「教育勅語」から見える国家観の議論ん必要性/昭和天皇と貞明皇后の御関係:「象徴天皇の実像」を読んでいる
Posted at 24/11/06 PermaLink» Tweet
11月6日(水)雨上がり
ようやく秋めいてきて、11月の雨を冷たく感じるようになってきた。当地の今朝の最低気温は9.4度。冬型の気圧配置も進んでいるそうで、要は日本海からの降水が山を超えてきたということだろうか。雪にある前にすでに気圧配置は冬型になっていて、北陸でもこの時期は時雨るというけれども、まさにそういう感じの雨だなと思った。
昨日は午前中母を歯医者に連れて行き、帰りに銀行に寄って記帳したりお金をおろしたり。お昼はあるもので済ませて、少し横になっていたら寝てしまった。
「象徴天皇の実像」134/238ページ。第6章の「人物観1 皇太后節子」を読んでいる。皇太后節子とは大正天皇の皇后・貞明皇后のことである。この辺りはことさら昭和天皇と貞明皇后の仲がうまく行っていなかったことを強調する書き方になっていて読んでいて不快に感じるところが多い。逆に言えば皇室は家父長制の最たるもののように言われているけれども、宮廷、特に女性皇族や女官たちに対しては天皇の母である貞明皇后の威令が最も強く働いているのだなということは思わされた。戦時中に制定された質素な「宮中服」を昭和天皇の皇后・香淳皇后も皇太后が亡くなるまで着用せざるを得なかった、ということが書かれていて、皇太后自身はモンペを着ていたとあるが、Wikipediaではまた違うことが書かれているので、何が本当だったのかもう少し調べてみないとわからないなとは思った。
第1章に戻ると、昭和天皇は戦後廃止された教育勅語について、欧米のような「キリスト教倫理という共同の信念」がない日本においては、教育勅語のようなものが必要だという意見を述べておられたという。
もともと大日本帝国憲法自体を変える必要はないと考えていたわけだから、今の日本国民にとって必要なのは国民主権の概念に基づく新しい民主主義的倫理である、とはお考えになってはいなかったことは容易に想像される。昨日も書いたが昭和天皇自身の自己規定は立憲君主であったと思われるし、基本的にはいわゆる儒教的な倫理が日本人にとって、日本国民にとって相応しいと考えておられたのだろうと思う。
この本では「忠君愛国そのものが問題だったのではなく、忠君愛国を利用して行き過ぎをやったのが問題だったのだ」という問題意識をお持ちだったことが描写されていて、昭和天皇のお立場からは当然ながらそうお考えだろうなとは思った。この辺り、国民的な議論なくGHQが押し付けてきた国民主権概念を昭和天皇が全く受け入れていないのは面白い、というか当時の日本において国民主権概念はやはりかなり特殊な概念であったのではないかという気はする。
今となってはもう分からなくなっているが、日本の法制というのは基本的に大陸法、特にドイツ法からきているので、ドイツ的な国家有機体説とか法人国家説が明治憲法国家の根本的な法意識としてあったわけで、そこにいきなりラジカルな社会契約説に基づくルソー的国民主権説をもとにアメリカ的な国制を、頂上に象徴天皇というこの世のどこにもなかったものを戴く形で、いわばキメラ的な国家体制を立ち上げようとしたのはもともと無理があったわけで、昭和天皇の認識も基本的には明治憲法的な発想でこの問題を考えているように思われる。
国家有機体説は、政府の中心となる人たちを「首脳」と表現するように、国家を有機体=生物のアナロジーとして捉える考え方、法人国家説は国家を一つの法人として捉え、国家機関がそれぞれの法人内部の役割を果たすという考え方で、天皇もまたその一つの機関である、というのが「天皇機関説」である。社会契約説に基づく国民主権体制すら教えられていない中学生に法人国家説の主張である天皇機関説を教えることはそういう意味でもかなり無理があるのだが、国制についての考え方は社会契約説以外にもいろいろある、ということはもっと理解されて良いようには思う。
従って昭和天皇が社会契約説をアプリオリに正当なものと考えがちな我々現代人とは違う発想をするのは当然なので、その点において「教育勅語が必要だと考えるなんて」と批判するのは正しくない。
要は、日本国憲法の国の成り立ちの構造、ストーリーそのものを実は問い直すべきなのであって、それこそが本当の意味での憲法改正の意義であり、また戦後政治の総決算になるのだが、そうしたいわば政治哲学的な部分にまで踏み込んだ議論はなかなか行われておらず、表面的な議論に終始しているのは大変残念なことだと思う。
要は、昭和天皇の批判は教育勅語にしろ天皇の存在にしろ、それを利用して戦争に駆り立てようとした勢力に対する批判であり、そういうことがあったからといって従来の国制そのものを全部ボツにするのは正当ではないと考えておられたということだと思うし、それはもっともな不満の表明であったと言えると思う。
儒教倫理に対しては日本では忠君愛国や親孝行などのイメージが強いが、例えば朱子学などはもっと宇宙的な議論から始まる広大な哲学体系であって、今日の中国や中華圏の経済的発達も儒教倫理圏であったからだという主張もあるわけだが、そういう視点からも日本における儒教倫理の立て直しみたいなことも考えられてもいいのではないかという気はした。
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