「キモい」という言葉をめぐって:「略すとより凝縮される悪意」と「汚言戦略の愚」/サブカルチャー、保守主義、よりフラットな世界の見方
Posted at 24/10/16 PermaLink» Tweet
10月16日(水)曇り
書くネタがないわけではないのだが、どれも「書きたい」というところまで持っていけなくて、書くことがなくて困っている。というか、どのネタもそれなりに本腰を入れないと書けないような話なのだが、本腰を入れる体力や気持ちの余裕が不足しているというか、まあそんな感じである。
ということで今日はメモ程度にとどめておこうと思うのだが、昨日は午前中体調がイマイチで銀行に行ったりいろいろ用事をやった後で昼食を食べ、午後は歯医者に母を連れて行った。夜は割と調子は戻っていて早く寝て割合よく眠れたのでよかったのだが。
***
村上春樹「ノルウェイの森」に関連して「キモい」という言葉が話題になっているが、それに関連していろいろ書いているうちにこの言葉の問題点についていろいろと整理できたので少し書いておきたい。
この言葉の問題点を言語化するのはどういうわけか難しく、初めて聞いたのはおそらく90年台の後半だったのだが、相当強い衝撃を受けたことを覚えている。
「キモい」という言葉は「気持ち悪い」という言葉を略したものだが、略すことによってよりその悪意が強くなるという不思議な構造を持っている。これは「身体障害者」の差別語として「身障(シンショウ)」という言葉が当時何も考えていない高校生たちに使われていたのだが、これも略すことによってより悪意が増すという言葉の例である。同様な例は最近では「チー牛」だろうか。元々「チーズ牛丼を注文するようなオタク(なんだかよくわからないが)」という意味で使われ始めたネットミームだったようだが、あっという間に「モテない根暗の男オタク、メガネで出っ歯」みたいな白人の日本人差別表現みたいな感じになって、略すことにより差別パワーが何十倍にもなるというのは解明してもらいたいところはある。
そしてこの言葉が使われるのは基本的に発語者が「相手を差別したい、排除したい時」であるから、「差別と排除の言葉」であるわけである。
「キモい」と言われて不登校に陥った子供達はたくさんいるのに、この言葉に積極的な意味を与えて抵抗のシンボルとしようとする一部のフェミニストの心なさには驚くものがある。
これも思い出してみれば「温泉むすめ」を攻撃していた自称女性支援団体のリーダーが盛んに「キモい」という言葉を使っていた。「キモい」などという言葉は基本的に精神年齢の低い高校生くらいまでなら「言葉を知らないんだな」と許容できる適度のものであって、大の大人が皆が見ている場で使うべき表現ではない。それをあえて使うというのは精神年齢の低さをアピールしているのかと思っていたのだが、大学准教授でも「キモいという言葉を奪わないで」などと言ってるのを読むと、どうも戦略的に使おうとしているのだと理解した。
当然ながら、そんな言葉を公的な場所で使うことはやめるべきである。この言葉で不登校に追い込まれた少年少女たちが一体どう感じるだろうか。フェミニズムが自滅したいならともかく、一端の真理があると主張したいなら言葉も正しく使うべきだと思う。汚い言葉の攻撃性に頼る思想はいずれ自滅する。
***
ハイカルチャーとサブカルチャーについていろいろ読んでいたのだが、下の文章を読んで少し考えるところがあった。
https://note.com/kakio_ja/n/n2468f3cdef1c
亡くなった唐沢俊一さんが栗本薫さんへの強い嫉妬の念を持っていた、というのは知らなかったが、栗本さんの華々しい成功に対してそう感じたということのようで、それはそれでわかるとは思ったのだけど、栗本さん自身のサブカルチャーへの出発点はむしろハイカルチャーへの絶望だった、というのはああそうか、そういうことだったのかと思った。
栗本さんらが一つ切り開いたサブカルチャーの世界ももう80年台に始まったと考えると40年くらいになるわけで、その中ではもう一つの歴史みたいなものができていて、ネットを読んでいてもサブカル老人会みたいなのがよく見られる。私が割とそういう人たちをフォローしているということもあって、そういうものかと思って読んでいるところはあるのだけど、栗本さんについての上の文を読んでいて、ハイカルチャーにつながったところからスタートしている栗本さんとどうもそういうものがあまりない唐沢さんとでは根本的な断絶みたいなものがあるんじゃないかという気はした。
私もすでに高校生の頃、70年代のサブカルというか「宝島」みたいな雑誌を読んだりしていて、マリファナがうんたらとかまだ商業化し始めた頃のロックとか尖っていた頃の赤瀬川さんとかどちらかというと全共闘運動に地続きの時代のサブカルについてはそれなりに知っていて、80年台になってもいわゆる「80年台ニューウェーブ」のマンガ家たちの作品を好んで読んでいたのでなんとなく似たようなものかと思っていたのだけど、私は栗本薫は全く経由していないので、おそらく唐沢さんらの見ている世界と自分の見てきた世界は全然違うんだろうなと読みながら思った。
またオタク文化みたいなものを読んでいても、「属性で萌えを判断する」みたいなところがあって、「属性じゃなくて個人だろ」とまあ当たり前のように思う自分にはやはり根本的に何か違うものを感じていたよなと考えていて思った。
文化を理解すること、とは現代においてサブカルやオタクを理解すること、も多く含まれるということもあるから意識的に自分もそういう言説を読んできたところはあるのだけど、実際にはハイカルチャーへの絶望としてサブカルに乗り出した、という栗本さんの方がまだ理解できるところはあるなと思った。
ハイカルチャーとサブカルチャーの間には権力勾配というか「権威勾配」みたいなものがあるわけだけど、そういうものにどうも自分は元々疎くて、それが自分の強みでもあり弱みでもあるんだなと今更ながらに思うのだけど、どうしてもそういうものがフラットに見えてしまう傾向があるのだなと思った。
それに関してはどうも私は生来音痴らしく、ハイカルチャーに権威を感じるとか子供の頃から全然なくて、そういう意味でのヒエラルキーみたいなものに根本的に鈍感なのだよなあと思う。
権威というのもだからもともと社会構成に必要な小道具ぐらいにしか見えない。そういう意味で、私は自分は保守主義だと思っているのだけど、私の保守主義はそれらに絶対的な価値を置いてるとは言えないので、相対的保守主義なんだなと思う。
結局進歩主義より保守主義の方が社会は安定するだろう、結果トラブルに巻き込まれる人が少なく不幸に陥る人は少ないだろう、みたいな意味での保守主義者であって、保守の権威を愛する権威愛みたいなものに欠けているなあと思う。
古いワインや王座や毛並みの良さに対する愛に満ち溢れている人たちというのはいるわけだが、まあ何にしろ愛を持てるということは幸せだと思う。それはサブカルに関してもそうなのだが。
自分なりの視点で文化を見ていけばいいとは思いながら、日本ではどうもハイカルチャーにはハイカルチャー道が、サブカルにはサブカル道が、オタクにはオタク道があるみたいな感じになりがちで、全てをフラットに見る、みたいな感じはなかなか成り立ちにくいなとは思った。
そういえば村上隆さんも「スーパーフラット」という概念を提唱していたが、そういうフラットな世界観みたいなものをもっと自分なりに表現していってもいいのかもしれないな、とは少し思った。
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