フランス革命と明治維新:「天下の大勢」論の果たした役割/いわさきちひろと「窓際のトットちゃん」
Posted at 24/07/30 PermaLink» Tweet
7月30日(火)晴れ
昨日は午前中に浅間温泉を出て、安曇野のいわさきちひろ美術館へ。母が興味を持てて車椅子の移動もしやすいところ、ということで選んだのだが、久しぶりに行ったけどそれなりに面白かった。今回感じたのはいわさきちひろは絵が上手いなあというまあ当たり前のことなのだが、個性的な表現という方でどちらかというとイメージしていたので、正確な描写、デッサンというよりクロッキーの力なのかと思うが、正確に姿を捉えるのは圧倒的に上手いなと思った。屋外に「窓際のトットちゃん」にちなんだ路面電車が置かれていて、「トモエ学園」の教室風景の再現などが見られた。ここは以前きたことがあると思うのだが、全然覚えていなかった。
ひとつへえっと思ったのが、「窓際のトットちゃん」の表紙のあの有名な絵はいわさきちひろのあの本のための書き下ろしなのではなく、黒柳徹子さんが出版の際にあの絵を選んだものだったということだった。「こげ茶色の帽子の少女」と題された1970年代前半の作品だが、「窓際のトットちゃん」の出版が1981年、いわさきちひろが亡くなったのが1974年なので、本当に没後に作品を選んだということなのだなと思う。そういうことは当時は当然知っていたと思うのだけど、あまりにも自然すぎて特別なことだと思わないのもすごいことだなと思った。
ちひろ美術館を出て、蕎麦を食べに山形村まで。直線距離はそう長くはないのだが、高速を使わないで行くとなると思ったより時間がかかる。すでに2時を過ぎそうになっていたので3時までやっている蕎麦屋を探してようやく食べることができた。宿泊したホテルもそうだがこの蕎麦のセットもかなりのボリュームで、なかなか胃が拡張した感じがあった。
夕方に実家に帰着し、母や弟妹は東京に帰ったので夜はご飯だけ炊いて残り物のもやしを炒め、妹が作ってくれてあった切り干し大根のサラダを食べて済ませた。まあいい小旅行だったかなと思う。
***
五輪開会式の演出の関連で、フランス革命と明治維新を比較するポストがいろいろあったけれども、明治維新は時代的にフランス革命より後(79年後)なのでフランス革命から学んだことがあり、内乱になると外部からの干渉を招くので徳川慶喜が大政奉還を行なって内乱を防いだ、という指摘があったからその前後のことについて考えてみた。もちろん実際には戊辰戦争があったから無血革命というわけではないのだけど、フランス革命に比べると血が流れていないということは言えるだろうと思う。
戊辰戦争での大きな戦いは、上方での鳥羽・伏見の戦い、江戸での彰義隊の戦い(上野戦争)、奥羽・越後での奥羽越列藩同盟との戦い、箱館での五稜郭の戦い、の4つのフェーズがあり、明治政府の勝利という路線がほぼ確定したのは初戦の鳥羽・伏見の戦いで、幕府側のトップの徳川慶喜は江戸に帰って恭順の意を示し、無血での「江戸開城」を実現したわけだが、幕府内の不満分子や薩長に憎まれた会津藩への同情などもあり、その後も戦いが続いた。一番激しかったのは当然ながら列藩同盟との戦いであり、奥羽越という地域が概ね旧幕府側について地域反乱の様相を呈したため、いわば近代国家成立の再統一戦争のような様相はあった。
しかしドイツやイタリアとは違い大政奉還前の日本は徳川家が全土の上位支配権を行使していたから、再統一というよりは「中央政府の交代=革命」であり、そういう意味では革命戦争の意味合いが大きい。「革命」という言葉が意味するところは従来の日本では易姓革命であり、そういう意味で言えば殷周革命の牧野の戦いにあたるわけだが、幕末当時はすでに「革命」という言葉には「フランス革命=王殺し」のイメージが結びついていたし、「大政奉還≒王政復古」の建前からも「支配者は交代したが王朝交代が起こったわけではない」という考えから「革命」という言葉は忌避されて「維新」になったわけである。
日本が明治維新の遂行の際にフランス革命から学んだことがあったとすれば、ラジカルな対立になれば内乱を招き、それは外国勢力の介入を招くということだっただろう。フランス革命政府はむしろ自ら革命戦争を起こしたが、それは革命の急進化を招いてモンターニュ派の「独裁」を招き、追放されたジロンド派や西部のカトリック教徒などが「反乱」を起こしたことになっているが、周辺諸国が「対仏大同盟」を結んで革命政府を潰そうとしたことがそれらの大きな原因になっている。
日本はすでにアヘン戦争の見聞を持ち、長州の四国艦隊による下関戦争、薩英戦争などでヨーロッパの軍事力の強大さは認識していて、第2回長州征伐では幕府軍が敗退するという結果も招いているので、ヨーロッパ勢力が介入した場合の悲惨さは幕府も倒幕側も十分認識していた。
しかし武力討幕によらなければ徳川慶喜をはじめとする幕府勢力の新政府への影響力が強く残りすぎるという問題から王政復古の大号令を発して徳川側を挑発したわけである。この後の展開は新政府側にかなり有利に傾いて「賭けに勝った」という感じはあるが、徳川側も自爆的な行為は謹んだからより平和裡に終わったわけで、上野戦争以降の戦争を防ぐのは難しかっただろうと思う。
なぜこのように明治維新が「うまく行ったのか」についてはいろいろ議論はあると思うけれども、大きいのは「天下の大勢」に対する理解を当時の志士たちや要路の大名や公家たちがかなりの部分共通認識として持っていたから、という部分が大きいと思う。この辺りもまた改めて「天下の大勢の政治思想史」など読み直してみたいと思う。
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