「私は何を大変に感じているか」/神武天皇と「歴史をめぐる闘い」、「歴史のための闘い」/ヨーロッパ貴族社会と王位請求者/「セクシー田中さん」はどうすればもっと読まれていたか
Posted at 24/02/12 PermaLink» Tweet
2月12日(月・振替休日)雪のち曇り
昨日は疲れが出て(最近こればっかりだが)1日のろのろと暮らしていたので夜も9時過ぎには寝床に入り、起きたら4時だった。
昨日は姪が元同僚達とこちらに観光に来て、車を貸してくれというのでホテルに拾いに行き、自宅で自分は降りて姪に行かせたのだが、大丈夫かなと思いつつ自分はいろいろやろうと思っていたのだけど、先に書いたようにほとんど仕事はこなせず、気になるところを少しずつやるというくらいのことしかできなかった。昼ごはんもほとんどご飯を炊く気も起きず、セブンイレブンでカツカレーなどを勝って済ませた。
昼過ぎに車を返すというので途中の道まで歩いて行き、郵便局のところで行き合ったのでそこで運転を代わり、順番待ちをしている鰻屋まで送って自分は帰った。午後は少し動く気が出て作業場に行ってマンガの整理などし、夕方になって岡谷に出かけてユニクロでセーターを一枚買い、夕食の買い物をしてきた。書店で欲しい本を見たがとりあえず買いたいものはなかったので、ノートを一冊買ってクーポン券を使った。
朝は起きてから「自分が今何を大変に感じているのか」ということを書き出してみたらどんどん出てきて、そこからやりたいと思うことのアイデアなども出て結局A4に6枚になったのだが、「ものを考える」というのはテーマの立て方が一番大事で、それがうまくハマると考えること自体に充実感が出る。「何を大変に感じているのか」というのはまあ大変なことばかりが並んでいるわけだけど、「何が大変なのかも掴みきれなくて大変」という状態よりは格段にマシなので、とりあえず考えられてよかった。というかつまりここしばらくはそれすらつかめなくて迷っていた、ということではあるのだけど。
***
あとは、昨日いろいろだらだらしながら調べていたことの中で面白いと思ったことがいくつかあったのでそれを書こうと思う。
昨日は建国記念日なので、自分が過去にツイートした神武天皇についてのツイートがRTされて拡散されていたのでそれについて。
https://twitter.com/honnokinomori/status/1615839488621830144
神武天皇という存在がクローズアップされたのは幕末の玉松操以来で、それまで尊王派は「延喜天暦の治」が理想だったのを「神武創業に帰れ」というスローガンになった。醍醐・村上両天皇はもちろん実在は確実なわけだが、神武天皇の実在性を否定する議論が戦後特に強くなったのは、帝国日本のイデオロギーだった「神武創業に帰れ」というスローガンの否定にあったわけだろう。
だから一般人や経済人にとってはある意味関係なく、未曾有の好景気を「神武天皇以来の景気=神武景気」と名付けたりすることに抵抗はなかったわけだ。神武景気の名に歴史学者がクレームをつけたという話は聞いたことはない。
考えてみると神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気と、神話をちゃんと学んでいない今の生徒たちには何を言ってるのかわからないだろうな。それにテレビ、洗濯機、冷蔵庫を「三種の神器」と言ったりするように経済用語は案外神話用語なんだよね。
この連ツイのことからちょっと歴史をめぐる戦い=歴史戦というものについて考えてみた。明治政府にとっての歴史戦は江戸幕府を否定することであり、また自分たちの近代化政策を皇祖皇宗の歴史に鑑みて正統的なものにするということであったわけだけど、上記の玉松操の議論は「神武創業の精神」に則って白紙から近代国家を作ったということも可能であるという点で、明治政府にとっては大事なイデオロギーであっただろう。しかし玉松操にとっては目指していた神道政治は実現しなかったので失意のうちに政府を離れることになるが、近代化論者・国権論者と神道家・国学者達がそのスタートにおいては一致できたというある種の奇跡が維新を可能なものにしたという面は否定できない。
私は基本的に保守主義の立場なので、現代の戦後民主主義政府の経緯もある程度尊重しつつ、明治政府・大日本帝国を再評価するとともに、江戸時代以前の歴史や国のイデオロギー的な基になる日本神話や神道についても考えていかないといけないと思っているのだけど、例えば聖徳太子などはその重要な存在の一人であることは間違い無いだろう。
これは偶然なのだけど、少し調べていて聖徳太子薨去の年が622年であることを知り、これは世界史的に言えばイスラム教のヒジュラの年で、イスラム暦では紀元元年とされている年だから、世界史と日本史の関係としてはとても考えやすい年代であるなと思った。
ムハンマドのメディナへの移住とウンマの形成を「紀元元年」とする考え方、徳川家康が江戸入りした八月一日を「八朔」として武家の式日とする考えと共通しているところがあるなと思った。この日から「徳川家の江戸」が作られていくという意味で。
