寒さがぶり返した/「龍と苺」が面白い:「響 小説家になる方法」の作者さんの最新作/エマニュエル・トッドのシビアなウクライナ観

Posted at 24/05/09

5月9日(木)曇り

7時前の気温が6.8度、ずいぶん寒い。ここのところ10度を下回る感じがなかったから、季節が少し戻ったような感じさえする。朝起きた時は寒くて自分の体調が悪いのかと思ったが、そうではなく本当に寒いのだと気づいて気温を調べて少し驚いた。まあ、長野県の実家では梅雨時までストーブをつけることもあるのでそう珍しくはないのだけど、やはり体が暖かさに慣れた後だと大変さはある。

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昨日はなんとなく面白いかなと思って読んでいたサンデーの「龍と苺」を1巻から読んでみようと思ってKindleでポチったら作者さんが「響 小説家になる方法」の柳本光晴さんだということに気付いて驚いた。読み始めたら主人公がいきなり響ムーブをしていておいおいと思ったが、響では天才はどこに行っても圧勝みたいな話が多くてそれはそれで新しい感じはしていたのだけど、苺は天才ではあるが負ける時には負けていて、とは言え公式戦ではずっと負けない、という感じできている。

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竜王戦をアマチュア枠から勝ち上がっていくというのは「バンオウ 盤王」と同じだが、バンオウの方は数百年生きた吸血鬼がその間に鍛錬してきた将棋の腕を将棋道場の維持のために賞金を稼ぐという目的で竜王戦にチャレンジするという設定で、つまりは「際立った才能がなくても数百年努力を続けたら天才たちに勝つことができるのか」みたいなテーマで、「努力と才能のどちらが重要か」みたいな究極のテーマを扱っているのだなと思う。

一方でこの話の苺も天才なのだが、とにかく負けず嫌いで、「勝負事には絶対負けない方法はないけど絶対勝つ方法はある、それは勝つまでやることだ」と言い切る。もう一つは女性棋士がいまだに生まれていない将棋界において、将棋を始めたばかりの中学生女子が才能に加えて周りと切磋琢磨する中でさらにどんどん強くなっていく、という話なので、「少女がモンスター揃いの将棋界に風穴を開けていく」という話でもある。この辺りは美少女戦士だの魔法少女だのの定番パターンと言えなくはないが、アファーマティブアクションなど女性にハンデをつけてでもその世界に進出させるという動きが多い現代において、それに乗っているというのか否定しているというのか女でも実力で強い奴は勝つ、というテーゼが見えるところも面白いと思う。

一方で「響」は人のいうことを聞くタマではなかったが、苺は最初に将棋で「命をかけて」勝負した元校長の宮村を「爺さん」と慕い、負けん気で暴走しがちな苺はゲンコツで殴られながら行動をセーブされつつ強さを伸ばしていったり、また同じ年代の男子や女子とさまざまな方法を駆使して切磋琢磨しながらお互いに腕を伸ばしていったり、また後輩が将棋部に入ってくると独特の仕方ながらちゃんと指導して強くしたり、響に比べれば全然社会性があるというか、最初から全勝みたいな響とは違って最初はちゃんと竜王や名人にはコテンパンにやられるし、努力して強くなっていく天才というある種の王道展開になっていて、そこがこの作者さんの作品としては逆に新鮮という感じがするところも面白いなと思う。

これはテーマにしているものが「響」は小説で本来勝ち負けをつけるようなものではないものでドラマを作る難しさみたいなものがあったのだけど、「龍と苺」では残酷なまでに明確な勝ち負けの世界である将棋を舞台にすることで「勝ち続ける天才」という単純になりそうなテーマにおいてより複雑な陰影のあるドラマを作り出せる要因なんだろうなと思う。響が後輩の小説を指導するとか考えにくかったので、この展開は割と意外だったのだった。

現在連載中の部分はちょっとSFが入ってきているが今読んでる8巻あたりだと現代の展開なので普通に読める。最近は高校を舞台にしたマンガが多いけれども、若き天才が多い将棋を舞台にすることで中学でも十分舞台にし得るというのが良いなとは思うし、普通にキレたり情けなかったりするのも高校よりは中学の方が子供っぽさがリアルだったりするのも良いなと思う。

「響」が連載されていたスペリオールと「龍と苺」が連載されている少年サンデーという媒体の違いもこういうことにはあるのかな、という気はしたが、宮村がことあるごとに苺にゲンコをくれているように、暴力が許容されてる世界線というのも面白いが、今のポリコレには反している。まあこの作品というかこの作者さんの作品で暴力はコミュニケーションの一つのあり方という感じなのでないと成り立たないんじゃないかと思うようなところもあるのだが、そう言えば未来編では暴力シーンはなかったなと思ったり、まあポリコレと表現の戦いというようなものも絡んできたりしちゃうのかなと思ったりはする。

しかしこんなめちゃくちゃおもしろ作品が今まで自分の編みに引っかかってこなかったというのもちょっと悔しいし、フリーレンを読むために買っていたサンデーに載っていたのに気づかなかったというのもちょっと悔しい。アンテナがザルだと言えばそうなのだが、なるべく気持ちの余裕を持って面白い作品を探していきたいと思う。

それにしても、「龍と苺」という題名、苺は主人公の名前なのだが龍は一体なんなんだろうか。「将棋」のことを指しているのかそれとも。

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エマニュエル・トッドの方は池上彰さんとの対談の方は読み終わり、「第三次世界大戦はもう始まっている」の62/206ページを読んでいる。いろいろなものを読んでいて感じるのはトッドの否定的なウクライナ感なのだが、彼は家族形態などを根拠にウクライナ(中部)とロシアは文化が違うが今ロシアが占領しているクリミアから南東部・東部にかけてはロシア語が優位な地域であり、ロシアが支配するのが適当だというような感じのことを言っているのだけど、2014年のクリミア占領の後に芽生えたウクライナ・ナショナリズムについてもむしろ「悲劇だ」というようなことを言っていて、まあそこのところはどうかなとは思う。

ただトッドの指摘は今まで気が付かなかった部分についてのことが結構あるので、また改めてその辺のところも書きたいと思う。


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