「少年のアビス」(ヤンジャン連載)最終18巻を読んだ。

Posted at 24/10/19

「少年のアビス」の最終巻を読んだ。連載で読んだときは何だこのラストと思って単行本を買うのをやめようかとすら思っていたのだけど、今回単行本で読んでいくつか重要なところを見落としていることに気が付いて評価が180度変わった。

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実際のところなぜ見落としていたのかという感じなのだけど、チャコが「出迎え私だけでよかった?」と聞くところ、「令児は来なくてよかったの?」と言ってることに気が付かなかったのだが、玄は「待たないでいいって言ったし、会いたくない」と言ってるところで突如としてこれは令児のことだと気が付いた。そして読み返してみると、祖母の葬式に来たチャコが玄からの手紙を令児に渡した時そこに「待たないでいい」という言葉が書いてあるのを確認して、なぜここを読み落としたんだろうと思った。

そして、玄に気づかれないようにチャコが手を振った相手は軽トラの運転席にいて、これが令児なんだということに気が付いた。令児は玄のことを忘れてなんかいなかったし会う気があるなら会おうとそこまで来ていたのだがチャコが「会わないって」と合図を送ったのでそのまま次のコマで軽トラは発進していなくなっている。玄の「だってあの女と暮らしてるんだろ?」というセリフで令児がナギと生きて暮らしているということが分かり、そしてそれが「篠岡さん」のところだ、というので納得感のあるラストになったと思った。

篠岡さんという人は多分実際に自分が合えば思想的に合うかどうかはわからないなと感じる人なのだが、このマンガには歪んだ大人ばかりしか出てこない中で、初めて出てきた「まともな大人」だったから、多分この人が救いになるならなるんだろうなとは思っていた。ラスト前のチャコとの再会も篠岡さんの手筈だったし、まあ「とめどなく漂流していく少年たちがまともな大人に救われる」というラストは「ぼくらのへんたい」などでもそうだったが最近のこういう話では一つのパターンとしてはあるし、まあこの作品に関してはとにかくまともな大人の存在そのものが救いなので、そういうラストで十分いいようには思った。

ただこれは一つ間違えると相当イヤミになる可能性はあるとは思うのだけど、「僕のヒーローアカデミア」なんかもそういうところはあったし、大人が少年たちに「頼ってくれ」とメッセージを送る、また送れるということは、多分悪いことではないんだろうと思う。そのうえで少年たちがいかにして自分の力で未来を切り開いていくかということは見たいとは思うのだけど。

これは割と不思議というか面白いと思うのだが、昔は「大人には頼らない」「大人は敵」というのが少年マンガの定番だったわけだけど、今は逆になってるのが大人が大人の役割を果たさねばと大人に対してのメッセージになっているならそれはそれでいいのだが、私などが読んでいるとどうも子供が囲い込まれているように見えてしまうのだよなあと思う。これは少子化が進んで子供を大人になるまでちゃんと見守って育てるみたいな社会として過保護な状態が強まっている感じがして、自分が子供だったら窮屈に感じるのではないかという気がしなくはない。子どもに「自由」と「保護」とどちらを与えるのか、ということで言えば昔は、というか私が子供から学生時代のころは圧倒的に「自由」を与えるのが模範だったようにおもうのだけど、いまは「保護」が本当に強く、どうもそのあたり、本当にそれでいいのかと思うところがある。

いや、それにしても「少年のアビス」、ラストで令児が「一緒に死のう」と言っていたナギに「あなたの名前が知りたい」ということで、「一緒に生きよう」という意味になるというところが、本当にいいなと思った。これも連載で読んだときにはどちらの意味になるのかわからなくてすごく中途半端だった。

今ようやく結論が出てすごく落ち着く感じがした。自分の中でいろいろが収まって、「すごくいい話だったな」と思う。本当に物語はラストによって全然印象が変わってくるのだが、連載継続が約束されていない週刊連載漫画にとって、納得できるラストシーンを用意することの難しさ、みたいなものはあるよなと思った。

自分の感覚では「ラストが捻じ曲げられた」と感じる作品はいくつかあって、「可哀想にね元気くん」などは本当にこれが書きたかったラストなのかなという気がしたのだけど、もちろん作者さんの本当の意図はわからない。「恋は雨上がりのように」もそうだったのだけど。

全体に、「田舎の閉塞した空気感」と「歪んだ人間関係」を描いた作品であるわけだけど、その解決という方向を考えるとどうしても左寄りの感じになってしまうのだよなあとは思った。ただまだこの作品、読めてないところが多くありそうなので、今回は現時点での感想ということにして、また読み直してからちゃんと書ければと思う。

ただある意味ありきたりの結末になった、と言えなくもない気はするのだけど、ありきたりでいけないということもないので、まあもう少し考えてからまた論じたいと思う。


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