トランプ関税の90日延期:農林中金は世界を救ったか/トランプ支持のキリスト教右派の「隣人を憎め」という過激発言と左翼リベラルと右翼保守派の対立の「神学」的起源
Posted at 25/04/11
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4月11日(金)雨上がり
昨日は溜まっていた仕事を少しずつ片付けて、勉強も少しできた。問題に感じていることを軽重をつけて片付けていくという意味では全然片付けきれていないし、朝から午前中にかけてフルに動くと午後は疲れてしまうというような問題はあるのだが、まあ昨日はそれなりにいろいろ片付けられたと思う。
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トランプ関税が90日間延期されて株式市場も爆あがりしているわけだが、関税が撤回されたきっかけが米国債安だったらしく、そのきっかけを作ったのが日本からの売りだったそうで、それを売ったのが農林中央金庫だったらしい、という話が日米のTwitterで流れている。まだ少なくとも日本の経済ニュースでは流れていない、というか売ったのは中国だ、とか邦銀だとかは言われているが農林中金だという話は見ない。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5ce331941a2bf429809736efc3199328686964a0
ただ日本の機関投資家の可能性が強いとは言っているので、農林中金は名指しはされていないがその可能性はある。農林中金が世界経済を救った、という話はなんとなく面白いので(農林系の金融機関といえば住専問題の記憶はまだある人にはあるだろうし)流布しているが、結果的にはトランプの経済運営により「安定資産としての米国債」に疑問符がついたということで、各国とも売りが優勢になっているようだ。安全資産といえば金だが金も売られていてその資金が一体どこに流れているのかと思うが、円高になっているということは円が逃避先になっている可能性もある。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-09/SUFR9ST0G1KW00
もし中国が米国債の売りを仕掛けてきているならそれは需給よりも政治的な問題なので様子見が必要だとアナリストは言っているが、政治的な方面から米中関係を見ている人なら売買のタイミングは掴めるのだろうか。まあダイナミックな動きだが、儲けている人はかなり儲けているんだろうなとは思う。
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昨日書いた「隣人を憎め」運動の話。
https://x.com/kemohure/status/1909979568649404503
これはつまり、アメリカのトランプを支持する人たち、つまり右派のうち特に宗教右派が言い出した話なのだが、「隣人を憎め」というのは英語で言えば「Loathe thy neighbors」ということになる。この辺り、よくわからなかったのといろいろ理解しないといけないことが多そうだったのでこのツイートで言及されているガーディアンの記事を少しずつ読んでいる。
これはJUlia Carrie Wongという記者の記事だが、この人は過激派の事件や白人至上主義についての記事を多く書いている人で、基本的にそういうスタンスの人なのだろう。「ザ・ガーディアン」はイギリスの中道左派・リベラルの新聞である。Wongはアメリカ人のようだ。名前からしたら中国系と思われるが、写真などを見るといくつかのルーツがミックスしている感じはある。
まだ大きな段落の一つ目しか読めていないのだが、そこまででも背景として知らなければいけないことが結構多くて、イーロン・マスクの言葉やJ・D・ヴァンスの言葉、それに対する批判などの背景も、白人至上主義(分離主義)運動や、中世キリスト教の「愛の秩序 Ordo Amoris」の考え方、それに対するルターの批判などについて読むことになってしまった。
empathy、つまり「隣人への共感」というものを危険視考え方を、マスク氏はカナダのガッド・サアド氏からそれを学んだということだが、彼の思想は非白人のイスラム教徒を受け入れることで「隣人への共感」が悪用されーつけ込まれてということだろうー隣人を理解しなければ、と考えるうちに彼らの思想に取り込まれてしまう危険性のようなものについて言っているように思った。
これらはつまり「社会の多様性がはらむ従来の多数派にとっての危険性」について言っているわけで、それらは極端にいくと陰謀論になる可能性があり、実際フランスで起こった「グレート・リプレイスメント」と呼ばれる思想、フランス政府やEU、国連などのグローバルリベラルエリートは住人たちを非白人やイスラム教徒に入れ替えることでフランス文明を滅ぼそうとしている、という陰謀論がアメリカでも力を持ってきているようで、「それとは違う」とサアド氏はわざわざ言っている。
