日本がフランスと似ているという言説をめぐって:「フランス的中央集権国家」を目指した日本/フランスの「世俗主義」と日本の「無宗教」
Posted at 24/07/31 PermaLink» Tweet
7月31日(水)うす曇り
昨日は午前中銀行を回ったり。やることが多くて頭の整理とか部屋の整理とかが間に合ってない感じで、今日は車検。午前中はまだいろいろできるのでやることを整理しているが、こういう時はなかなか落ち着かないというか、まとまったものが書ける感じがしないので困る。
というわけでまずセブンに出かけてマガジンとサンデーとコーヒーを買った後、帰ってきて作業場の周りの草刈りをした。自宅周りと違って普段なかなか行かないので気にはなっていてもなかなかできないのだが、今日は30分と決めて朝のうちに少しだけやった。コスモスがもう生えてきていたが蔓草が絡んでいて邪魔そうなのでコスモスの周りと石垣周りなどを中心にやった。なかなかスッキリ綺麗にはできないし綺麗にしてもすぐ生えてくるのでどうしたらいいものかという感じではあるのだが、少しは通行しやすくなったかなと思うのでまあそれでいいかという感じ。
***
Twitterのタイムラインでフランスと日本の共通点みたいなところについて指摘しているツイートがいくつかあり、その辺について考えてみた。明らかに共通なのは「中央集権国家」であるということである。そんなのは当たり前だと思うかもしれないが、日本が明治維新を行った当時、先進国で普通の意味での中央集権国家はフランスしかなかったのである。
最先進国であるイギリスはイングランド・スコットランド・ウェールズ・アイルランドの「連合王国(同君連合)」であり、自由党と保守党の二大政党制で、議会でも与党と野党が対峙するような国制であるから、これをそのまま日本に持ち込むことはできない。ドイツはほぼ統一がなされつつあったが、ドイツ帝国は実は連邦制国家であり、プロイセン国王が皇帝を兼ねるがバイエルン王国その他いくつもの領邦国家が国内にあった。幕藩体制を否定して天皇中心の国家を作りたい日本にはやはりモデルとして不向きである。アメリカもまた連邦制国家であり、なおまずいことに共和制であり、しかも南北に分裂して激しい内戦が行われたばかりで、当然モデルとして採用することはできない。ナポレオン3世の第二帝政の中央集権国家モデルしか、事実上採用できなかっただろう。
実際、革命以降のフランスの教育制度などを調べていて、日本の明治期の学校制度に非常によく似ていて不思議に思ったことがあった。まあ明らかに行政制度は第二帝政と、普仏戦争で倒れた後の第三共和制がモデルにされているところは大きいと思う。この辺はちゃんと研究があると思うのだが、まだ読めていない。
日本の制度はフランスの中央集権的な行政体制をモデルにしている。フランスも革命前は単一のフランス王国ではなく、ロレーヌだのラングドックだのブルターニュだのはブルボン家の国王が婚姻その他で上級支配権を獲得しただけで、国制的に統一されたものではなかった。それが統一されたのは革命政権下で、全土にひとしなみに「県」を置いたわけである。日本の廃藩置県が何をモデルにしたかは明らかだろう。
明治国家体制というと、大日本帝国憲法がプロイセン憲法をモデルにしているということばかりが強調され、法体系も大陸法系のドイツ法から取り入れた部分が大きいからドイツをモデルにしていると単純に考えられがちだが、行政の土台はフランスだということになる。また議会制度は、イギリス的な与党・野党の対立的な構造は避けてフランス的な扇形の議場にし、その上でイギリス的な上院(貴族院)・下院(衆議院)の二院制にするなど、三国のパッチワーク的な作りになっている。また軍制は幕府はフランス式を取り入れていたが普仏戦争の結果を見て陸軍はドイツ式を取り入れ、海軍は当時世界最強だったイギリス海軍のスタイルが取り入れられることになったわけである。
ただ根本の理念が「天皇の下での」中央集権国家であった日本と、「唯一にして不可分のフランス」という理念を革命以来徹底していったフランスとはよく似ている。両者とも本来言語は多様であったが、フランスがアカデミーによって「標準フランス語」が作られていったように、おそらくはそれを学んだ日本でも標準語が作られ、「方言」は排斥されていくことになるわけである。
また、フランス革命以来啓蒙主義的な革命の世俗国家の理念、すなわちライシテ(世俗主義)の理念を持ち、これは革命時代には「憲法に忠誠を誓う」宣誓僧と「ローマ教皇に忠誠を誓う」非宣誓僧に分断されることから始まったのだが、特に第三共和制でそれが推進され、ジュール・フェリーが学校教育の徹底的な世俗化を進めた。学校教師は教会に行かないし、路上で司祭に出会っても帽子を取らない。革命以来の「瀆神」が強く強調され、今回のオリンピック開会式でも神殺し的な演出が随所に見られたのも、そうしたフランスの世俗主義の強い表現であったわけだ。
