総理大臣を最も輩出している県は/アメリカ大統領の出身州にみるもう一つのアメリカ史
Posted at 24/07/09 PermaLink» Tweet
7月9日(火)曇り
昨日はカラッと晴れている時間はあまりなく、それでも気温は30度を超えていて、当地の梅雨の時期としてはかなり暑い。午後は室内の暑さを避けてどこかに出かけるつもりだったのだけど、なんとなく調べ物をしていたら午後をずっとつぶすことになった。
何を調べていたかというと、歴代アメリカ大統領の出身地である。現職のバイデン大統領は46代目だが、22代・24代と2回大統領になったクリーブランドという人がいるので、人数としては45人ということになる。
日本では総理大臣を一番出している県は山口県で、これは明治維新の中心になった長州藩出身者ということで明治期に人数が増えている。戦後も岸信介・佐藤栄作・安倍晋三と3人でていて、伊藤博文・山縣有朋・桂太郎・寺内正毅・田中義一と合わせて8人である。
逆に朝敵と言われた岩手県でも原敬を始め4人の総理大臣が出ていて、(他は斎藤実・米内光政・鈴木善幸)大正時代以降国内の融合が進んだということではあると思う。ただまだ会津出身の総理大臣は出ていないので、明治維新も完全に終わったわけではない、ということかもしれない。
群馬県などその他出身者が多い県もあるのだが、ここではおいておく。
アメリカも同様な事情で、初代大統領ワシントンをはじめヴァージニア出身者が多い。ジェファソン、マディソン、モンロー、ハリソン、タイラー、テイラー、と南北戦争以前で7人いる。20世紀ではウィルソンがいて、全部で8人である。
ヴァージニアが多いのはもちろん独立戦争時の13植民地からアメリカ合衆国が始まったからで、他にもニューヨークが5人、マサチューセッツが4人で、東部13植民地にあたる州からは45人中28人が選出されている。占拠率62%である。これはアメリカの歴史を考えたら理解できることだと思う。
今回の発見だったのは、オハイオ州出身者が7人いたことだ。それも18代グラントから29代ハーディングの間に集中していて、この期間は閣僚もオハイオ出身が最多だったという。南北戦争後から1890-1920のプログレッシブ・エラと呼ばれる時代の大統領たちである。
オハイオを含む中西部の出身者は11人いて、占拠率29%。つまり東部13州と中西部を合わせれば45人中39人で、90%を超える。今まであまりちゃんと考えていなかったが、アメリカ史・アメリカ政治史の中心がどこにあるのか、これを見れば一目瞭然だということになる。
それ以外の出身者は6人で、リンカーンのケンタッキー、アイゼンハワーとリンドン・ジョンソンのテキサス、ニクソンのカリフォルニア、クリントンのアーカンソー、オバマのハワイである。リンカーン以外は戦後である。
それにしても19世紀後半から20世紀前半のオハイオの存在感は卓越している。こういう観点からの分析はもちろんアメリカにはあると思うが、日本でもなされているのだろうか。
こういう調査は特に金になるわけでもないのに興味本位でついやってしまうのだが、時々妙に面白い発見をするものだなと思う。オハイオは石油の生産量が全米1だった時期もあるようで、そういうことも大きいのかもしれない。オハイオは現在でも全米7位の18人の大統領選挙人を出す重要州でスイングステート(その時々で民主・共和の支持が変わる)として知られ、「オハイオをを制するものは全米を制す」と言われているが、7人の大統領を出した時代は、南北戦争後ということもあるのだが、全員共和党である。
オハイオ州というと思い出すのはクリーブランド管弦楽団だが、この創設も1918年で、そういうこともまた関係あるのかもしれないと思った。クリーブランドは知り合いがいて何度か訪れたことがあるのだけど、落ち着いた綺麗な街で美術館も充実していた。赤いクリップのモニュメントが印象に残っている。
こういう視点でアメリカ史を見ていくと、教科書や新書で読むようなアメリカの姿とはまた別のものが見てくる感じがする。例えば大統領本人に注目してプロソポグラフィ的に社会背景を調べて行ったらかなりアメリカ社会史の実相に迫れる部分があるんじゃないかと思った。
マサチューセッツ出身の大統領は4人いるが、第2代と第4代のアダムス親子と、ケネディとパパブッシュであり、時代の飛び方にやや目眩がするが、4人ともアメリカを代表する政治家の家系であることが共通していて、ニューイングランドの中心という東部の伝統と関わりがあるのかもしれない。ケネディはアイルランド系でカソリックではあるが。
テキサス出身の大統領はアイゼンハワーとリンドン・ジョンソンだが、アイゼンハワーはドイツ系でジョンソンもドイツの血を引いている。ジョンソンの信仰は大覚醒にルーツを持つディサイプルス派であり、アイゼンハワーの母親はものみの塔(エホバの証人)で、彼の士官学校入学に反対したそうだ。そういう生い立ちもあって彼が一般の教会で洗礼を受けたのはかなり後で妻の宗派であり、彼自身はエキュメニカルな、つまり宗派にこだわらない宗教観を持っていたようである。
私はアイゼンハワーという人に対して、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の司令官であり、1950年代のアメリカの全盛期に大統領だった人ということもあって、「最もアメリカ的な大統領」というイメージがあったのだが、両親がエホバの証人で彼の士官学校入学に反対したということを知って、アメリカというのは本当に多様性の国だなと改めて思った。
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