10.コミュ力重視思想(コミュニケーション・マッチョイズム)と「38℃の話」の楽しみかた(01/30 10:25)


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昨日たまたまテレビをつけていたら、『マツコ&有吉の怒り新党』をやっていた。その内容が妙に頭に残っていたらしく、朝の寝床の中でいろいろ考えていた。

この番組は日常生活の中で感じた様々な「怒り」を番組に投書し、そのないようについてああだこうだとマツコ・デラックスと有吉弘行がしゃべり、その怒りが妥当なのかどうかを「決定」する、というスタイルのバラエティ番組だ。

昨日読まれた投書の内容は、「会社で話をしていて、38℃の熱が出て大変だった、という話をしていたら、「俺なんかこの間インフルエンザで40℃の熱が出てさあ、と割り込んできた先輩がいた。そんな上の話をされたら38℃の話が続かないじゃないか。腹が立った。」というものだった。

最初は下らねえなあと思って何となく消すでもなく見ていたのだけど、見ているうちにだんだん面白くなってきて、姉妹にはなんだかすごく本質的な話なんじゃないかということが分かってきたのだった。

マツコが「その40℃の話で割り込んだ人の、何が悪いのか分からない」というと、有吉が「38℃の人にも何か話が合ったのかもしれないのだからさせてやるべきだ」というようなことを言って、マツコが「でも38℃って普通じゃない?」そんな話を聞いてもつまらないじゃない、みたいなことを言って、すると有吉が「それはマツコさんには分からないかもしれないね。」と言って、マツコは「そうなの。私は40℃の人なの」と言っていたのが可笑しかった。

だいたい、私にも思い当たることがあり過ぎなのだった。つまり、私も「40℃の人」だったのだ。「だった」というのは、つまり最近、有吉の言うことも理解できるようになったということだ。

「40℃の人」は「38℃の人」の話なんてつまらないから、もっと面白い話をしてあげようと思ってサービス精神で「上の話」をするわけで、基本的には悪い人ではなく悪気があるわけでもない。だからそれをいやがる人がいるというとすごく心外なのだ。疎外感を感じたりする。それは自分もそうだったからよくわかる。

でも「38℃の人」には38℃なりの言いたいことがあるわけだ。私もよく普通に話をしていて自然に話を上の方に持っていってしまおうとし、「聞いてよ!」と言われることがよくある。昔はそういわれると「かったるいなあ」と思いつつ「はいはい」と聞いていた(親の話を「分かってるよ」と思いながら聞くのと似ている)わけだけど、最近はむしろそういわれて聞いてみると「38℃の話」でも結構面白かったりすることが多くなった。これは最近気づいたことだ。

で、ここまでの話で自分が気づいたことをまとめると、大事なことは二つあって、一つは「38℃の話でも言いたいことは言ってもらった方がいい」ということだ。私などはすぐ「38℃より40℃の方が面白い」、つまり「どっちが上か」という「勝ち負け」で、これはそうでない人には分かりにくいとは思うのだけど、ごく自然にそういう思考をしてしまうのだけど、そういう勝ち負け以前に、「そういう話をしたいというその人自体の意思」の「存在」を認めるということがずっと大事なのだ。

これはまあつまり、人にはすべて生きる価値があるとか人権があるという問題にも連想がつながっていくわけだけど、38℃の話がつまらないと自然に切り捨てられることですごく傷つく、怒る人がいるということに、40℃の人は気がつかないということなのだ。つまり、40℃の人にとっては常に「生き馬の目を抜く」社会で生きているという実感があって(マツコがそういってたし私もそういいたい気持ちはよくわかる)、ということはつまり生きる、存在することを許されるためには、常に勝ってないといけない、それが当たり前だという意識があり、そうやって生き抜いてきたということなのだ。

マツコは「(男なら)38℃の話をするんじゃねえよ」みたいなことを言ってたけど、確かに「聞いてほしいなら、遮られたくなければもっと面白い話をしろよ」という気持ちはよくわかった。

ただそういう、「(無意識の)勝ち負けとしてのコミュニケーション」が苦手な、必ずしも得意でない人にとっては、そこで生存に必要な(承認欲求の満たされる)最低限のコミュニケーションも許されないのか、と思ったら「怒り心頭」に達するのももっともだと思う。

二つ目は、「38℃の話の面白さというものがある」ということ。これは私も最近ようやく分かってきたことなのだけど、面白い人は「40℃の話」だけでなく、「38℃の話」をしても面白い。人によっては「40℃の話」よりも「38℃の話」の方がずっと巧みで上手いこともある。だから「38℃かよ、めんどくせえな。俺がいっちょ40℃の話で盛り上げてやろう」と思う前に、まずはその話を聞いた方がこっちも得をする場合があるということだ。(もちろん本当につまらないこともあるが、それは税金というものだ。それにいつも本当に自分にとってつまらない話ばかりする人の話にあえて口を突っ込まなくてもいいわけで)


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