昭和天皇こそが日本の真の保守なのではないか
Posted at 24/11/04 PermaLink» Tweet
11月4日(月・振替休日)霧
昨日は午前中ブログなど書いた後、「昭和天皇拝謁記」を読みたいと思い楓樹文庫に行ったのだが、閉館だった。休日なので当然やっているかと思ったら逆に祝日は休みだから日曜でも休む、ということになっていたようだ。そして月曜休館なので今日も休み。とりあえず原武史さんの本を読む前に原著の方を少しでも読んでおこうと思ったのだが、手に入らないので平安堂に行って原武史「象徴天皇の実像」(岩波新書、2024)を買った。そこで金曜日に発売されていたことに気づかなかった週刊スピリッツも買おうと思ったのだが、すでに売り切れていた。昼食と夕食の買い物をして帰る。お昼を食べた後、少し庭周りのところを蔓を払ったり草を刈ったりした。
夕方出かけて岡谷に行き、下諏訪のセブンイレブンに入ったがスピリッツはやはりない。書店に行くとここは諏訪地区でも一番大きいからかまだ残っていて、ようやく買うことができた。
***
時間のある時に「象徴天皇の実像」を少しずつ読んでいるのだが、著者の原さんは昭和天皇をより卑小な方向へ書こうとしているところがあるなと読みながら思った。原さんは昭和天皇だけでなく大正天皇についても書いていたように記憶しているが、尊皇意識みたいなものはあまり持たれていないようで、かといって天皇制廃止を主張したいわけでもないのかな、という感じでなるべく客観的にという意識はなくはないのだと思うが、やはり大御心を注意深く理解しながら拝読する、という感じよりは客観性というか人間性の造形のところでより偉大な解釈とより卑小な解釈があるとすればより卑小な方を取る、という程度の忖度が描き方にあるようには思う。
おそらくそういう内容だろうと思ったのでまずなるべく原著からと思っていたのだが、逆にいえば読みながらアカデミズム左翼やこの本の読者であろう天皇制廃止論者の捉え方の逆を行けば逆に昭和天皇の真意が掴める、ということもあるのではないかと思い始めた。
内容的には、「昭和天皇拝謁記」の原さんによる読解というか、これを史料とした研究上の基礎的な読み解きという感じだが、「昭和天皇拝謁記」というものが昭和24(1949)年から28(1953)年、つまり敗戦後のGHQ支配の時代からサンフランシスコ講和条約を経ての「独立の回復」後にまたがる時期に当時の宮内庁長官の田島道治が昭和天皇とのやりとりを記録したものである。
昭和天皇のお言葉や側近とのやりとりというものは戦前だと「西園寺公と政局」であるとか侍従長を務めた本庄繁による「本庄繁日記」ほかそれなりにあって、戦後だと入江侍従長の「いくたびの春」などがある。私は取り立てて昭和天皇について研究しようと思ったことは今までなかったのでそんなに持ってはいないのだが、それでも本棚を探ったらかなり出てきた。あと、二・二六事件で失脚した真崎甚三郎の子息で戦後昭和天皇の通訳を務めた真崎秀樹の「側近25年 昭和天皇の思い出」も読んだことがあるのだが、今手元に見当たらないのでおそらく東京の自宅にあると思う。
「象徴天皇の実像」に話を戻すが、Twitterで読んだツイートで昭和天皇に対する批判に対して喝采を送り、「植民地主義者」だのなんだのと批判しているのを読んで逆にそういう皮相な読み方ができる本なのだろうなと思っていたのだが、やはり昭和天皇について全否定しようとしている人たちがこの本についてツイートしていて、この本には逆に意義があるかもしれないと思い始めた。
つまり、この本で否定的に扱われていること、あるいは否定的に扱いたいと思っている人たちが引っかかっていることが、昭和天皇のある意味真意であるところは大きいだろうと思われるし、またそれこそが日本の保守としての本来あるべき思想をかなりの部分体現なさっているのではないかと思われてきたのである。つまり、昭和天皇こそが日本の真の保守なのではないか、と思い始めているということである。
私は今まで日本の保守思想というものについていろいろ調べて自分なりに書いてもきたけれども、どうもこれだというものがなくて、近代日本の体制変換というものは明治維新という革命と第二次世界大戦の敗戦による連合国による懲罰的な占領策によってなされたわけだが、明治国家の建設も戦後国家の建設もそれぞれに場当たり的に状況に対処していったらこうなった、みたいなところもかなりあるわけで、それぞれを主導した思想的な指導者がいたわけではない。まだ明治維新の方は近代化を唱えた福澤諭吉や憲法制定を主導した伊藤博文のような人がいたけれども、戦後改革については占領当局と吉田内閣のせめぎ合いのようなところから出てきたものが強く、個々の事例についてマルクス主義経済学者の傾斜生産方式や戦前からの農林省の革新官僚の試案など思想的な源流を辿れるものはあるけれども全般は結局は政治的に決められていったとしか言えないわけである。
だから戦後思想のチャンピオンといっても共産党や社会主義協会の指導者たちや矢内原忠雄のようなアカデミズム的なものはあっても宮沢俊義や丸山眞男のように後からその権威になった人はいてもどの人の思想が体現したもの、と言い得るものは少ない。
