「セクシー田中さん」:原作者と脚本家、そしてプロデューサー/土砂降りの神保町
Posted at 24/06/03 PermaLink» Tweet
6月3日(月)曇り
昨日は出かける直前まで車で出るか特急で帰るか迷ったのだが、結局特急で行くことにし、えきネットでチケットを取って準備して10時半ころの特急に乗る。雨が降っていたのだが、上諏訪駅に着いたころには土砂降りになっていて驚いた。特急が止まらないといいなと思って乗車したが、特に支障なく時間通り運行してくれたのでよかった。
車中では「セクシー田中さん 調査報告書」を読む。内容についてはあとで書くが、いろいろな意見はあると思うけどまあテレビ局の報告書としてはこんなものだろうし、詳細にいろいろ調べるだけ調べていて資料価値はかなり高いのではないかと思った。似たような事件は今までもあっただろうしこれからもある可能性はある。その時のケーススタディとしても、原作側も制作側も参考になるようには思った。
時間通り新宿に着き、中央線と東西線を経由して帰宅。丸善丸の内店でスピリッツ連載の「ハナイケル」5巻だけ探したがなかった。都心の大型書店で、5月末に発売されたものなのにこれである。小学館はコミックスの部数を絞りすぎだといつも思う。東京駅の大地を守る会(名前は変わった気がする)の売店で弁当を買って帰ったのだが、美味しかった。
少し報告書の続きを読んだりしてから、夕方出かける。雨はあまり降ってなかったから大丈夫かなと思って出かけて、新御茶ノ水の駅から神保町に歩いたが、そのころはほとんど降ってなかった。東京堂で本を見てトイレに寄ってから外に出ようとしたらかなり降っていて、とりあえず書泉グランデに行って「ハナイケル」を探したら数冊平積みになっていた。さすがに小学館のおひざ元の神保町のマンガ専門フロアのある書店だからないことはないとは思っていたが、ほかの書店でも買えるとありがたい。
雨はかなり強くなっていたが仲俣暁生「橋本治再読ノート」を買いたいと思ってシェア型書店という「SOLIDA」を探して行ってみたら、二階に平積みになっていた。あと、アールデコ風のポストカードを二枚買ったのだが、レジは現金非対応でレシートはメール送信という徹底した省力化。なるほど東京ならこれも可能か、と思ってちょっと感心した。
https://booth.pm/ja/items/5672654
外は土砂降りになっていて、本日二回目だなと思いつつ、割引券をもらったのでPASSAGEの本店3階のカフェに行ってみたが、洞窟系の店だったので昨日は入らなかった。すずらん通りを歩いて文房堂へ行き、3階の外の見えるカフェでケーキとコーヒーなど。雨が小やみになるまで待とうと思っていたが、だんだん降りが弱くなってきたので出た。時計を見ると6時20分になっていた。夏至も近いから陽が長いのだなと思う。
新御茶ノ水に出て地元の駅に帰り、OKストアで夜と昼の買い物をして帰った。夕食はご飯を炊いてレトルトカレーと買ってきたサラダで済ませた。夜は調査報告書をがんばって最後まで読んだ。
***
「セクシー田中さん 調査報告書」を読了。先にも書いたが、テレビ局の調査内容としてはかなり頑張って作られていると思う。ただテレビ局側の認識と出版社側の認識のギャップというのはあらためて浮き彫りになった感じはする。しかし先ほども書いたがこういうきちんとした文書が出されることの意味は大きいわけで、「こういうことはないようにしてほしい」というようなことが文書を例示して要求することもできるわけだから、原作者の権利を守るためにも資するものであると思う。
https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/pdf/20240531-2.pdf
ただ当然ながらこれはテレビ局側の調査であるから、小学館側にもこのようなレベルでの報告書が作成されることが望まれる。出版社側の認識レベルをちゃんと世に知らしめ、テレビ局側にも明示することができるわけだから、小学館側にもこうした対応を求めたい。原作者は亡くなっているので原作者側の意見は生前の発言や覚書などしか資料がないわけだけど、出版社側にもメリットのあることだと思うから、ぜひ期待したいと思う。
この文章を読んだ感想というか自分なりのまとめを書いてみる。
問題のかなりの部分はまず最初の前提のレベルで「制作側が原作を読めてない」というところにあるなと思った。「#セクシー田中さん」て割とオーソドックスに女性の自立を描こうとした作品なのだと思うし、男性もまた自立せよというテーゼがある。だから描写が子供っぽいか否かとか依存してるか否かとかは本質的でクリティカルな問題なのに、制作側がそこにすごく鈍感なだったように思う。つまりそういう作品として読んでなかったということなのではないかという気がする。
「この作品は読む人によっていろいろに読める作品ではない」。少なくとも原作者はそういうものとして書いていない。だから意図を正確に表現することにとてもこだわっている。そしてそれが伝わらないとどんどん言葉が激しくなり、脚本家がもっと優しく言ってくれとか言ったら完全に信用できなくなったのだろうなあとは思う。
