石破茂を勝利させた「60年前の夏祭り」演説/「ふつうの軽音部」40話「片鱗を見せる」の強烈な衝撃
Posted at 24/09/29 PermaLink» Tweet
9月29日(日)曇り
石破新政権の組閣が進んでいるようで、その中で高市早苗さんが総務会長に、という話があったが高市さんは固辞したようだ。それについてはいろいろ意見をTwitterなどでも読むのだが、総務会長は意見の取りまとめが主な仕事だから、派閥が解消された今はボスに了承を取り付ければ良いという話ではなくなり、少数意見を粘り強く説得しないといけない大変な仕事になることが予想される上、石破氏と高市氏は意見の隔たりはかなりあるから、自分と違う石破氏の意見で他の議員を説得しなければならない場面はかなり多いだろうから、高市氏として断る、というのはわかりやすいと思う。石破氏は党中央から長い間離れていた人だが、安倍政権以来主流派にいた高市氏としてもここは一時野に下る(党内にはいるけど)という決断をするのは別に間違ってはいないと思う。
もちろんこれは石破政権がうまくいき、総選挙で勝利した場合は長期的に冷や飯を食う可能性もあるわけだが、その可能性は低いと見ているのかもしれない。実際のところ、石破氏の意見は安全保障について「アジア版NATO構想」などちょっとある種素人じみた構想もあるので、これはそのままは使えないだろうと思うし、野党もまたその辺りは石破総理選出の臨時国会の討議で突いてくるだろうと思う。まだ党内で十分に揉まれていない安全保障構想などは格好の餌食なので、うまくいかない可能性もなくはない。
それにしても石破氏は党内に敵の多い人で、特に麻生太郎氏などは石破氏選出の際の挨拶にも拍手一つしなかったようだが、濃淡はあってもそういう感情を持っていた人は少なくはないだろうと思う。
しかしそれならばなぜ彼は総裁になれたのか。党内の力関係を単純に表現した第一回投票では高市氏がトップになり、党員票さえ高市氏にリードを許した。議員票では小泉氏・高市氏に大きく水を開けられていた。その彼が総裁になれたのは、もちろん水面下での合従連衡運動が石破氏有利に、特に岸田首相が自分の意のままにならない高市氏を避けるためにかなり手を回したことは言われてはいる。ただそれだけでストレートに石破氏の勝利に結びついたかというと、無記名投票である以上岸田さんや菅さんの指示に従わなくてもわからない、密かに高市氏に恩を売ろうとする議員がいてもおかしくはないわけである。
そんな彼らの心を動かしたのは、あの決選投票前の石破氏の演説だったのではないかと私は思う。
https://x.com/accentdeverite/status/1839858016889552984
https://www.sankei.com/article/20240927-ZBRUWYXJHFFYPHHV3AAMTTLJB4/
まず彼は多くの敵を持っているということを自覚した上で、それをまず「お詫びする」ところから演説を始める。その上で上のspartacus氏のツイートにあるように、「故郷の神社の前の総裁選出馬宣言の場面から、「暑い日でした」で一挙に60年前の夏祭りがオーヴァーラップされ、そこから、今ほど豊かではなかったかもしれないが幸せだった、あの時代の日本を回復したい、と展開」した。
私は初め、この演説をどう評価していいのかわからず、「脱成長」「高市さんの成長政策の否定」という方向で捉えたので、そんな方向で今後の日本を考えるのはまずいのではないか、と思ったのだが、そうではなかったということなのだなと思う。
この演説を聞いているのは自民党の議員たちで、年齢層は50代以上が大半、そして多くの部分は地方選出議員であり、農村や漁村、地方都市に金帰月来で日常の政治活動を行なっている人たちである。彼らの中にはそういう「故郷」が賑やかだったあの頃を取り戻したい、という思いは、たとえそれが幻想に近いものであっても強いものがあるだろう。高市さんが都市型保守の、つまりは日本国の将来を自己の将来に投影するナショナリスト的傾向を持っているとすれば、石破さんの本領は郷土愛主義、パトリオティズムにあるということを感じさせたわけである。
現実には自民党政権は郷土を必ずしも維持してきているとは言えない、ネットでも「石破はなぜこんな場面で里山資本主義みたいなことを言うのか」と言う声はあったが、自民党のやってきたことは逆に里山資本主義の破壊の面も強いわけである。しかし大規模公共工事や農協組織の維持というのは都会の人から見たら超高齢層が利権の維持に汲々としていると見えるだろうけれども「これからも生活できる故郷」「維持できる農業とその仲間」の象徴なわけで、「小さいことは抜きにして」そういうものを守る意思が石破さんの中にある、ということを感じて感銘を受けた人が多かったのだろうと思う。
ただ、それが実際に可能なのかということはわからない。自民党も新自由主義の政党になって久しいと言われているが、党派党略だけで動く場面ではそうであっても、現実の議員たち一人一人の心の中に還ってみれば、本当はそういう「故郷の愛する心」に動かされる人たちの集団であった、ということが最後の最後の土壇場になって明らかにされたのではないかと思う。
実際のところ、ここで保守色が強い「史上初の女性宰相」が生まれていれば、それこそ「男女平等指数」は爆上がりだし、左派の多いフェミニストは嫌がるが、保守中道の人々にとっては悪くない選択だったと思う。しかし最後に来てそうはならなかったのは、石破さんの方が「より多くの議員の心を掴む言葉」を持っていた、ということなのだと思う。