「アメリカは(中国に・同盟国に)してやられている」という考え方は、経済面で高関税政策の実施につながったわけだが、こちらの思想は主にヨーロッパでの移民問題の影響を受けてアメリカで展開されている「不法移民の追放」の方に作用しているということなのだろう。いずれにしても根は同じようなところにあると思われる。
この記事の中ではヴァンスが中世キリスト教の思想「Ordo Amoris」について言及し、自分の立場やトランプ政権の移民政策・対外援助政策を正当化してローマ教皇から非難されたが多くのカトリック思想家からは支持されている、という話が出ているが、このOrdo Amorisという考え方がよくわからなかったのでいろいろ調べてみて、金子晴勇「ORDO AMORIS — アウグスティヌスからルターにいたる思想史的考察」(『中世思想研究』32号、1990.9.)という論文を読んでみた。
https://jsmp.jpn.org/archives/journals/smt32/
アウグスティヌスによれば「愛の秩序」は最高次が「神への愛」、次が「自己愛」であり、その次に「隣人愛」が来る。神への愛よりも自己愛が優先されるのはもちろん邪悪だが、今日のキリスト教右派の考え方は隣人愛が自己愛より優先されるのは悪だ、という考えに立ち「empathyを問題視する思想」につながるということなのだと思った。
人間には動物と同じように自己の幸福を追求する本性的自己愛がありアウグスティヌスはそれも認めているが、それが限度を超えると神をも自分のために愛する邪悪な自己愛になり、それを神のために自己を愛する真の自己愛に生まれ変わらせなければ隣人を愛することはできない。
アウグスティヌスは「善人は神を享受するためにこの世を使用するが、悪人はこの世を享受するために神を使用する」という。これも解釈によってはいろいろ考えられる言い方ではある。
こうした愛の秩序の考え方は基本的にトマス・アキナスまで受け継がれるが、一方で神秘主義や唯名論の立場から違う議論も起こってくる。
エックハルトは「愛」を「意志」と同一視し、利己的自己愛を徹底的に否定することにより神と一体化して「自分と同じように隣人を愛する」ようになるとする。アウグスティヌスは自己愛が隣人愛の原形として先行するが、エックハルトは自分を含めてすべての人を同等に差別なく愛することを正しいとするという違いが出てくるわけである。
ルターはエックハルトを受け継いでいて、自己を離れ(離脱し)て利己的自己を憎悪することを説く。ルターは自己愛を否定し「幸福とは神の意志と栄光とを万事において欲し、自分のことは何も願わないことである」という。ルター主義というのは基本的にストイックだなと思う。
これは自由意志ではなく、信仰なのだと。信仰により自己愛から解放され隣人に向かって自由に奉仕する生き方ができると。こういう「あらゆる人への愛」、「全ての人間を同等に差別なく愛すること」が正しいという考え方は、つまりはあらゆる左翼思想の源流の一つなのではないかと思った。この辺をキリスト教右派は「西欧文化にある共感という悪徳」と考えてるのかなという気がした。
ルターは「自己を憎め」とさえ言っていて、つまり「隣人を憎め Loathe thy neighbors」というのはこれに引っ掛けているのではないかと思った。神への愛、自己への愛、隣人への愛というように「愛の秩序」の考え方こそ正しく、「隣人への愛」を「自己への愛」よりも優先するような博愛思想、左翼思想はおかしいのではないか、という指摘である。
要は、欧米における右派と左派の対立は起源としてこういう神学論争にまで波及するのだ、ということは我々は知っておいた方がいい、ということである。これを知らないと「隣人を憎め」と言われるとぎょっとしてしまうが、「神への愛・自己愛・隣人への愛」の中で自己愛を隣人愛より優先すべきだ、という考え方はそんなに奇異なものではない。「まず自分の頭のハエを追え」ということであり、「隣人を救う前にまず家族を幸福にしろ」ということであり、儒教的に言えば「修身・斉家・治国・平天下」の順にまず身近なところから愛によって解決していけということだから、非常に常識的な考えだと言える。
隣人愛を自己愛より優先させるというのは例えば大乗仏教的な「弥陀の本願」みたいな話であり、菩薩行ということになるが、仏教は世界文明を主導するには至っていないがこういうキリスト教思想は世界文明に大きな影響を与えているわけで、こうした博愛思想があったからこそ西欧文明が世界を領導することができたということもまた確かだろうと思う。
ヴァンスの言っていることはまず家族を、地域コミュニティを、アメリカをその他の世界より優先させるべきだ、ということで、そのためには世界に開放された市場をアメリカのために閉じることも正義だし、世界に開放されているように見えるアメリカに住む権利もまずはアメリカ人を優先するべきである、ということも正義だということになるわけである。
その他まだ書きたいことがあるが今日は母を病院に連れて行く日なのでまあ後で書きたい。
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