【推しの子】を振り返る(1):各章の裏テーマとヒロインレースの始まり/「幸せは食べて寝て待て」新キャラ・ウズラさんの魅力と有害な男性性の取り扱い/「海が走るエンドロール」:映画マンガ全盛期?/小さい町のそれなりの良さ
Posted at 24/11/16 PermaLink» Tweet
11月16日(土)曇り
だいぶ日が短くなってきて、5時ではまだ真っ暗である。天気もよくわからないが、うっすらと星が見えなくもない。夜中に明るい星が見えたが、あれは木星だろうか。調べようと思って調べるのを忘れていた。まっさらな気持ちでいるときはそういうことを調べる気になるのだが、最近はいろいろなことを考えていてそういう感じにならないことが多い。やることが割合はっきりしてきたことはいいのだが、そういうなんでもないことが気持ちを前に進めるきっかけになることもあるので、心の余裕とかアソビみたいなものは常に持っていられるといいなと思う。
昨日は母を病院に連れて行った。一昨日も行ったが、少しの空き時間の間に病院の銀行ATMでお金の出し入れをしたりして、考えてみると小さな街だから病院もそんなにめちゃくちゃ混んでいるわけでもなく(科によっては待ち時間はすごいのだが)、そういうついでの作業にもそんなに支障がないので、まあのんびりしていていいという面もあるよなと思う。松本の信大病院とかにいくとやはりなんでも規模が大きいし人数も多いので、地元の病院に比べると気合を入れていく必要がある。まあどんなことでも(街の大きさについてでも)いいことも悪いこともある、ということだよなと思う。
昨日は病院から帰って母を施設に送り届けたあと、ツタヤに回って「海が走るエンドロール」7巻と「不滅のあなたへ」23巻を買った。それから別の書店に回って「幸せは食べて寝て待て」5巻を買った。ツタヤにあればよかったのだが店員さんに尋ねたら1冊だけ入ったけどもう売れてしまったようだ、とのことだったので足を伸ばすことになったわけだ。普段はかなり混む道なのでちょっと憂鬱だなと思いながら車を走らせたが、昨日は割と空いててすぐに行き着くことができた。こちらには数冊入っていたので特に問題なく買うことができたが、普段買うジャンルのマンガではないので書家が最初は分からず戸惑いはした。ついでにATMで用意する必要のあるお金を引き出した。本当に生きていると人間というものはお金がかかるなと思う。
***
「幸せは食べて寝て待て」5巻は読了。普段雑誌で追いかけてないので完全に単行本派であり、前巻を読んだのはかなり前なので内容的に忘れているところもあったりはするのだけど、なんというかいつものようにしみじみと滋味のある話だなと思う。膠原病でキャリアの道を断たれた30代後半の女性が主人公で、薬膳やゆっくり暮らす人々に出会って元気を回復していくというのが大きなストーリーなのだが、今回出てきた「ウズラさん」というキャラがほぼ同世代感があり、主人公の麦巻さんと同じ団地に住んでいるのにほぼ古民家暮らしみたいなことを実践していて、主人公と話がめちゃくちゃ合うと同時に自分との同世代感も感じるし、若い頃はパンク少女で「我々はどのジャンルにも属さないオルタナティブなんだ」という価値観を持っていて、だから「一人でいることにネガティブな感情を抱きがちな今の風潮は苦手です」というのがまあめちゃかっこいいと思ってしまうところはあった。
全体にとても良い話ではあるのだけど、登場人物たちが「いろいろ疲れてしまった原因」としてあげているのが父親が、とか夫が、とかつまりは有害な男性性によって、ということかなという話になりがちなのはまあちょっとそういうのはもういいよ、という感じになる部分はあるのだけど、しかしこれは年齢の高い女性向けの雑誌に連載されているものなのだからそれはそれで仕方ないか、と思う部分もある。
以前はこういう雑誌においてもそういう切り捨て方をしている作品はあまり読んだことはなくて、その分目に見えない縛りみたいなものがあって、そこから解放されたという面もあるのだろうなとは思うし、そこに余計な言い訳とか回避の工夫をしないでいい分、全体を淡々と描けるということもあるなと読んでいて思う。そこに安住してしまう作品ばかりになってきている感はあるのでまたそれかよ、みたいな感じになるのはちょっとアレな部分もなくはない、という程度の話でもあるのだけど、まあ先に述べたように読者対象が年齢の高い女性ということを考えると、そこで共感性をゲットするという必要もまたあるということでもあるのだろう。
全体に「父親」とか「夫」という存在の影が薄い、出てくる男性もそういう部分が削ぎ落とされた感じの人がほとんどで、逆に読んでいてそういうものの必要性を意識してくるようなところが自分にはあるのだけど。
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「海が走るエンドロール」もまた60歳を過ぎて映画監督を志した女性の話で、美大の映画コースで美形のアセクシュアルな才能のある若者とお互いに自分の映画を作っていく話なのだが、彼女はそういう自分の進路について、心の中にいる夫と会話をしたりそれを諦めたりしているところが面白い。今回は若者が映画祭でグランプリに選ばれ、その授賞式にトロントに行くのだが、それに同行するという話で、全体にとても読みでがあった。
この作品単体の感想はまた書きたい感じはするが、なぜか最近映画(アニメ映画)をテーマにする作品がかなり多いなと改めて思った。今朝更新のジャンププラス「BEAT AND MOTION」の主人公はアニメ映画を作っていて、他にもジャンププラスでは映画監督を志す主人公が強力なライバルとぶつかって悪戦苦闘する「クニゲイ」もあって、この「海が走るエンドロール」とはまた違うけれども、映画を作ることについて考えさせられる。「【推しの子】」でも最近の部分は映画「15年の嘘」の撮影、これは役者の側からの描写がほとんどだが、があって映画というジャンルがクローズアップされている感があった。