逆に保守思想家といっても吉田茂が保守反動と言われたり、また彼の弟子と目された池田や佐藤などの「吉田学校」の面々が「保守本流」と言われ、憲法改正を主張するような戦前からの代議士たち、いわゆる党人派は傍流扱いされたりしているが、保守と言われた吉田自民党や55体制後の自民党の政策を主導した明確な指導者はなく、官僚政治家が官僚を動かして実務的に国家を作ってきたという感じしかしないわけである。逆に言えばそれが「戦後が目指したもの=脱政治・脱思想」であったのかもしれないわけだけれども。
それでは保守思想には芯はないのか、日本の保守思想はイギリスやアメリカの保守思想のようには描けないものなのか、ということになるが、おそらくそんなことはないと思いながらそれを体現した人はいないかと考えていたところに、こういう本が出たこともあり、ちょうどそれが結びついた、ということになるわけである。
昭和天皇がどうお考えになっていたのか、ということはやはりかなり重要なことなわけである。そしてその発言が日本国憲法に反していたりした場合、やはり表には出てこなかった、その実情の当たりがこの本で明らかにされるところがあるということは、かなりワクワクすることでもある。
まずは、昭和天皇が持たれていた思想全体を素描していくことが、日本の保守思想を正確に捉え、またそれについて考察し、またあるいは実践していく上で、大きなヒントになるのではないかと思ったわけである。
今読んでいるのはまだ30/248ページあたりなのだが、ここまでで既に大きな問題である「退位問題」についてそれなりに触れている。(関係ないが、昭和天皇がカトリックへの改宗を検討したことがあるというのは知らなかったので少し驚いた。
昭和天皇の君主意識は基本的に立憲君主であると思うのだが、そのよって立つ憲法は1946年憲法ではなく明治憲法であるのだとは思う。というか、やはり日本国憲法というものはこれを受け入れなければ占領政策がある意味破綻する、軍事的抵抗や共産党による革命反乱、あるいは強権的弾圧による天皇制の廃止などにつながる可能性もあったわけだから、「やむをえず」「忍び難きを忍んで」受け入れた面は強かっただろうし、昭和天皇の叡慮としてはなるべく明治憲法からの継続性をそこから読み取りたいと考えておられたことは想像に難くない。
そして、当然ながら日本の君主である天皇は、日本ならではの特異性があるわけで、その一つは万世一系ということであり、皇位継承の護持、つまりは国体の護持こそが天皇たるものの至上の義務と考えられたわけである。
ポツダム宣言受諾時のほぼ唯一の条件は国体の護持であったから、終戦の詔勅でも原子爆弾などの非人道的な兵器の使用を非難するとともに、平和のためにポツダム宣言を受諾し、耐え難きを耐えるのだ、という論理になっている。「天皇の命令による終戦」の形を取ることで、国体護持を図った、ということだろう。
従って、城下の盟を強いられても国家は存続することが決まり、日本国と日本国民が絶滅させられることはないということになれば、次に確保しなければならないのは国体の護持であって、連合国による責任追及の結果自分自身が退位することになっても、後継者に皇位を継承できるならその義務は全うできる、というのが退位問題の背景にはあったと考えるべきだろう。
現実には極東軍事裁判においても天皇の責任は追及しない方向ができたことで退位しないで済む可能性が出てくると、東宮殿下や弟宮殿下に譲位した場合、むしろ国家のあり方に意に沿わない面が出てくることを心配されたのは当然だろうと思う。
もちろん日本国憲法においては天皇が政治に関わることは国事行為以外にはないことになっているわけだけど、逆に言えば天皇がどういう思想を持っていてもそれを禁止はしないわけである。憲法99条では憲法を尊重し擁護する義務は定められているが、思想信条については当然ながら規定はできない。だから第4条で「天皇は国政に関する権能を有しない」とあるわけだが、「国政に対する発言」が権能の行使に当たるかどうかは微妙なところだろう。しかし実際にはその問題が発生しないように、新憲法下の天皇はほとんど国政に対する発言をしないできている。しかし「お言葉」の中からそういうものを読み取ることは不可能ではないわけで、その辺りが常に問題ではあった。
この「昭和天皇拝謁記」にはそういう意味で「言論の自由を持たない国民には保証された精神の自由を制限された不自由な天皇」による比較的本音に近い発言が収録されていると考えられるわけだから、その思想を再構築するためには非常に有益な資料になると思われる。イエスも釈迦もソクラテスも自らの著書はなく、孔子もその思想はかなりの部分が言行録である論語によって推察されるわけだから、それ自体は特に珍しいことではない。
まあ個人的には、昭和天皇の思想を日本の保守思想の一つの柱と考えると日本の保守思想全体の見通しが良くなり立てやすくなるということがあるので、とりあえず自分なりにこのあたりを読み解いていきたいと思っているわけである。
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