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大蔵雄之助『一票の反対 ジャネット・ランキンの生涯』

一票の反対―ジャネット・ランキンの生涯

麗沢大学出版会

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大蔵雄之助『一票の反対 ジャネット・ランキンの生涯』(文藝春秋、1989)を読み進める。大蔵氏はTBSの元モスクワ特派員だが、大学のときに講義を受けたことがある。ソ連の政局を分析した話が主だったが、政策や政治論より政局論が中心で、ブレジネフ死後アンドロポフが書記長に就任することを的中させたとかその当時ホットな話題が中心だった。

ジャネット・ランキンという人はこの本で初めて知ったがアメリカ初の女性下院議員であるだけでなく、選挙で選ばれた国政レベルの議員としては世界初であった人物だという。もともとは女性の参政権運動からはじめたがのち平和運動が主体になり、第一次世界大戦のアメリカ参戦に反対票を投じたため次の選挙では婦人団体の支持も得られず落選したとか、そのあたりを読んでいる。20世紀前半のアメリカの政治風土というものはあまりよく知らなかったが、この本はかなり具体性を持ってそのあたりを知ることが出来、興味深い。

そういえば19世紀のアメリカの政治風土について一番印象に残っているのはテレビ朝日開局当時「ザ・ビッゲスト・イヴェント」と銘打って放送されたアレックス・ヘイリー原作『ルーツ』だった。南北戦争後の反動の時期、黒人は選挙権を得たものの実際にはなかなか行使できなかった実情など、深く印象に残っている。そういえば昔はアメリカでもこういう「社会派」の作品というのは多かったなと思うが、最近は全然知らないな。あってもムーアの『華氏911』とかとても見る気にもならない作品だし。あれはまず題名がブラッドベリのパクリであるところが最低だ。ああいうカマシ的な野郎(失礼)が信用できないということもあるのだが。

『一票の反対』はまだ読書中。(2006年7月30日)

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読みかけだった『一票の反対』を読了。第一次世界大戦の参戦に下院で反対したジャネット・ランキンが、ベトナム反戦運動にも参加しているのに驚く。90歳前後になってもその活動が衰えなかったというのは驚きだ。第二次世界大戦中からガンジーの活動に関心を持って戦後たびたびインドを訪れたがガンジーが暗殺されたため会うことは出来なかったらしい。ネルーとは何度か会っている。このあたり古典的な「平和活動家」というものだなあと思う。

ランキンはジョージアのコッテージで一人暮らしのとき、ヒッピーのような青年と同居しているが、彼女もほとんどヒッピーのように暮らしていたもののドロップアウトは絶対に許さなかったという話がなるほどと思う。青年はジョージア大学の大学院生だったというが、ランキンは死ぬときにも学資を残していて必ず卒業するようにといったという。そういう時代を超えた頑固さのようなものが妙に心を打つ。

ランキンは生涯独身だったが実は「淋しがり屋」だったといい、人間は群居する性質を持っているものだ、としみじみと語ったという。そういえばマルグリット・デュラスも死ぬ前には青年と同居していたし、テレサ・テンもかなり年下の男性と同棲していた。彼女らにはそういう存在が必要だったのだろうと思う。彼女らは彼らの才能を伸ばすことにかなり精力を傾けているが、その中でものになった(まあ何が基準かによるが)男性はあまり聞いたことがない。そういう例があるのかどうか、なんとなく興味は引かれるのだが。

この本は実際ジャーナリストの作品だなと思う。学者のような深め方も、作家のような精神の解明もないが、回りから見たジャネットがどんな人間だったのか、とてもよくわかるように描いている。いろいろなアプローチがあるものだなと思うが、ジャーナリスティックな視点のいいところが実によく表現されている作品だと思った。(2006年7月31日読了)

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