テレビ局の制作側では「コアメンバー」で話し合ってドラマ作りの方向性が出され、キャラや場面の改変もそこで話し合われたようなのだが、その結果を文字に起こすのが脚本家、というのがテレビ側の認識だったようだ。しかし最終的な文責は脚本家にあるのだから脚本家によくないところを指摘する、というのは原作者としてはそうかなとは思う。このすれ違いは最後まで解決せず、脚本家を外せという話になったということなのだなと思う。
ただこれは、あとで触れるテレビ朝日の制作関係者の指摘にもあったがこのドラマ作りの最初の「コアメンバー」の話し合いに原作者が入っていないことがよくなかったのではないかというのは実際その通りだとは思った。「進撃の巨人」アニメ化の際に作者の諫山創さんが話し合いに参加し、アニとアルミンの場面(アニが女型の巨人に変身する場面)の演出アイデアを出した、というのを読んだことがあるから、この最初の場に原作者が不在だったことでかなりの一方通行になってしまったのではないかとは思う。
ただこれは「自由にやりたいテレビ局側」と「じかに会ったら言いたいことが言えないタイプの原作者」の会合を持つことが本質的に可能だったのかという問題は残るが、もしこれが出来ていればかなり意思の疎通はできたのではないかと思った。
報告書を読んでいると芦原さん側の脚本家に対する不信感というのはかなり早い時期に出てきているのだが、プロデューサー側がそれを早期に手を打って問題解決しようとしてなかったのが傷口をかなり広げた感じがした。まあPが33歳、原作者も脚本家も50代のベテランということになると元々それだけでも荷が重かったのだろうとは思う。ただ脚本家を決めたのはPのようだから、責任は免れないだろう。このあたりはテレビ朝日の人も批判している。「プロデューサーが必要な仕事をしていない」というのは批判されるところだろう。
このプロデューサーはこの時間帯のドラマを担当するのが初めてで、なおかつチーフプロデューサが―忙しくてフォローできなかった、みたいな実態もあったらしく、「会社(日本テレビ)の偉い人」がドラマは専門性の高い分野だから口出ししにくいとか、もうちょっとフォローするべきだったとか、それだけしかいうことはないのか、みたいな感じだったのがあまりよい感じではない。
結論として、実際どの方向にドラマ制作のあり方を変えて行けばいいかという問題については、報告書でも提言しているし、これから動いていくと思うが、自分が考えたことを書いてみる。
2024年現在の現状におけるマンガ作品のアニメ化と実写ドラマ化の違いは、アニメ化については「原作そのものに忠実になるべく原作通りに」制作するのが標準になっているということがあげられる。原作通りに忠実に制作したうえで、さらに「原作世界を掘り下げた描写」が行われ、「原作世界をより深く理解できるような形で」の「改変」が行われている。これは「いい改変」だろう。
ドラマ化の方は生身の俳優が役を演じるという制約上のやむを得ない改変だけでなく、視聴者にアピールしたり嫌われないための改変が行われがちで、原作が敢えてそのように表現している場合を改変してしまったら当然ながら原作者は許せないだろう。これは「悪い改変」になる。
問題を感じたのは、ドラマ制作サイドは「テレビドラマとはそのように作るものだ」という先入観が強くあり、常によりアピールするための改変を行おうとする、という傾向があるように思われた。これは視聴率競争に晒されている身としては本能のようなものなのだろうとは思うが、「悪しき慣行」であると言ってもよいのだろうと思う。
だから原作サイドとしては、「どのようにでも自由に改変していいですよ」という作品のみにアニメ化やドラマ化の許諾を与えるというのが一番無難な話になるのだろうと思う。そうでなければ、たとえ視聴率が取れないと思ってもこの通りに作ってください、でなければこの話はなかったことに、とした方がいい。
というか、読んでみて思ったのは基本的にテレビドラマというものは完全オリジナル脚本でやるか、でなければ「原作の魅力を完全に引き出せば必ず当たると確信できる」もののみをやるべきなのだろうと思う。アニメでは、「進撃の巨人」にしろ「呪術廻戦」にしろ「鬼滅の刃」にしろその路線で当てている。日本テレビと小学館の組み合わせでも「葬送のフリーレン」という素晴らしい例もあるのである。
私はマンガは読むが、アニメ化はそんなに見ないし、実写ドラマ化はまず避ける傾向がある。それは、「実写ドラマ化は地雷」と感じているマンガ読者が多くいるのと同じ理由である。
もし原作世界が原作以上に再現されるような実写ドラマが出て来たら、その際には見てみたいと思ってはいるので、今後に期待したいと思う。
***
「ふつうの軽音部」何度も読み返しているが、明日第2巻が発売ということもあり、またそのあとで書けるとよいなと思う。
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