谷川俊太郎さんの訃報:原典をこなしポエジーを爆発させユーモアを付け加える詩作/石破首相のエリート家系と近代日本の階級上昇ルート

Posted at 24/11/20

11月20日(水)曇り時々雨

昨日は午前中母を歯医者に連れて行って、帰りに図書を返却しに楓樹文庫へ行って、帰りに書店でチャンピオンREDを買おうと思ったら入荷してなかった。楓樹文庫では「昭和天皇拝謁記」の1を返却して2を借りた。1も全部読めたわけではないが、どこから読まないといけないということでもないので、色々と拾い読みしてみようと思う。その後スーパーでお昼の買い物をして帰った。

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昼食後、また出かけて岡谷の書店まで行き、チャンピオンREDを買う。いつも入荷しているはずの雑誌がないとかなり手間が増えるなと思うが、まあ仕方がないと言えば仕方がない。

***

ネットを見ていたら谷川俊太郎さんの訃報。92歳。私が一時詩を書いていたのも谷川さんの詩の影響は大きかった。初期の「二十億光年の孤独」とか「62のソネット」とか、そういう作品に特に影響を受けたなと思う。一時、詩の同人誌に参加しようと思ってその代表の人と話をしたら「日本で詩で食っていけるのは谷川俊太郎だけ」と言われ、方針も自分の考えとは違っていたので参加するのをやめたのだが、実際のところ昔も今も詩人として誰よりも名前が出てくるのは結局は谷川さんなんだよなと思う。巨大な存在だった。

今ネットを見ていたらご親族の方や出版社の声明など、いろいろ出てきて興味深い。葬儀はすでにお身内でなされたとのことなのだが、これからいろいろ大きな話も出てくるのかななどと思ったり。

そう言えば谷川俊太郎さんは父の谷川徹三の葬儀を詩にしていて、天皇陛下から供花と供物(だったかな)が届いたとか、あまりにたくさんの人が来て訳がわからなくなったとか、奥に引っ込んで奥さんと口喧嘩をした、みたいな詩だったように記憶しているが、ご本人の葬儀はどんな感じだったのだろうか。

そう言えば谷川さんは文化勲章をもらっていないよなあ、と考えて少し調べてみたら、要は国家からの褒賞は全て辞退しているようだ。その辺りはオールドスタイルの左翼なんだよなあと思う。

「二十億光年の孤独」では

「人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ」

というフレーズが出てくるが、この辺りは宮澤賢治の表現によく似ているなと思う。お父さんの谷川徹三は無名のうちに死んだ宮澤賢治を発見・紹介・研究した人なのだけど、谷川さん自身も賢治の影響は強く受けているなと思う。

後半の、

「万有引力とは
ひき合う孤独の力である
 
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
 
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である」

というあたりのポエジーには、本当に初めて読んだ時はノックアウトされた。本当に、ポエジーというわからないものを捕まえるのが本当に上手な人なんだなと思う。

そして最後に

「二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした」

というユーモアを付け加えるのが谷川さんのスタイルであって、つまりは「原典をこなし、ポエジーを爆発させ、ユーモアを付け加える」、という後年の谷川さんのスタイルがすでに処女詩集で顕現している天才だったなと思う。

ピカソは、「私は5歳の時にすでにラファエロのように描けた」と言っていたが、谷川さんもすでにデビュー作にして島崎藤村や萩原朔太郎を凌駕する部分があり、西脇順三郎や金子光晴よりずっと大衆に届く言葉を持っていた。それは今考えてみると、宮澤賢治を経ているから、ということが大きいのかもしれないと思ったりした。

改めてご冥福をお祈りします。

***

石破総理大臣がAPECやG20で外交デビューし、その振る舞いやスタイルが内閣発足の記念写真の時に続いて批判されているのを読んだのだが、その中に「安倍さんや岸田さんと違って世襲政治家でないからこういうのはダメだ」みたいな評があり、実は彼の父親は元自治大臣というレッキとした政治家なので、そう思われてしまうのは残念な感じだなというふうには思った。

