私の保守哲学/「レコンキスタ」:王女詩人の恋・スペイン複合君主制とレコンキスタ/左翼思想としてのナショナリズム
Posted at 24/10/06 PermaLink» Tweet
10月6日(日)曇り
一昨日の夜に甥が来て、「民主主義はなぜ正しいのか」みたいな話になって結構久しぶりにその系統の議論というか「自分はこう考える」というようなことをネット以外でやって面白かったのだが、話したことを思い返していくうちに自分の考えの全般がまとまってきたというか、こういうことつまり「私の保守哲学(仮)」みたいなものをまとめておくといいかも、と思えてきたのでしばらくそれに取り組み、なるべくなら紙の書籍にしたいと思うようになった。その時の対話を思い出しながら書くことで目次というか概要の形は大体見えてきたのだが、参考文献的にも膨大になりそうだし手元にない本も多そうなので本格的に書くには準備が必要な感じはする。ただ、自分の年齢もあるしその先の展開を考えたいという意味からも、1年以内に書籍の形にしたいと考えた。
最近考えていることのメモやノート、ブログ記述やツイートなどからもまとめる必要はありそうで、その編纂手順(過程)みたいなものも作っていかないといけない、とも思う。
書きたいことを全部書いたらかなりの大著になる気もするし、それぞれの部分をどうしていくのかということもあるが、新しい本をどう作るかと考えるのは考えること自体が楽しいなとは思う。
***
まあそれに関連してくる部分も少しあるのだが、昨日読んでいた黒田祐我「レコンキスタ」(中公新書、2024)を読んでのメモ、考えたこと、思ったこと。
「第2章 アンダルスの成立と後ウマイヤ朝の栄華」に関連して。
スペイン南部を支配した後ウマイヤ朝は11世紀前半にはカリフが乱立してめちゃくちゃになるのだが、そのカリフの一人ムハンマド3世の王女ワッラーダ(994-1091)はアンダルス文化を代表する女流詩人のひとり、というのはへえっと思った。中宮彰子(988-1074)以上の長命、つまり紫式部の同時代。これはこの本の記述にあったわけでなく、ヒシャーム2世時代以降の混乱について、乱立したカリフについて調べていた中で知ったこと。
ワッラーダの現存する詩は9編ありそのうち8編は若き日の恋人・イブン・ザイドゥーン(1003-1071)との恋愛の詩だという。ワッラーダはその関係を解消した後ザイドゥーンの政敵と関係を持ち、ザイドゥーンはセビリアの王のもとに亡命し、セビリア王がコルドバを征服した期間を除いてコルドバに帰ることはできなかったが、若き日のことを詩にし続けたという。
「第3章 レコンキスタの始まり」に関連して。
「複合君主制」という言葉が最近中世から近世にかけてのヨーロッパの国政を論じるときに出てくるようになったが、この概念自体は1975年にはすでに提出されていたようだ。ハプスブルク帝国に使われているのは立ち読みしたが、この本ではスペインについてそう述べているのを読んでへえっと思った。
「複合君主制」に似た概念に「同君連合」があるが、例えばウィリアム3世治下のイングランドとオランダだけど、同一の国家としてふるまってなかったので同君連合ではあるが複合君主制ではなく、彼の死後イングランド王位は義妹のアンに、オラニエ公位は一族のヨハン・ウィレム・フリーゾに相続された。
つまり同君連合はたまたま君主が同じになったが基本的には別の国、複合君主制は王の下に緩やかに連合が組まれているイメージかなと思う。イングランドとスコットランドも同君連合から複合君主制に進んだということだろう。
アジアにおいても帝国的な成り立ちの国家、例えば清帝国などについて「複合君主制」という概念が当てはまるのでは、という指摘をもらい少し考えたのだが、同君連合もそうなのだが複合君主制は各王朝間の婚姻政策の結果相続関係からそうなることが多いので、東アジアではちょっと例が思いつかない。
従って基本が「一夫一婦制」のキリスト教世界の概念であり、あわよくば他国の王位を得ることを潜在的に求めて結ばれた婚姻関係の結果だと考えた方がいいように思った。最新の研究を読んではいないので推測なのだが、やはりヨーロッパ、キリスト教世界においての用語だと限定的に考えた方が良いように思う。
