「伊集院光の百年ラヂオ」:時報にクレームをつける歌舞伎役者/「くらべて、けみして」:作家の書いた文にクレームをつける校正という仕事
Posted at 24/03/18 PermaLink» Tweet
3月18日(月)晴れ
今朝は東京にいるが、4時過ぎにローソンに雑誌と朝ご飯を買いに出かけたら、風が冷たくて驚いた。ローソンでその話をしたら、昨日まではあたたかったけど今日から寒くなるとのこと。昨日は緑道公園を歩いていたらもうハクモクレンは散っていたし、春もかなり段階が進んだ感じなのだけど、まだ揺り戻しはあるんだなと思った。そういえば早朝に地震があったのだが、千葉県北西部震源の最大震度2の地震だったようだ。噂の千葉の地震を体験できたという感じ。これ以上はもういいです。
昨日は午前中にいろいろ片づけなどして、11時前に出かけた。境川PAで昼ご飯を済ませたが、どのPAに行っても混んでいて特に子供が多く、春休みの日曜日なんだなと思う。たまたまトイレに行きたくなったので藤野PAで行ったのだが、いつも行く石川PAは駐車場に入るところで渋滞していてひとつ前で行っておいてよかったと思った。まあこのあたりで子供が「トイレ!」とか騒ぎ出すあたりなんだろうなと思ったり。
初台まではそれなりに混んでいたが、そこから先の首都高はかなり空いていて、そこからは思ったより早く動けてよかった。
少し自宅で休憩した後、地下鉄で銀座へ行った。教文館で本を少し探し、カフェに入ろうかと思ったが混んでいたのでやめて、こいしゅうか「くらべて、けみして 校閲部の九重さん」(新潮社、2023)を買った。教文館は割と欲しい本が見つかる書店なのだけど、この本は出版界でも最も凄いと言われる新潮社の校閲部についての作品で、校正という仕事の様々な話が出てくるのだが、マンガであっても普通の平積みされてるような作品ばかりが置いてある大手の書店とは違うチョイスがあって、教文館ではそういうマンガを見つけることが多い。相原コージさんの鬱で入院したマンガもここで見つけたし、他にもいろいろあった。
外を歩いていると聞こえてくるのは外国語ばかりで、こういう環境というのは疲れるなと思う。人もかなり多かったからそれもあるのだが。久しぶりに元松坂屋のビルにある蔦屋書店に行ってみるかと思って行ってみたが、相変わらず洒落おつな本のセレクションと展示で、日本刀まで展示してあったのだが、どうも買いたい本も買いたくなくなる感じだなと思って早々に退散した。なんというか外観はきらびやかだが書籍というものに対する愛情があまり感じられない、というのはこちらの偏見かもしれないのだが、おしゃれな本を見ている「私」を見せる場所、みたいな感じがしてどうも本自体に集中しにくい雰囲気を感じた。若いころならそういうノリにももっと付き合えたのだろうなとは思うし、付き合いの浅い子とのデートコースとかにはいいかもしれないとは思うのだけれども、まあなんというか。
疲れてきたので三越の地下に行って弁当でも買って帰ろうと思ったのだけど、やはりここも混んでいた。まあ春休みの日曜の銀座の三越なんだよなと重ねて思った。普段は銀座に行っても大体松屋で買って帰るか三越なら日本橋に行くのだけど、あえて銀座の三越にしてみたのだが、買ったのはわりといつものまい泉の弁当だったので、まあ雰囲気を体験したという方が大きいか。そのまま地下鉄に乗って帰った。
***
https://www.nhk.jp/p/ijuin100r/rs/KZ1MQWYKVV/
昨日は車の中でNHK-FMの「伊集院光の百年ラヂオ」を聞いていた。この番組はNHKのアーカイブスの中から昔の番組を取り上げて再放送するというものでとても面白いのだけど、番組改編で三月いっぱいでなくなるらしい。昨日取り上げていたのは「時報」で、最初はアナウンサーが「10秒前・・・5秒前・・・ハイ!」とかやっていたというのはおかしかった。そのあともドラにしてみたりカネ(のど自慢のカネと同じものらしい)にしてみたりいろいろ大変だったようだが、一日二回生放送で時報をお届けしていたのだという。
