「Thisコミュニケーション」が面白い:成長と救済の物語としての悪漢小説(ピカレスクロマン)/ジャンプコミックスを買った
Posted at 24/08/03 PermaLink» Tweet
8月3日(土)晴れ
今朝の最低気温は24.2度でほぼ熱帯夜。夜中に暑くて目が覚めた。トイレに行って水を飲んでもう一度寝たら寝られたが、まあ今が一年中で一番暑いと思って頑張るしかないかなという感じ。
昨日は午前中母を病院に連れて行き、西友で買い物をして、そのままツタヤに行ってジャンプコミックスを8冊買った。「僕のヒーローアカデミア」41巻、「アンデッドアンラック」22巻、「SAKAMOTO DAYS」18巻、「アオのハコ」16巻、「キルアオ」6巻、「チェンソーマン」18巻、「正反対な君と僕」7巻、「目の前の神様」2巻。かなり売れ線が揃っている感じ。夏休み中だから売れ線で固めてきたのだろうか。それともたまたまか。
以下、「Thisコミュニケーション」のネタバレ感想です。
Twitterで推しのマンガ家さんが面白いと言っているのを読んでKindleで読み始めた「Thisコミュニケーション」だが、一気に12巻読み切った。これはかなり面白い、というか本当によくできた悪漢小説。ピカレスクロマンというやつだ。悪の魅力というのをとことん描いているが、最後はお決まりの破滅で終わるのもいいし、死ぬ直前の一瞬にハントレスたちと再会できるのもいい。合理主義的に「死ぬまでに一食でも多くの食事をする」と決めてそれゆえに人殺しさえ厭わないが、生き残る確率を高くするためには不死に改造された怪力の少女たち=ハントレス(hunterの女性形)6人を一人一人しっかり理解し、その信頼を勝ち得ていくように振る舞う。しかし根本的にその人間性を疑われるようなミスをしてしまったら、躊躇なく彼女らを殺す。彼女らは不死なので、8時間したら死ぬ前1時間の記憶を失って再生する、という設定である。
まあ死というものは不可逆だから恐ろしいのであって、死んでも再生するならそんなに恐ろしくはない気もするが、その中の一人は死ぬ前1時間の記憶も失わない、つまり殺された時の記憶が残るという設定で、これは怖いと思った。また生き返るとはいえ根本的に「人を殺す」ということがいいことであるはずはなく、それを躊躇しないことがバレた時にハントレスたちは少なくとも最初はドン引きしたわけである。
細かい設定で感心するところはいろいろあるし、軍事知識などが縦横に生かされているのもいい、また正統派SFみたいな設定もかなりうまく行っていると思うし、何よりだんだんその人間性がバレながらも実はただ合理的に行動しているだけだというデルウハの芯が晒されていくに連れ、ハントレスたちの信頼もより本物に近づいていくという展開もとても良かった。人と人との信頼というのはもちろん相手を理解し相手の言って欲しい言葉を与える、というようなある意味技術的な面から生まれるところはあるのだけど、それが打算から発されたものでも大事なものは大事だし、その打算=合理性によって必要とあれば何度も殺される反トレスたちが、逆にデルウハによって頼りにされている=必要とされていることがわかってくるにつれ、その信頼に応えようと成長していくのもとても良いと思った。
6人のハントレスはそれぞれ面白いし、成長するに連れて魅力的になってくるし、またより早く生を駆け抜けてしまった「なな」と「はち」もとても良かった。中でも「よみ」の魅力、最初は粗暴なだけだったのが能力をデルウハに評価されていくうちにどんどん力を開花させていき、デルウハに対する感情もより親愛さをましていくのがよく、まあ正ヒロインは彼女なんだろうと思う。デルウハは最終的には自分が生き残るために彼女らを鍛えていくわけなのだけど、彼女らを失って自ら最後の時を迎え、彼女らは彼に鍛えられた能力を持って世界を救っていく。
デルウハの努力は「一食でも多く食べる」という目標に向かって最大化されたものだから最終的には敗北に終わるわけだけど、それによって鍛えられた彼女らの力はそこで終わることなく、世界を変えて世界を救っていくというのがなんだかとてもじんわりした。元々はその「世界を救う」という目標さえ、「人を殺す」ことを躊躇する彼女たちに「大義」を与える、という計算からなされたものだったのだけど、それが結果的に本当に世界を救うことになってしまった、というのがパラドクシカルなハッピーエンドとして最高だった。
だから、デルウハと彼女たちの関係は最初から最後まで「ディスコミュニケーション」の産物であったとも言えるし、そのディスコミの裏側に確かに「このコミュニケーションを見よ」というような確かな信頼が形成されていて、「Thisコミュニケーション」という題が本当に良くできなもので、ラストまで見据えて作られた、でもその時々の描かれ方は行き当たりばったりにさえ見える、複雑な構造で描かれているなあと思った。
「信頼を裏切られたものたちが世界を滅ぼす」というのは、永井豪の「鬼」や「デビルマン」などに現れた世界観であったけれども、それを逆転させて「一見裏切りのようにして形成された信頼が世界を救う」というよりねじれた悪漢小説の形態で、救済の物語が語られるというのは本当に私は好きだなと思った。
いろいろな作品は読んでいるけれども、私もこういう小説を書いてみたい、と思わせられたのは本当に久しぶりだと思う。ハッピーエンドの悪漢小説、すごくいいな。
そのほかのマンガの感想もいろいろあるが、今日はこれだけ書いておきたいと思ったのでここまでで。本当に面白かったです。
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