高市さんの演説も私はそう悪くはないと思ったが、そういう議員たちの心の奥底にまで届く言葉ではなかったとは思う。また、冒頭で「女性として」という言葉を口にしたが、これはこの時点まで高市さんが女性であることをあまり考慮していなかった人たちにとってはマイナスに働いたと思う。確かに女性として総裁選の1回目の投票で一位になったのは彼女が初だから、それについて上気した気持ちになるのはよく理解できるのだけど、そういうことも相まってなんというか「弱さ」みたいなものを感じさせてしまった。普通の女性候補ならそれでも通用したかもしれないのだが、彼女は「タカ派」「ナショナリスト」を売りにしてきた人なわけだから、ここで弱さを見せるのは大きなマイナスだったと思う。「ガラスの天井」というのは後一歩で敗北したヒラリー・クリントンが使った言葉だったが、高市さんがガラスの天井を破れなかったのもまた政治や社会のせいだけではなかったのではないかと思った。
私が思い出したのは、ジョルジュ・ルフェーブルが「1789年」で叙述した「8月4日夜の魔法」の話である。1789年8月4日というのは、フランス革命における「封建的特権の廃止宣言」が可決された日であり、7月14日のバスチーユ牢獄襲撃事件以来、この日までフランスでは全土の農村で「大恐怖」と言われる農民反乱が領主の館を襲撃するという事件が止まらない状態になっていたのである。この日、「三部会」の貴族や聖職者の議員も合流していた「国民議会」において、封建的貴族・大領主たちまでもが賛成して封建的特権が廃止された。その討議はまるで魔法にかかったように進められたので、ルフェーブルはそれを魔法の夜と呼んだわけである。
その後のフランスでは、封建的領主たちは再度それを否定する方向に、自分たちの権利を取り戻す側に回ったわけだが、もう2度と戻ることはなかったわけで、その不可逆の進行がこの日の議会の討議によって熱に浮かされたように記憶が正しければ全員が賛成して決定されたわけである。
こういう演説の力の最も有名な例はシェークスピアが「ジュリアス・シーザー」で描いたシーザー暗殺後のアントニーの演説だろう。独裁者を倒した、と正当性を主張するブルータスたちに対し、シーザーの美点を取り上げて懐かしむアントニーの演説によって非難の矛先はブルータスに向いて完全に情勢は逆転した。
まあそういう歴史上有名な例を思い出すほど、地味な演説ではあるのだが、石破さんの演説は訴求力を持ったのではないかと思う。政治家の言葉の底力というものをまざまざと思い知らされるが、高市さんもこれを機会にそうした力を身につけてもらって、捲土重来を期してもらいたいものだと思った。
***
https://shonenjumpplus.com/episode/17106567255513411289
昨夜はなんとなく中途半端に9時ごろ寝てしまい、起きたら2時過ぎで流石に早いなと思ったのだが、することを少しして寝ようとちょっとごちゃごちゃして、もう一度床に入ったのだがあまりうまく眠れなくて、結局4時ごろに起き出した。
土曜日の深夜あるいは日曜日の未明に、いつも寝る前に読むか起きてから読むかで迷う「ふつうの軽音部」なのだが、今朝はその4時前に「第40話 片鱗を示す」を読んだのだが、めちゃくちゃ衝撃を受けてしまった。今3回目を読み直してようやく冷静な気持ちで読めたのだが、そういう気持ちで読むと普通に面白い。しかし「レイハー鳩野」という対立構造の枠組みの中で、鳩野に対する期待が盛り上がるだけ盛り上がっている当方としては、ほとんど何が起こったのかわからなかった。しかも歌った曲がブルーハーツ「リンダリンダ」冒頭のアカペラである。今まで知っている曲が扱われたことがなかっただけに、その衝撃もかなりあった。
今までも普通に面白い場面はたくさんあったし、感動的な場面もいくつもあったのだが、これだけ「やっちまった」感が爆発する場面を読むのは初めてだし、ある意味「共感的羞恥」がこれだけ感じられた回も始めてなので、そういう感情の渦巻きが自分を虜にしてしまったということなのだろうと思う。
詳しく見ていくとかなりネームも絵もいつものように工夫されていて、本当に読み応えがある作品なのだが、盛り上がるだけ盛り上がってそこから逃げ出してしまうというパターンは鷹見に怒った時以来で、しかもその普通でなさは偶然それを見かけた厘が「神の顕現」と腰を抜かしてしまうほどだったわけである。(だから「厘だ厘だ」なのかというコメント欄の書き込みを読んで爆笑した)
というか、読んだ後はその衝撃に耐えられず何度も思い出し笑いを繰り返し、読み返しながらようやく詳細を掴んでいくというパターンだったのでこれは普通の(つまり特にファンでない)人にはどれだけ通じるのかなあという感じだったが、何度も考えているうちにかなりサイコーだったことがわかってくる、という感じになった。
まあ感想自体が混沌としていて申し訳ないのだが、「初めて読んだ時の衝撃」というのはちゃんと書いておかないと忘れてしまうので、とりあえずは記録しておきたいと思う。また後になって読み返して、より客観的に書けるかもしれないのだが。
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