石破さんは祖父が高等小学校卒から村長、父が帝大卒・内務官僚・参議院議員から自治大臣で、本人が国立附属から慶應高大卒、三井銀行から父の死去後に衆院議員に全国最年少で当選、ってどう考えても絵に描いたような多段式ロケットで3代計画で出世し、総理になった政治家家系なのだけどな、と思う。

Wikipediaによれば、おじいさんが進取の精神はあったが教育が足りなくて成功しきれなかったという思いがあり、息子の教育に熱心で、出来のいい息子が地元の中学を4年終了で高校進学、帝大進学、内務省に奉職ととんとん拍子で出世して、その息子の遅い長男としてご自身が生まれたと。こういう家系の経歴の人はそれなりにいると思う。こういうのは西洋史(フランス近世・近代史)をやっているときによく読んでいた。

日本の場合は、維新の功臣の子孫(麻生さんとかはそうだ)とか江戸時代からの名家(実家が造り酒屋=地方の名家という政治家は多い)から政治家になっている家系は割と多いのだが、石破さんはそういう人ではないけど、スタイルやマナーを身につけるのに悪い条件だったとは思いにくい。父が大臣、ご本人は高校から慶應なのだから。近代エリートの家系だと言えるだろう。

そうなると石破さんの振る舞いの多くは個性ということになると思うのだけど、スタイリッシュな洗練よりも自身の中への沈思的な傾向をお持ちなのかなとは思う。このところしばらくなかったタイプの総理大臣である気はする。なんとなく近いイメージは大平正芳元首相。

大平さんは党を割る寸前まで行った人だから、石破さんもそんなことにならないといいがとは思うが、そんなに柔軟に人の意見を取り入れられる人にも見えないところに少し懸念がある。

メインストリームから外れた人の中にも人材がいるのは自民党の強みで、石破さんの選出にもそういう期待はあったはずなのだけど、今のところあまりにいい方にその目が出ていないように思う。総理としての底力を良い方向で見せつけてくれると良いと思うのだが。

「アメリカンドリーム」というけれど、例えば新開地の農民からのし上がった米英戦争の英雄であり7代大統領のアンドルー・ジャクソン、ケンタッキーの木こりの息子・16代リンカーン、欠損家庭で育ったビル・クリントン、ホワイトウォッシュと言われる環境で育った次期副大統領のJDヴァンスなど、アメリカには確かにそういう人が多い。

日本やヨーロッパのような成熟した社会では階級的な拘束が強く、下からのしあがることは難しいことが多い訳だけど、それでもそれなりにそういうルートはある。例えばフランスでは「小学校教師」というのがその踏み台になることが多くて、この職は「才能があって頑張ればなれる」職業であり、そしてフランス国家にとっては教会に対抗するための世俗主義の尖兵のような存在であるので、優遇される面もある。だから自分が小学校教師になって、息子に十分な教育を与えてグランゼコールまで行かせて出世させ、階級的上昇を図ってからさらにその息子に大統領や総理大臣を狙わせる、みたいなコースが存在する。

日本の場合は、一代で出世するコースとしては、やはり帝大(今なら東大や京大)を出て大学に残るか官庁や大企業に就職し、「末は博士か大臣か」とすることがメインだろうが、戦前は陸軍幼年学校・士官学校という軍人コースもあった。これらは「皇族といえども東大に入れず」という実力主義の出世コースだったから、苦学力行して出世した人も多いし、彼らが成し遂げた階級的上昇によって子供たちがさらに出世するということを可能にした訳である。

歴史学をやっているとこういう社会的な下層から何代かかけたてっぺんの取り方というのは特に珍しくはないのだけど、逆にいえばこういう階級的上昇の経路があるかないかというのはその国の活力に大きく影響してくる訳である。日本が強かったのは戦前から生まれで全てが決まる完全な階級社会ではなかったから、ということは理解しておくべきことだろうと思う。「門閥制度は親の仇でござる」と言った福澤諭吉が作った慶應義塾大学が、現代では門閥の典型みたいになっているのは歴史の皮肉みたいなものではあるのだけど。


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