「アメリカというものをその歴史から理解する」ことをやろうと思う/「ぼっちざろっく」と「ふつうの軽音部」:「どうしようもならなさ」は人間関係にあるのか経済的なものにあるのか
Posted at 25/02/18
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2月18日(火)晴れ
昨日はいろいろと今後の方針について考えながら仕事を片付けたり気分転換をしたりしていたのだが、昼過ぎに確定申告の書類をまとめて税理士事務所に持っていき、その足で岡谷まで出かけて本を見たり夕食の買い物をしたりした。
今読みたい本はなかったので基本的には図書館で探すか取り寄せるかということになるなと思った。基本的な書籍を旧刊書まで揃えている、という書店は地域にはないので、少なくとも松本までは行かないといけないのだが、松本まで行っても必ずしもあるわけではないから、わざわざいくモチベーションがあまり上がらないということはある。それにしても松本も唯一あった百貨店もこの春閉店するし、パルコも閉まってしまう。入っていたアニメイトとヴィレヴァンがどこかに移転するのかそれともそのまま閉店するのかはわからないが、なんとかテンポが存続できると良いのだがとは思う。
帰ってきて、今後何に取り組んでいくべきか、ということについていろいろ考えていたのだけど、結果的にはアメリカについてなるべく本格的な論文的なものを書こう、という方向で落ち着いた。何かを書こうと思っても結局今ある知識を使って書くだけでは十分なものが書けないから、自分の置かれた条件の中でしっかりした研究をして誰の視点にも耐えられるような本を書く、ということに取り組んでいこうと思う。
というのは、自分自身が「アメリカ的なもの」に対して理解が足りていない、と感じることが多くあるということも大きいが、それ以上に日本の人たちやおそらくは世界の人たちにとってもアメリカ的なものというのが十分に理解されていないのではないかと思った、ということでもある。
それはトランプの内政や外交について、理解できないとかイレギュラーだというような批判が相次いでいるということから考えたのだが、アメリカ史の専門の方や英米法から国際関係を見ている人たちの考え方はそうではなく、アメリカ史の中でそんなに特例ではない、という評価になっていることからも、つまりはアメリカというものに対する理解こそがトランプを理解する上でも重要であって、それはトランプ後を考える上でも重要になってくるはずなので、アメリカが世界の強国である限りは重要性が衰えることはないだろう、と思ったということが一つある。
もう一つには、アメリカというものを歴史の始まりから理解していくことによって、日本のことも理解できる、違う視点から見ることができるということもあるだろうと思ったということもある。我々は日本のことを、その始まりが神話だったりあるいは考古学的な視点だったりはするにしても、少なくとも2000年にわたって「よくわからない曖昧な時代」から現代までずっと続いている歴史を持っている国だという認識を持っているわけで、それは日本人のメンタルにとって結構大きいことだと思う。我々はずっとこの国に住んできた、おそらくは2000年以上は、と無意識に認識しているわけである。我々は半ばそれが当たり前だと思っているけど、世界的にはもちろんそうではなくて、前近代でもモンゴル高原からアナトリアまで移動して建国したトルコのような国もあるし、歴史時代に民族移動して成立している国は多い。そうした国の歴史は日本とはまた違う書かれ方をしているわけである。
アメリカは全く違う国の成り立ちであって、近代以降にイングランドから移住してきた人たちが作った国であり、それぞれ定住した地域によって異なる定住地=植民地が形成されたわけだが、メイフラワー協約のような初期的な社会契約が取り交わされたり、ヴァージニア憲法や独立宣言その他、国が形成される過程で様々な文書が出されて、それらを読むことで国がどのようにして、あるいは何を目指して形成されたかが理解できるようになっているわけである。
それはまあいわば人類史的な実験であったわけだけど、逆に言えばその地域ローカルな、大きく言ってもアメリカ13植民地のローカルな出来事でもあった。そして人類共通の理念みたいな部分はどこの国の人にでも理解されやすいが、ローカルな部分はあまり理解されないし重視されないという面もある。日本や日本文化に対しても、日本人がこれが重要だと思うことがあまり理解されずに、外国人にとってわかりやすいところを切り取られてこれが日本だ、と考えられてしまうことが多々あるように、アメリカもまたそういうエスニシティというかローカリティを持っているわけで、歴史に影響していきまた外国人から見て理解し難いところというのはそういう部分にある、ということはあるのだと思う。
それで特にトランプ政権を理解する上で重要だと思ったのが「ワシントンの惜別挨拶 Washington's Farewell Address to the people of United States」なのだが、まずはこれを読み込むところから始めるべきだと感じたわけである。
とは言えこの辺りのことについては専門的に勉強したことはないので機会あるごとにそれぞれのテーマについて読んできた以上の蓄積はないから、この年でそれを始めるのは無謀だとは思うのだが、先学の業績を参照しつつ、少しでも後の世に残すことに意味のあるものを書いて行けたらいいなと思う。
