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ゴールズワージー『林檎の木』

林檎の樹

新潮社

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夜にかけてゴールズワージー『林檎の木』(角川文庫、1956)を読む。(上記写真は集英社版)なんというか、まさに珠玉の掌編という感じ。きれいな映画になりそう、というかきっとなっているのだろうと思う。とても映画的な小説なのだ。「男で――5歳以上の年になれば――誰が恋したことがないといえるだろう?」など、「名言」(「迷言」?)がちりばめられていて、ときどき気分的にのけぞりながら読む。第一次世界大戦中の作品、と言うとついアポリネールとか思い出すが、一般的にはこういうものが受け入れられていたのだろうなと思う。

内容は書くとネタばれなのだが、(そういう意味ではこれは純文学というよりは大衆文学だな)メガンとステラという二人の女性の間で動く青年フランクの恋心、というある種の典型の話である。しかしすごくいい話で、メガンとの野性的で異教的で秘密めいた逢引の次の日にステラと出会い、家庭的で楽しい愛を知る。で、どちらか一方しか取れない、というまあ普遍的な愛の選択がテーマである。読んでいてなぜか萩尾望都の『マリーン』という短編を思い出した。

エウリピデスの『ヒポリタス』をマレーが訳したもの(ということは日本語としては重訳なのだが)の、 「黄金の林檎の木、歌うたう乙女たち、金色に映える林檎の実」という詩句が実に生きていて、感動的だ。

恋愛の刹那的な激しい喜びと家庭的な永久に続く愛のどちらを取るか、なんてまあ現代ではそう簡単に行かないでしょうよというツッコミを入れたくならないでもないが、でも本当は今なお重大な問題なんだろうと思う。「家庭的な永久に続く愛」が困難になればなるほど。多くの人の本音が、「両方欲しいんだよね」ってことであればあるほど。1916年の作。読了。(6.21.)

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