実際、時報は重要だったらしく、初期の聴取率調査(1920年代)によると、一番聞いていると答えた人が多かったのはニュースだというのはまあそうだろうと思うけど、二番目は「時報」だったのだそうだ。だから生放送で時報をお届けするのも1分前からあと30秒・・・あと20秒・・・とやっていたらしく、大変だっただろうなと思う。
時報マニアみたいな人もいて、毎回「今日は時報がどれだけずれた」とハガキを送ってくる人がいたらしく、それが歌舞伎役者の六代目坂東彦三郎だったそうなのだが、放送では触れていなかったけどこの人は五代目尾上菊五郎の息子で歌舞伎界でも重鎮だったから当然収入も多かったらしく、当時には珍しい「時計を収集する」という趣味があったのだという。NHKの時報に文句をつけるからにはそれ以上に正確な時計を持っていたということだから驚きだと思うのだが、彼の時計マニアぶりは有名だったらしく、舞台でも大向こうから「大時計!」という掛け声がかかったりしていたと雑誌「演劇界」の増刊「三代の名優」(昭和57年)で読んだことがあったことを懐かしく思い出した。
***
時報にクレームをつける歌舞伎役者というのはなんとなくコミカルな感じがして面白いのだけど、作家の文章に疑問符をつけるのが出版者の校閲部の校正の仕事である。それを扱ったマンガが先に書いた「くらべて、けみして」なのだけど、この本は面白くて一気に読んだ。
町田康さんが「訣る」とかいて「わかる」と読ませているが、これはもともと折口信夫が使っていた表現だとか、プロにも読めない石原慎太郎の生原稿だとか、いろいろな話が出てきて面白かったのだけど、やはり一番すごいと思ったのは実在する矢彦孝彦さんという校閲者の方の話で、江藤淳を担当していて夏目漱石の評伝で夏目漱石が散歩をする場面の描写がいつもあったのがあるとき違うルートを歩く描写に違和感を感じ、著者に尋ねてみたらいつもはその時代の地図を見ながら描写するのだけどその時は地図がなかったということが分かったのだという。
それで矢彦さんは神保町の古書店をしらみつぶしに調べて古地図を探し出し江藤さんに送ったら、数日後に力強い描写のゲラが上がってきたのだという。
こういう話は編集者ならよく聞くけれども、校閲者がその違和感を見つけ出し作者に協力してより良い作品をつくるというのは凄いレベルの話だなと思った。
一方でカミュの「ペスト」という数十年前に出た本の誤植を今発見するとかもあるらしく、また自分が校閲した本を新人に間違いを発見されて落ち込んだり、新人の頃に「単簡」という表現に引っかかって指摘したら編集者に「これは夏目漱石も使っていたからママ」と返されたりしたとか、まあ「単簡」に関しては私ですら知っていたので「あの新潮社の校閲」と言っても新人の時から何でもできるわけではないんだなとちょっと安心したりはした。
「校正という仕事」に関心のある人には、お勧めの本。また変換ミスとかが日常茶飯事のウェブメディアを多く読んでいるとそういう間違いはあまり気にならなくはなってきているのだけど、昔は私もそういう気になるミスを見つけたら必ずはがきなどで指摘していたことを思い出した。
今ではそういうミスを見つけても面倒だしと思って指摘しないようになってしまったが、特に新潮社のような言葉を大事にする出版者の本は指摘してあげた方が多分いいなと思ったので、またそういうのも復活しようかなと思ったのだった。
「日本人はなぜ一神教が嫌いなのか」とか書きたいテーマもあったことに気付いたが、またこれも改めて書く機会があったら。
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