***
「ぼっちざろっく」と「ふつうの軽音部」について書かれた文章をネットで読んだのだけど、書いたのは「おたく」的なものを愛する人のようで、「ふつうの軽音部」の面白さがわからない、ということだったのでどういうことなんだろうと思って読んでみた。
読んでいるうちに、その人自体がなんだかお話の中の人のような気がしてきた。なんというか実存的な物語。ふうんとは思うんだけど、私とは違うな、というか、薄紙隔て一つ別のパラレルワールドにいるというか、ガンダムで口角泡を飛ばしている人たちを見てる感じというか。
もちろん人にはそれぞれ面白いと思うものが違うのは当たり前なので、それはただ単に「not for me」ということで、それでいいんだと思うのだが、逆に言えばそれは1990年代以降の巨大なおたく的コンテンツ群に対する違和感でもあり、そういうものを自分は楽しめてこなかったという面はあるから、その背後にあるのはどういうことなのかを知ることの意味はあるのではないかと思って少し考えてみた。
「ぼっちざろっく」という作品はぼっちがぼっち的なものを保ちながら結束バンドという居場所を得たという話だとしたら、「ふつうの軽音部」は主人公の鳩野ちひろがこわごわ学校の中で軽音部に入って自力で居場所を作っていく話だと思う。もちろんどちらも「仲間」ができるからストーリーになるわけだけど、ぼっちは「ギターヒーロー」としてすでにYouTubeで圧倒的な人気を持っているのにリアルでは無力、という存在であるけれども、鳩野は高校入学前日に一念発起して「高校に入って軽音部に入るために」フェンダーテレキャスターを買う、というところから話がスタートしているように、ある意味自力で居場所を作っていく、ぼっちは対人関係的に成長はしていかないけど鳩野はさまざまな友人に恵まれたお陰は大きいにしても「成長」していく(時々暴走して落ち込むわけだが)、つまりは「日常」で生きることもそんなに悪くないよ、というメッセージ性がある話だからよりいろいろな人に響くのだと思う。
でもそれは「日常への拒否」が基本にある人にとっては面白さが感じられない、というか読んでて辛くなる、ということはあるんだろうなと思った。
人間関係そのものが嫌い、というかそういうものから逃避したい、という人にとっては「ふつうの軽音部」は面白くないというか乗れないんだ、というのは割と新鮮な驚きだったのだけど、逆に言えば自分が「おたく」趣味ないしその方向性での作品というものがそんなに面白いと思えないという理由も「人間関係嫌いからくる人間関係の描き方の雑さ」みたいなものがあまり好きじゃないということがあるのだろうなとも思った。
「ふつうの軽音部」が新鮮で面白かったのは、おたく的な主人公なんだけど精神がロックというかめちゃくちゃ熱いものがあり、ただ親の離婚が原因で転校したり、合わない友達に心ないことを言われたりして激しく気後れし、一方で変に斜に構えた評論家的なポーズみたいなものも身についてしまっていたのが、新しい出会いの中で本来の魅力を取り戻し輝いていく、みたいな割と古典的な話で、鳩野には基本的な社会性みたいなものはずっとあるから、つまりめちゃくちゃ元々健全だということなんだと思う。
「おたくの自分語り」みたいな話というのはどうも自分に伝わってこないところがある、というか鳩野なんかは母子家庭の中では恵まれた方だと思うけど、「バイトしないと自分のしたいこともできない高校生」というある種の「経済的な意味での社会性」があって、そこがやはり身につまされるところが私なんかにはあるということはあるなと思った。
一般論でどこまで言えるかはわからないけど、「どうしようもならなさ」の原因が「経済性」と結びついていないと自分にとってのリアリティに欠ける、ということなんじゃないかと思う。「人間関係からの逃走」みたいな話になると「甘えてんのか?」と思ってしまう前時代性というかそういうものが自分の中にはあるということなんだろうと思う。ていうか自分もそういうものが得意ではなかった(今でもそう得意とは言えない、付き合い方のパターンみたいなものを限定してうまくやるようにはしているが、パターンを超えた友情的な、ないしは情の絡む人間関係というか一対一の関係になると暴走しない自信は絶対ではない)から逆にそう思ってしまうのだろうと思うけど。
つまりはなんか「みんな必死で社会で生きてんだよ」みたいな方が自分にリアリティがあるということなんだろう。それを一生懸命やってるから鳩野に、またその他のキャラにも共感できるというか。そうふうにやらないでも生きられる、というのが「おたくという生き方」の一つの発見だったのだと思うけど、逆にこれもある種の器用さがないとできない気が私などにはしてしまうので、「おたく的な生き方」にはむしろ嫉妬心があるということもあるのかもしれない。
まあそういうおたく的なものに対する微妙な距離感というものが、自分の作品に対する評価に結構影響してきてはいるなと思う。
もちろん、「ぼっち・ざ・ろっく」という作品はこれはこれでめちゃくちゃ面白い。ぼっちの「バンドで成功して高校中退!」という夢が叶うかどうかはわからないしその夢に共感できるわけでもないけど、そういう人生ならそれで頑張ってほしいな、というふうには思う。二つの作品を比較して一方を持ち上げるともう一方を下げたように思われる風潮があるのは困ったものだと思うのだけど、まあこんな時こそ「みんな違って、みんないい」で締めるべきなんだろうなと思う。
***
いずれにしても、アメリカを知ることで日本を知る、おたくを知ることで自分を知る、みたいなことは多いなと改めて思う。まずはしっかり読むべきものを読んでいきたいと思う。
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