16.「冷戦」とはなんだったのか:資本主義イデオロギー国家であるアメリカと共産主義イデオロギー装置で荘厳されたパワーポリティクス国家ソ連との対立(03/14 06:26)


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ソ連はフルシチョフ・ブレジネフ時代には特にスプートニクショックにはじまる宇宙開発競争においてアメリカに対しリードを保っていたが、こちらはケネディ政権の宇宙開発重視政策で経済力に勝るアメリカが先んじて月面有人飛行を実現するなど、優位を回復していった。ブレジネフ時代にはソ連の経済的停滞も一部では西側にも伝えられるようになり、中国の文化大革命によるイデオロギー的熱狂もやがてその負の側面も伝えられるようになって、中国神話も徐々にメッキが剥がれていく。

このような構造を大きく転換したのはやはりキッシンジャーの中国接近で、これをきっかけに毛沢東は彼の理論による原理主義からパワーポリティクス的な行動に重心を置くようになった。一方ではヴェトナム戦争の解決についてはアメリカには協力せず、アメリカが撤退の動きを見せるとカンボジアに介入してポルポト政権を成立させ、毛沢東理論を独自に徹底したポルポトが自国民虐殺を行うとソ連に近いベトナムが介入したのに対してベトナムを懲罰するために中越戦争を起こすなど、ハンガリーやチェコに介入したソ連と同じような動きをした。

キッシンジャーの中国支持によって起こったこのような変化についてキッシンジャーの責任を問う動きがあることを先日読んだ記事で知ったけれども、確かにアメリカが対ソ優位を築くために行った中国の大国化承認によって一番割を食ったのはインドシナ諸国であったなとは思う。

70年代にはその後も毛沢東主義を唱えるネパール共産党や、南米諸国例えばペルーのセンデロ・ルミノソなどの動きが活発に90年代までは続き、このイデオロギー面での中国の影響力の強さは改めて考えてみるべきことだなと思った。

もう一つ共産圏で活発に世界的な動きをしていたのはキューバで、特にアンゴラなどアフリカでの活動が目立った。これらに対しソ連がどの程度の影響力を持っていたのかは検討しないといけないが、70年代後半には共産主義の家元であるソ連だけでなく中国やキューバの流派も世界で動いていて、それは相対的にソ連の影響力を削いだという側面の方が強いのではないかと書きながら思った。

まあなかなかまとまらないが、現時点で自分にとっての冷戦のイメージをまとめておく。

冷戦とは、資本主義イデオロギー国家であるアメリカが、共産主義イデオロギー荘厳装置を備えたパワーポリティクス国家ソ連との対立に、共産圏の内部分裂を利用して農村闘争原理主義者・毛沢東が大国化させた中国を引き込んで共産主義の権威を分裂させ弱体化して、「悪の帝国」理論により資本主義生産力の力で最終的に圧倒した戦いであった、ということかなと思う。

アメリカでは冷戦期を振り返る動きはあまりないようなのだけど、これは逆に「勝利した側の怠慢」なのだろうと思う。これは第二次大戦後の「ファシズムとの戦い」に勝利した後のアメリカの慢心と同じことで、ファシズムとの戦いのために同じ全体主義のスターリンを引き込んでのちの冷戦という災いを招いたように、「共産主義との戦い」である冷戦に同じ共産主義の中国を引き込んでいままた権威主義化した中国との対立を招いている、ということなのだろうと思う。

日清・日露戦争に勝利した日本では、参謀であった秋山真之が戦後の連合艦隊解散の辞として「勝って兜の緒を締めよ」と起草したが、結局は論功行賞が先になって真摯な反省が行われないままになったために大東亜戦争での失敗を招いたと言われているけれども、「勝った軍は統御できない」みたいなことを渡部昇一さんが「ドイツ参謀本部」で書いていて、これは普仏戦争の時に皇帝ナポレオン3世を捕虜にしてしまって交渉相手を失い、パリを占領してフランスに敵愾心を残したことに宰相ビスマルクが絶望しそうになったという例として挙げられている。

第二次大戦後のアメリカの対日政策は(アメリカとしては)「概ね成功」だったのだろうし、冷戦後の対ロシア政策も最初は順調に見えたがプーチンのアメリカ批判からはそうはいかなくなってきた。その辺を油断というのは難しいが、見通しの甘さがあったということは言えるだろうと思う。

冷戦勝利ののちはロシアを自由主義圏に引き込むという理想が語られていたわけだけれども、それが結局は失敗に終わったことは現在のウクライナ戦争によく現れている。中露が再びアメリカおよび西側諸国の敵として現れていることについて、冷戦の進行から検討し直してみることは有効だと思うのだが、まあ最近冷戦やキッシンジャーの業績について取り上げられている動きはその辺の見通しが企図されているのかなあと思ったりはする。



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