「ヒルビリー・エレジー」を読んでいる/見捨てられた貧しいアメリカ白人と彼らの対日意識/アメリカ史にとってのオハイオ川

Posted at 24/07/18

7月18日(木)曇り

昨日は午前中に家にいたら連絡しようと思っていた人が訪ねてきて、懸案が一つ解決した。結構気にしていたのでそれがなくなって結構ホッとしてしまい、逆にいろいろやる気がなくなってしまった。最近どうもそういうことが多くて困る。やることは本当はいくらでもあるのだけど、体力がついていっていない。

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昨日は空いた時間は「ヒルビリー・エレジー」をだいぶ読んでいたのだが、まだ108/356ページ。やはりKindleで読むのは疲れる。文庫本を買えばよかったと思ったが、この手の本はなかなかすぐ手に入るところには置いてないので注文かAmazonになる。図書館を探したが近隣の市町村では1冊だけあって、貸し出し中だ。今日は「推しの子」と「百木田家の古書暮らし」の新巻が出るので買いに行くついでに書店で探してみようと思うがさてどうか。電子書籍はマンガならいいのだが、字の本はどうも読むのが大変だなと思う。

「ヒルビリー・エレジー」は今まで読んだ範囲では小説ではなく本当にあったことなのだと思うが、やはり読み味としては小説なので、いろいろと自分の子供時代の記憶などを引っ張り出してきて考えることが多い。筆者のヴァンス、今や副大統領候補だが、が育ったオハイオ州のミドルタウンはシンシナティの北東47キロにあり、オハイオ川に注ぐグレートマイアミ川の辺りにあって、アームコスチールという優良企業があってそこで働けば高収入を得られたが、そこは川崎製鉄に買収されてAKスチールになっているという。Kは川崎である。

川崎製鉄にアームコが買収されたということについて地元の人たちはかなり複雑な気持ちを持っていたというが、それはケンタッキーから流れてきてミドルタウンで働いていた多くの人たちは第二次世界大戦で日本と戦った経験を持っていたから、ということのようだ。しかし1984年生まれの筆者の子供時代、つまり1990年代、戦争から50年経っているのに、まだそういう感情はあったのだなと改めて思う。私はアメリカには3度ほどいったことがあったが、やはり「第二次世界大戦のことは言わないほうがいい」と忠告はされた。まあ日米構造協議が行われていた時期だし、日本社が不正輸出されているみたいな言われ方もしていたから日本に対してまだライバル意識が強い時期だったということもあるのだろう。ヴァンスは日本製鐵によるUSスチールの買収に反対しているようだが、こういう原体験があるというのもその理由の一つなのかなと思ったりはする。

ただもう一つ思ったのは、アメリカの田舎町というのは本当に世間の流れに取り残されているということ。これはまあ日本の田舎町もかなりそういう部分があるからそこら辺も思うことはあったのだが、私の経験でも「街の人たちの話題は今日ウォールマートで何があったということばかり」みたいな世界だったから、逆に言えば50年前のことでも昨日のように感じる、ということはあるんじゃないかということだった。アメリカの田舎町で時代に取り残されている貧しい白人たち、は時流にも乗れず、また黒人や移民、女性やトランスジェンダーなど「マイノリティ」にさまざまな特権が与えられていく中で、何も与えられない見捨てられた存在だ、というのも理解はできる。これも中年男性はいくら自殺率が高くても振り向きもされないが、女性の自殺率が上がると大騒ぎになるという日本の状況にもよく似ている部分がある。

今読んでいるあたりは暴力描写が多く、その辺りがこの地域の「ヒルビリー」と呼ばれる人たちの一つの文化だったということはわかるのだが、日本の庶民文化も昔はそんなものだったわけで、急速に暴力嫌いが広がっている我が国の若者たちがこの辺りの描写を読んでどう思うのかなというのは思わないでもない。まあ私が読んでもこれはひどいわ、と思うくらいではある。

思ったことを思い出しながら書いてみると、例えば「グレートマイアミ川がオハイオに注ぎ」という訳文があったが、オハイオが州でなく川をさしているということはアメリカの事情にある程度詳しい人でないとわからないのではないかと思った。

オハイオ川はペンシルバニア州のピッツバーグが源流で、その後オハイオ州とペンシルバニア・ウェストヴァージニア・ケンタッキーの州境を流れて、最終的にはミシシッピ川に注ぐミシシッピの主要な支流の一つである。また南部の奴隷州と北部の自由州の境界をなす川でもあり、そのことは「ハックルベリ・フィン」でも触れられている。

私が西洋史を専攻したということもあるが、ヨーロッパの地名や河川名はそれがどういう歴史的存在なのかというのはだいたいピンとくるのだが、アメリカ史は高校までの世界史でも本当に概略しか扱われないので、地元の人たちがどういう歴史意識を持っているか、その地名にどういう意味があるのかなどは改めて学んでいかないといけないところが多いなといつも思う。我々はアメリカの巨大な影響下にあるのに、アメリカのことを知らなすぎるといつも思う。

J・D・ヴァンス氏のことを少し深掘りしてみようと思ったのは彼が権力の座につく可能性の大きさについて意識しているということもあるのだけど、彼を知ることによってアメリカのある部分を知ることができるという感じがあるということもある。アメリカは敵でもあり味方でもあり、厄介な隣人でもあるのだが、中国や朝鮮半島の両国などの方がより厄介な部分もあるわけで、特に同盟関係にあるアメリカのことがあまりにも理解されていないというのは実際危険だと思う。

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