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プーシキン『大尉の娘』

大尉の娘

岩波書店

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本棚を探し、何かフィクションがないかと思ったら、プーシキン『大尉の娘』(新潮文庫)が出て来た。この本がなぜここにあるのかよくわからないのだが、あまり期待もしないで読み始めたらこれが面白い。ぐんぐん読んでしまう。そこはかとないユーモアが漂う文体に気持ちよく読み進めていくと、いきなりプガチョフの乱が起こり、その首領が実は…という展開。実は今まで、自分はフィクションが合わない体質なのだ、と思い込んでいたのだが、全く間違っていた、ということをどんどん思い知らされる。そういえば若いころは、深刻ぶった話が嫌いだった。ユーモアとかウィットで書き綴られているような話が好きで、歴史を好きになったのも少年向けのそうした歴史教養書のようなものが楽しかったからであることが思い出された。それが社会に出て以来、むやみやたらと深刻ぶるようになってしまって、自分のそういう部分を全く忘れ去っていたようだ。しかし、まあそれもまた勉強だったのだろうと思う。むしろこうしたプーシキンの文体のようなユーモア、余裕のようなものを肝に銘じて生きていかなければならないと思う。書いてあることは何しろプガチョフの反乱であるから、相当野蛮で暴力的なことも含まれている。ロシア・リアリズムの祖などといわれるのもそうした部分だろう。しかし、見習うべきはそうした野蛮さ・恐ろしさをも描き得るような強靭なユーモア、余裕の力であろう。現在約半分くらいのところを読んでいる。とにかく、今まで相当強い偏見を持って心理的に拒絶していた「世界の名作」というものが実は自分にとって相当面白いのではないかと思い始めている。これもまあしかし、実社会で苦労した賜物なのかも知れぬ(笑)。(1.19.)

昨日はずっとプーシキン『大尉の娘』を読みつづける。松本に仕事に行き、腰を慮って仕事場までは行き帰りタクシーにしたが、それでも今朝は少々腰が痛いので、仕事中ずっと立ちづくめなのがやはり響くのかなと思う。電車の中でも、仕事場での待ち時間もずっと『大尉の娘』を読み、帰りの電車の中でほぼ読了した。今までなぜこういう作品を読まなかったのかとすこぶる残念。そのくらい良かったし、私の趣味にこれだけ合致する作品もほとんどない。中村白葉の訳も非常に趣味に合う。現在は絶版のようだし、今では言葉狩りにあいそうな言い回しが沢山あったので再版も難しいかもしれないが、上京したら神保町あたりで古書を探してみようと思う。これだけ言葉狩りが酸鼻を極めると、古書というものの価値は相当上がるなと思う。言論の自由などという言葉は全く画餅である。(1.20.)

実際、プーシキンのありようそのものが、「プガチョーフ叛乱記」と平行して書かれた小説「大尉の娘」にはよく現れている。主人公グリニョーフ少尉補は国家と貴族社会に忠実でありつつ、反乱者プガチョーフにも魅力を感じ、捕らわれても毅然とした態度で接しつつもプガチョーフと心の交流を持つ。そのあたりのところがのちに嫌疑をかけられシベリアに送られるのだが、婚約者の「大尉の娘」が女帝に直訴して罪を許される、というストーリーである。プーシキン自体がプガチョーフという存在に相当心を惹かれていなければ書ける話ではない。そういう惹かれる心そのものを主人公に託し、また自らそれを罰し、また再びそれを赦す、といった展開が心の中で展開されたのではなかろうか。このように書いてみるとそういう意味では「プガチョーフ叛乱記」を読むことによって「大尉の娘」の理解も深まったなと思う。(3.3.)

昨日は丸の内の丸善で岩波文庫版の『大尉の娘』が出ていたので買う。これは河出書房新社版『プーシキン全集』に所収されているのと同じ神西清訳で、巻末に神西の翻訳に関するエッセイが3本収録されている。まだ読みかけだが、この訳は面白い。中村白葉訳が格調が高く、「美」が前面に出ているのに対し、こちらの訳は各場面のユーモラスな面白さが十分に引き出されている。特に主人公ピョートルと敵役シヴァーブリンとの決闘が司令官のミローノフ大尉にばれて連行される場面など、中村訳ではどこが面白いのかあまりよくわからなかったが、神西訳を読んで大笑いした。翻訳者には翻訳者の向き不向きというものがあるなあとしみじみ思う。(3.23.)

プーシキン作、神西清訳『大尉の娘』(岩波文庫、1939、改版2006)読了。67年前の訳とは思えない。平易で達意の文章。中村白葉訳は格調が高い。いろいろな訳を読んでみると面白い。訳によって笑ったり感動したりする場面が違うというのも面白いと思う。翻訳者にも個人的なツボがあるのだろう。時間が出来たらロシア語で読むのもトライしてみたい。プーシキン自身のツボはどこか。(3.24.)

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