一方日本では明治政府において、近代化のためにはキリスト教のような倫理道徳の中心に位置づけられる宗教が必要だという考えはあった。「神武創業に帰る」ことを理念に掲げた明治政府においてそれは神道しかなかったが、しかし神道はキリスト教のような啓典宗教ではなく、また神社ごとに教えもまちまちであったし、明治維新に大きな影響を与えた平田派の国学者たちは大いに宗教政策に関わろうとし、「大教宣布」など人工的に宗教を作る試みもあったが政府内の近代化論者には不評で、最終的には皇室の神道儀礼などを取り入れて国家神道を作り、「儀礼であって宗教ではない」というものとし、神社は国費が支出され公的な空間とされ、その代わり布教は禁止された。天理教や黒住教その他神道系新宗教を中心に「教派神道」というカテゴリーが作られ、それは布教が許されたわけである。
逆に言えば、「神道=神社の神様を信じること」は宗教ではなくなったわけである。明治期には神社合祀令が出され、内務大臣だった原敬を中心に神社の合祀が進められた。ほぼ「江戸時代の村落に一つ」にまとめられて、その他無数の神社や社、祠の神々は村の中心にまとめて祀られるようになったわけである。これらの政策に南方熊楠が反対したことは知られている。
実は世界一宗教心が強いのはアメリカだという話もあるが、敗戦によってアメリカの占領下に置かれることになった日本において、こうした国家色の強い「神社神道」というものは、「宗教ではない超国家主義(いわばナチスの無神論)である」とみなされ、廃止されそうになったわけである。こうした神道が歩んできた過程がシンプルなプロテスタントの宗教心を持つアメリカ人には理解し難いものであっただろうことは想像に難くない。
それに対抗したのが神道系の右翼民族派であった葦田珍彦らで、彼らは急遽主な神社の関係者らと会合を重ね、「神道は宗教である」という主張を行なって「神社本庁」という宗教法人組織を立ち上げ、それに全ての神社が所属する形で本末関係があるようにし、GHQに認めさせたわけである。近年は神社本庁と主だった神社との対立から脱退なども相次いでいるが、元々は宗教としての神社の存亡の危機にあって立ち上げられた組織だったわけである。
ただ逆に、政教分離が定められ、神道は国家儀礼ではなく宗教であるということになったので、従来の神道儀礼は国家行事に使えなくなってしまった。「葬儀」や「死者の追悼・鎮魂」というのは最も宗教的な行為であるのに、国家主催の行事ではそうした形が取れなくなり、そのために安倍元首相の「国葬儀」をはじめ、「戦没者追悼式」も無宗教的であり、「千鳥ヶ淵戦没者墓苑」や「平和の礎」や「原爆死没者慰霊碑」なども独特の座りの悪さがある不思議な感覚に満たされているが、こうした「無宗教性」がひとまわりしてロベスピエールの「最高存在の祭典」のようなものに似てきているわけである。
フランスの世俗性というのは先に書いたように革命以来の歴史的背景があるわけだが、日本人が「無宗教」と自らを思いながら初詣に行きクリスマスを祝い仏式の葬式をして不思議に思わない感覚と表面的には似てきたわけである。
この日本人の「無宗教」概念、「特に宗教はやってないけどなんとなく神様はいるような気がする」という感覚は、元はと言えば「神道は宗教ではない」という明治政府の政策に由来するものではないかと思う。神社で参拝はしても宗教ではないし、仏教寺院のように修学旅行の見学の後坊さんの講話を聞かされたりもしない。思えば不思議な宗教だが、あまり不思議にも思っていない。日本において神社とは「そういうもの」であったからである。
「神社空間の公共性」という概念は、上に述べてきたように元来「明治国家における概念」であって、戦後宗教法人になった神社空間は「法人が所有する土地」であるわけだが、そういう意味で私有地となった神宮外苑の再開発に市民運動や行政が関われる「はずだ」という見当違いが起こるのは、いまだに左翼の方々の頭の中が明治人だということなのだろう。
まあこうして考えてみると明治的近代というのは実にキメラ的な存在であって、戦後はそれにさらにアメリカニズムが加わったわけだから、まあ現代日本国家というのはキングギドラのように複雑な歴史複合体なのだなと改めて思ったのだった。
フランス革命であれ明治維新であれ、歴史というものは全肯定も全否定もできないし、今の我々の生活や文明がすでに起こってしまったことによって規定されている部分が大きい。歴史上の栄光も悲惨もそういう意味では「だから何」という部分はある。他の人から見れば幸運に見えたり、あるいは不幸に見えたりする生い立ちが、自分自身にとってはただの現実でしかない、というのと同じだろう。
歴史とは、良くも悪くもすでに取り返しがつかないことであり、我々はその上を歩いていくしかない。ただ、良くも悪くも神(主義)を信じる人たちは、そうしたざっくばらんな歴史観を嫌うものではある。
まあ、客観と主観の両輪あって人は前に進むものだから、どちらかに偏ることのない姿勢もまた、重要なのだと思うのだが。
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