現在では典型的な中央集権国家であるフランスも、アンシャンレジームの時代にはフランス王国領以外にブルターニュ公国などの君主をフランス王が兼ねていて、そのうえでヴェルサイユの宮廷が全土を支配していたのでより分権的な複合君主制だったと考えられる。革命により一律かつ合理的な支配が徹底され、「唯一にして不可分のフランス」になったと考えられる。モンターニュ派の支配確立に反対して各地で反乱を起こしたジロンド派は「連邦主義者=分権主義者」として革命の理念に反するものとして攻撃されることになったわけである。この思想は帝国主義時代に植民地を「海外県」としたものの不可欠の領土と考えられたアルジェリアは「本土」とするなど矛盾も生み出し、第二次大戦後のトラブルにもつながっている。
スペインでも中世アラゴン王国自体がそうした連合王国であり、カスティーリャと同君連合を組んで複合君主制が進展した後でも分権的な国制は残っていた。
「レコンキスタ」という概念はそれが進行していた当時にはなかった言葉だという指摘はへえっと思ったが、フランス革命以降各国で求められるようになった国民主義=ナショナリズムのスペインでの必要性の要請から、「憎きイスラム教徒から領土を取り戻したキリスト教との運動」としてこの言葉が作られ、強調されるようになったというのはなるほどと思った。
現在67ページ、第2章第1節まで。レコンキスタの起源とされるアストゥリアス王国と、その伝説の初代王ペラヨの話は以前から関心があったのだが、いずれにしても同時代の記録がないところが難しい。またキリスト教側の勇ましい「コバドンガの戦い」の話と、アラブ側の「面倒になったから滅ぼさずに引き上げた」という話の落差が面白いなと思ったが、アラブ権力に抵抗するキリスト教徒の魂みたいな話が結局は大逆転でのキリスト教スペインの成立につながるのだから「反抗の原初形態」というものは侮れないと思った。
またペラヨは一度はイスラム側に下った西ゴート貴族の一人という話になっているが、アストゥリアス王国と並ぶもう一つのレコンキスタの起源・パンプローナ(ナバラ)王国についてもこの本とは別に調べていて、イスラム勢力とフランク王国勢力のどちらも支配の及びにくい西ピレネー地方の独立心の強いバスク人、というものが一つの起源であるというのも面白いなと思ったのだが、目次を見るとナバラ王国についても詳述してあるようなので、先にそちらを読むことにした。
***
国家という概念、ナショナリズムという概念は今日においては右派のものと考えられがちで、左派進歩主義はそれを否定する方向性を持っていると考えられているが、上に述べたようにもともと「ナショナリズム」はフランス革命起源のものであり、その意味で左派的な概念であると考えられる。これは絶対主義諸国に囲まれた革命国家フランスが自らを防衛するための愛国心が起源であるためで、一般の国民自らが国家防衛のために立ち上がったというところに画期的な意味があったわけである。この路線は共産主義国家・ロシアにも受け継がれたわけで、第二次世界大戦、特に独ソ戦を「大祖国戦争」と呼ぶ考え方にも受け継がれている。
また保守主義の考え方から言えば、エドマンド・バークが守るべき四つの存在としてあげているのが国家・教会・墓標・暖炉なのだけど、つまりは伝統王政の国家、信仰の中心たるキリスト教会、自らの父祖たちを含む歴史、暖炉の前の家族、こそが守るべき価値のあるものだというわけである。ここでいう国家は革命国家ではないけれども、保守主義の立場からも進歩主義の立場からも国家は必要なものだとみなされてきた。
ナショナリズムが否定的に扱われるのはそれが戦争の原因になることと、国家による個人の抑圧が問題になるからであって、それが本来的に克服不可能なものであるかについては意見の分かれるところだと思う。国家が最終的に必要かどうかはとりあえずは置いておいて、現状その庇護を前提に我々は生きているというところは確認すべきであり、戦争や抑圧をなくすことと国家の存在とをどう両立させていくかの方を我々は考えた方が良いように思う。
***
とりあえず今日のところはこの辺で。
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