいくとむしろ緊張したり、萎縮してしまったりする傾向があった。昔の日本人の大人、少なくとも私の周りの大人と言うのは、黙っていると圧倒されるような威厳のある人が多くて、なんだかそういう人と付き合うのが私は苦手だったのだ。現代ではみんなぺらぺら喋ってくれるから、私などにとっては生きやすい世の中なのだけど、誰にとってもそうではないのだなと思う。

ただ、救いなのは、ネットの発達によって、なかなか普段は相手にしてもらえないような話でも、その話で共感し合えるサークルのようなものを作るのが昔に比べるとすごく簡単になっていることだ。

この話、何がどうなればいいのかと言うことの結論を出すのは難しいのだけど、つまりはお互いに理解し合え、配慮し合えるようになれればいいのだと思う。というかまあそういうしかないのだけど、お互いにそういうことにおいてコミュニケーションをとっていくしかない。上に述べたような理由で、コミュニケーション強者=40℃の人はコミュニケーション弱者=38℃の人のことを理解しにくい構造があるし、またコミュニケーション弱者もその事情を主張しにくい構造があるわけだけど、つまりは結局40℃の人は38℃の話もおもしろがれるような人間の幅の広い人が増え、38℃の人でも芸人さんたちのようにコミュニケーション能力を鍛えていくことでその事情を40℃の人の側にも伝えていける人が増えていくことによって、少しはお互いに理解し合えるような場所に日本をしていくことによってしか、誰にとっても比較的すみやすい場所に日本をしていくことはできないんじゃないかな、と思うのだった。


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