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酒井あゆみ『セックス・エリート』

セックスエリート―年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして

幻冬舎

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こないだ行った喫茶店にいった後、もう一度三省堂で本を物色し、気になっていた酒井あゆみ『セックス・エリート』(幻冬舎)を買う。そのあとブックマートで本を物色するが閉店時間になり、まっすぐ帰宅。

『セックス・エリート』は風俗嬢を経験したライターが各風俗のナンバーワンをたずね歩き、その秘密を探るという企画で書かれた本なのだが、なんというか一気に読んでしまったのだけど読んだあとけっこう痛い感じが残るし、確かに自分の知らない世界がここにあるとは思った。考えれば考えるほど論評しにくい本で、何ともいえない。ただ、『好色五人女』や『小早川伸木の恋』がいちいちつっかえつっかえ、ときどき気持ちを整理してから出ないと先に読み進められない本であったのに対し、この本はそういう引っ掛かりをあまり感じない。この本の中では「男」という存在は徹底して「お客」であり「ヒモ」であり、つまりインタビュアーである筆者と風俗嬢との火花の散りあう中では第三者としてしか登場しないからだろうと思う。

出てくる女性たちは筆者も含めてある意味自分の知っているさまざまなタイプの女の子に似ている面は数々感じるが、だからといって多分風俗嬢の身の上話を聞く「お客」以上の介入(感情移入とか、共感とか、拒絶とか)はできない。もちろん、良くも悪くもこういう世界とは全く関わりなく今まで来ているので、「お客」がどういうものであるかも本当にはわからないのだけど。やっぱり従業員に人間としての「幸せ」がベースにある業界とはいえないので、そういうところの痛さはどうしても感じてしまう。しかし、ナンバーワンになれる子というのは、自分のことはともかく、お客さんの「自分のことを見て欲しい」「認めてほしい」「弱さを許容してほしい」という切ない思いに全力で答えようとしている、つまりこの本の中の言葉でいえば「こころを大切にする」ことができる子に限られる、というのはそうだろうなあと思った。そして、最近は特にその傾向が強まっているのだという。もちろん、体の欲望を満たすところであるには違いないが。「男は自分の思いを遂げられたらすごく優しい動物だけど、思いが遂げられなかったときは狂暴になる」といわれるとやられたなあ、と思うけれど、でも多分それは男だけではない、とも思う。

まあしかし、書けば書くほど何を書けばいいかわからなくなってくる。欲望というのは本当に抜き差しならないものだなあ、と思う。人の欲望に関わる仕事、というのは大変だなあとも思う。レストランなど食欲に関わる仕事も、ホテルなど睡眠欲に関わる仕事も、エステなど美の欲求に関わる仕事、温泉など癒しの欲求に関わる仕事、考えてみたら限りない。そして多分、そこで人は普段より欲張りになる。注文が多くなる。思い通りの欲望を満たすことに前向きになる。だから期待が外れるとけっこう逆上する。そういう場面でもスマートに行動できる人は、だから粋といわれるのだろう。考えてみれば、自分のやっている、あるいはやってきた「教える」という仕事もいろいろな形でさまざまな欲望と絡み合っている。知識欲や向上の欲求ならいいけれど、もっとほかのどろどろしたものも当然絡んでくる。食欲とか性欲とか、ストレートなものでないだけ逆に始末に負えない面もあるなあと思ったりもする。やれやれ。

だから、この本を読んでいて、意外なくらい「教育」とかそれに類する仕事との関連性を考えてしまったのだった。人間と人間の間に発生するものは、案外どんな場面でも同じようなものなのかもしれないと思ったりもする。ま、誤解をおそれずに言えば、ということではあるが。いろいろな意味で。(2005.3.28.)

  

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