「食戟のソーマ」のコンビがジャンプに連載していた「テンマクキネマ」は中学生が映画を撮る作品で、これは短期打ち切りになってしまったので少し残念だったけど、少し時期が早かったのかもしれないなとは思う。ここにきて様々な映画マンガが描かれているというのもおもしろいのだが、その理由はうまく分析はできていない。
***
今朝は【推しの子】について考えたことをいろいろまとめようと思っていたのだけど、どこまでできるか分からないが少し書いてみよう。
【推しの子】のラストについていろいろ言われているけれども、そもそもこの作品はどういう作品だったのかということも考えた方がいいかなと思った。
ヤンジャン作品公式の章立てによれば、1プロローグ幼年期、2芸能界、3恋愛リアリティショー、4ファーストステージ、5 2.5次元舞台、6プライベート、7中堅、8スキャンダル、9映画、10終幕という構成になっている。こうしてみると、「芸能界」をテーマにずいぶん多くの内容が取り上げられてきたのだなと改めて思う。
1の幼年期は前世のゴロー・さりなのエピソードから共通の推しであるアイの妊娠、そしてアイの子供、アクアとルビーとして転生する、文字通り「推しの子」として生まれるという話から、アイのもとで育てられるいわば幸福な幼年期が描かれていて、最後にドーム公演の当日の朝に、アイがアクアの目の前で刺殺されるという衝撃の展開で終わる。私はこの幼年期の話がめちゃくちゃ好きだったので、10話で終わってしまったことはとても残念だった。
ここでの裏テーマは、「アイドルにはお金がない」ということだろうか。もちろんアイドルが子供産んだというスキャンダルをどう隠蔽するかというてんやわんやが表ストーリーではあり、転生したが故に異様に早熟な赤ちゃんの二人が巻き起こすドタバタみたいなものが見所なのだが、そこそこ売れているアイドルでも年収は低く、親として子供にいい教育を与えたいと考える殊勝なアイが落ち込んだり、二人のかわいさをきっかけに立ち直ったりするところが本当に好きだった。そしてついに夢を叶えてドーム公演という当日に天国から地獄に突き落とされる、というところまでが一つのドラマとして成立して、それを作品全体のプロローグにするという構成は、やはり今考えてもすごいと思う。そしてアニメ化の際にここまでを事前に映画として公開するという手法も、「鬼滅の刃 無限列車編」と並んで新しい手法として成功したなあと思う。
第2章「芸能界」はアイのようなアイドルになると決意するルビーを守るために、自分も芸能界に入ることになるアクアと、子役時代に出会った有馬かなとの話が中心で、ここでの裏テーマはネット配信の時代になって、粗製濫造されるドラマ作品ということだろうか。そしてその原作として、そこそこ売れたマンガが粗末に使われる、という現実の告発みたいなものだっただろうか。
子供の頃は天才子役として売れまくった有馬かなが一応座長格でモデル上がりの演技未経験者ばかりで仕上がりのとんでもないドラマが作られつつあったのを、かながアクアをキャストに引き込んでアクアが策略で最終回だけ見られるものにした、というエンドになり、ここでかなやアクアが局所的に注目され始める、という展開も今思い出すと印象的だったなと思う。そしてここでアイと双子たちの関係、アクアとルビーの関係だけでなく「有馬かな」というこの話のもう一人のヒロインが登場することになった。
第3章の恋愛リアリティーショー編は、まさに「恋愛リアリティーショー」そのものがメインテーマで、この辺りからいわば裏テーマが社会的に反響を呼び始めた感じがある。テレビの「言ってはいけない真実」みたいなものをこの作品が掘り起こしていくのではないかという期待が一気に高まり、キャラクターの人気だけでなくそういう意味での関心も高まったのがここだった。
キャラクターの上では、有馬かなに対抗するもう一人のヒロイン、黒川あかねが登場したことが大きい。タレントとしてもう一つ目が出ないことを気にしていたあかねがついやり過ぎてしまったためにSNSでめちゃくちゃに叩かれ、ついには雨の歩道橋から身を投げようとしたまさにその時にアクアに助けられる。ここは現実に恋リアで死人が出ていたこともあって、大きな反響を呼んだ。また助けられたあかねは実は演技の天才で、「アクアのタイプの女性を演じる」ということから「スーパーアイドル・アイを演じる」ことによってアクアの心を大きく動かす場面も、今思い出すとすごいなの一言だった。
そしてアクアはこの恋リアであかねを「利用価値のある存在」として意識し、「公式的な恋人」になることによって、ハートブレイクしたかなとの間で三角関係がスタートする。この辺りからカプ推しの人々が騒ぎ始めることになったのだなと思い起こすと少しほっこりする。
いや、書き起こしてみるとやはりこの作品はものすごく良くできているし、考えれば考えるほど赤坂アカさんは天才だなとしか思えない。そしてそれを余すところなく絵として表現する横槍メンゴさんもすごい。この二人が組んだら絶対面白い作品になると開始当初から思っていたが、本当に期待を遥かに超える作品になったと改めて思う。
まあその作品が今では叩かれているのはなんというか期待が大きすぎるが故に普通の物語の畳み方をしたら物足りなく思われたという成功者ゆえの蹉跌みたいな感じになっているのだけど、不満を持っている人たちは実際のところ第一話から読み返してみたらどうかとは思った。
まあ振り返りも全章は一度にはできないので、とりあえず今日はここまでにしたい。この作品のラストをめぐる騒動について思ったことなどまだ書いてないことはたくさんあるのだが、その辺もまた改めて書きたいと思う。
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