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矢島尚『好かれる方法』

好かれる方法 戦略的PRの発想

新潮社

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矢島尚『好かれる方法』(新潮新書、2006)。小泉政権のPR戦略で有名になった、「プラップジャパン」の矢島社長が書いている。立ち読みして買うことに決め、レジに持っていったら、背後に水色と白の太いストライプのサッカーユニフォームがガラスフレームの中に納められていた。背番号は10で、Diego.Mとサインされている。気もそぞろで会計を済ませ、女性店員がおつりを渡して「ありがとうございます」と言うのを待って、「あれ、マラドーナですか」と聞くと、にこっとして「そうです」といった。へええ。マラドーナのユニフォームかあ、と思いつつ何度も頷きながらレジをあとにした。いいなあ。

『好かれる方法』はまだ60ページ。日本では馴染みの薄い「PR」という仕事について説明している。PRはPublic Relationsの略だから、つまりは「公的な諸関係」ということになる。この言葉とPRという行為がどういう関係があるのか、昔から謎ではあったのだが、著者は、つまりこの「公的な諸関係」をより良くするのがPRという仕事なのだ、と明快に説明してくれ、なるほどと思う。企業はさまざまなステイクホルダー(利害関係者)に囲まれて成立しており、公的機関・顧客・従業員・地域等、多くのステイクホルダーとの関係をよりよくするための活動だというわけである。

一例として二子玉川の玉川高島屋ショッピングセンターの例が上がっていたが、二子玉川のブランドイメージを確立したのがこのプラップジャパンで、その中には多摩川をきれいにしようというボランティア活動も含まれていたのだという。

一方で広告代理店との違いも説明されている。『戦争広告代理店』という本ではルーダー・フィン社が描かれていたが、あれは実際にはPR会社なのだという。エスニック・クレンジング(民族浄化)という言葉を発明しプッシュしてセルビア側を追い込んだ会社である。広告代理店は広告の取次ぎをすることでマージンを取るビジネス、PR会社はその会社のPR活動をすることで時給を得る、フィー・ビジネスなのだという。

広告代理店は新聞で言えば広告欄に関わる仕事だが、PR会社はむしろ記事本体になることを作り出していく会社だという説明も、なるほどと思う。

PRという活動はどんな仕事においても重要なことだと思うが、つまりはその仕事の本質について、さまざまなステイクホルダーに理解を深めてもらう仕事、つまりある意味啓蒙的・教育的な部分を持つ仕事ということになるだろう。またそうした活動をしながらその仕事の内容をよりブラッシュアップさせるという意味合いも持つといっていいのではないか。多摩川をきれいにしようという運動や福祉施設で作ったものの販売所をショッピングセンター内に設けたり、区役所の出張所を設けたりする方法は、いろいろな面で仕事の仕方や考え方の改革につながっていくわけで、ある意味非常に意義深い仕事だと感心した。

しかし『戦争広告代理店』で明らかにされたように、「顧客」の利益を徹底的に追求すると、ある意味破滅的な影響をもたらすこともある。「教育は恐い」とはよく言われるが、PRも同じような部分がある。ファンダメンタリストの教育がテロリストを生み出すように、PR活動もうまく行き過ぎると何らかの暴走的な現象が起こることもありえる。正の方向へも負の方向へも、大きな可能性を持った仕事だと思う。(10.17.)

矢島尚『好かれる方法』。知らない仕事の説明なので感想と言うのも書くのは難しいが、いくつか。PRの仕事は成果主義ではなく「経過主義」で、最近ではある一定の基準を満たしたらプラスアルファ、という契約もあるとはいうが、原則は時給いくらで支払われるのだと言う。

PRの際のポイントが『キー・メッセージ』を伝えること。ヴィダル・サスーンというヘアケア製品のブランド復活のPRにおいては、「このブランドの新しいスタイリング剤が発売されたこと」と、「このブランドがファッショナブルで、クリエイティブで、モードをリードする存在であること」、がキー・メッセージだったと言うが、この名前がイギリスのヘアスタイリストで、シャンプー・コンディショナー・トリートメントを家庭でできるようにした人の名だというのは私などはへえと思った。

この『キーメッセージ』をメディアに「記事として(広告ではなく)」取り上げてもらうことがPRの主目的だということで、伝える内容は結局はシンプルなことなのだなと思った。しかしシンプルであるがゆえにそそうやって築き上げたブランドイメージもそれに反することが起こると一気に傷つき、信頼が失われるわけで、信頼構築と信頼維持、それが失われそうな事態が発生した時の危機管理、などがPRの仕事の本質だと考えればいいのだなと思った。

低用量ピルやキシリトールの話も医薬品や食品独特のPRの難しさが説明されていてこれも興味深いものではあったが、宮崎のシーガイアの話は読んでいて宮崎にいってみたくなるものだった。私はほとんどの県は行ったことがあるのだが、宮崎県と青森県だけは足を踏み入れたことがない。青森は深浦の夕日、宮崎は高千穂など、行ってみたい所はあるのだが、まだ実現していない。プラップジャパンのシーガイアのPRは今までの「昔の新婚旅行のメッカ」的なイメージを一新するものだったそうで、実際どんなものなのか、行って確かめたい気持ちになった。

危機管理の話では、リスクマネジメントの三段階のポイントと言うのが興味深い。一つ目は内在するリスクを特定しておくこと。二つ目はそのリスクをコントロール下に置くこと。三つ目はコントロールできなかったリスクが表面化しクライシスになったとき、それを収束すること、ということで、これはまあなるほどと思う。私の経験では一番難しいのがリスクの特定なのではないかと言う気がするが、それは仕事内容によっても違うのだろうな、と思う。

自民党のPR戦略についての話は守秘義務ということであまり語られていなかったが、以前読んだ世耕弘成『自民党改造プロジェクト650日』に書かれている通りだということで、この本を読んだ目で世耕補佐官の本を読み直してみるのも面白いかと思った。現在は中国にも進出しているそうだが、日本のPR会社では唯一だそうで、欧米の会社に比べると乗り遅れていて、それが中国に進出した日本企業の現地との摩擦を引き起こす一因になっていると言う話もなるほどなあと思う。日本に好意的な世論を構築する、という大きな仕事が究極のPRだと言う話はなるほど確かにスケールが大きいと思う。そういうことは『国家の罠』の佐藤優氏も書いていたが、佐藤優・矢島尚の対談のようなものを誰か企画してくれないだろうか。外交官とPRの専門家の日本PR戦略についての話し合いは興味深い。

PRという仕事は、自分のやっていることにもいろいろ関わってくるように思う。参考にして行きたい考え方もいろいろあった。(10.18.)

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