ところで江戸城を作ったといえば太田道灌が知られていて、皇居外苑には太田道灌の銅像(騎馬像)も立っているが、これは「江戸城をつくったのは徳川家ではなくその前からあった」という意味で徳川家の業績を否定したい明治政府が強調したからなわけである。道灌も風雅な城を作ったと言われているが、現在の東京にがるのはもちろん家康が作った江戸であることは間違いない。戦後は逆に大日本帝国を否定するために江戸時代や江戸幕府が持ち上げられているのもいろいろと面白い。
そういうものが「歴史をめぐる闘争≒歴史戦」なのだけれども、歴史を学ぶものとしては両者とも「かっこ」に入れてより客観的に考えていく必要がある。特に現代に主流な考え方によって過去を否定する傾向が強いのはあまり良いとは言えない。言語学的転回以来そういう傾向が強くなっていて、これはとても良く無いと思う。歴史を歴史として尊重する、「歴史のための闘い」(L・フェーヴル)が必要だと思う。
***
Twitterでヴィットーリオ・エマヌエーレ氏の葬儀に孫娘のヴィットーリア氏が参列している写真を拝見し、少し調べてみると彼はイタリア王国の王位請求者であり、ヴィットーリア嬢もそれを継承しているということがわかった。
ヨーロッパには革命等により共和国になった国々でも多くの王位請求者がおり、イタリアではイタリア王位以外に両シチリア王位を請求するカルロ・ディ・ボルボーネ氏がいる。この方はルイ14世の孫のスペイン王フェリペ5世の孫にあたる両シチリア王フェルディナント1世の子孫、つまりブルボン家で、現在ブルボン家できてスペイン王家とフランスと両シチリアの王位請求家系があることになる。
王位請求権というのは中世から近世にかけてはイングランド王エドワード3世がフランスの王位を請求して百年戦争を起こすなど戦争の火種になっていたが、現代ではあまりそういう意味での話題にはならないけれども、ヨーロッパ貴族の間では重要な地位なのだと思う。そうした貴族の世界の中での「王位請求者」の地位などについて、何かまとまった本があったら読んでみたいなと思う。
フランスには二月革命以降ブルボン家の王位請求者とオルレアン家の王位請求者がいたが19世紀末にブルボン家の正統王朝派の血筋が途絶え、現在ではオルレアン家のパリ伯が唯一の王位請求者になっている。また一方ではボナパルト家の子孫がナポレオン7世を称して帝位を請求している。
歴史上名高い王位請求者としてはジャコバイト(名誉革命で追放されたジェームズ2世の子孫)がいるが、現代では直系は絶え、チャールズ1世の子孫のヨーロッパの王侯を推戴するジャコバイトもいるということだが、本人がイングランド王位を請求している人はいないらしい。
ヨーロッパの貴族階級というのは帝政ローマ時代末期の役職を起源に中世に発展したが、実際に現在につながる家系が生まれたのは10世紀ごろだという研究書を確か三省堂の神田本店で立ち読みしたのだが、その時は買わなかった。こういうネタは後になって気になることがわかっているので買っておけばよかったのだが。
現代では最も人数として残っているのはイギリスではないかと思うが、西欧諸国には貴族の血を引く人たちは今でも多く、独特の社会を作っているように感じる。それらの人々の意識や資本家階級と合体した上流階級的なソサエティというものももう少し研究書を読んでみたいというところはある。類似したものは日本にも旧公家・大名家や明治以降の貴顕、世襲政治家や地方名望家層や財閥、企業経営者クラスや上級官僚、世襲的な学者なども含めたソサエティは存在していると思うのだが、この辺も見えそうで見えないところではある。そのあたりの社会学的あるいは民俗学的な研究もあれば読んでみたいところではある。
***
Twitterを見ていたら、あの事件ののちに「セクシー田中さん」を読んでいる人が多く、男性マンガ家をはじめ私がフォローしている人の多くが読んで絶賛しているものをたくさん読んだ。
実際私も芦原妃名子さんの死があってから「セクシー田中さん」を読んだので、前後しているだけでそれらの人々と「死後のファン」ということでは同じなのだが、こうなってみるとより多くの方々がこういうことが起こる前に「セクシー田中さん」を読んでいたら、もう少しマシな経緯になった可能性もあるなと思ったのだった。
私は小学生の頃(1970年代前半)には「すべてのマンガを読む!」みたいな野望を持っていた時期もあったのだが、その頃すでにさまざまなマンガやマンガ雑誌が出ていて、少女マンガの中には私にとって読みにくいものも多く、割合早めにその野望は捨てたのだが、それにしてもその後のマンガの隆盛の中で、「読まれるべきなのにあまり読まれていない作品」というのはとてもあるのだよなと改めて思った。
私は漫画誌は週刊・月2回刊・月刊とそれなりのものを読んでいるし、ウェブの漫画もかなり読んでいる。雑誌もまあ全部読んでいるわけではないのだが、面白いものは逃したくないので、例えば「このマンガがすごい!」なども読んで面白いかなと思ったものは女性向けのものなども読むようにしている。「天幕のジャードゥーガル」や「メタモルフォーゼの縁側」「海が走るエンドロール」などはこれがきっかけで読み始めている。(もともと「進撃の巨人」を読み始めたのもこれがきっかけだった。)
しかしそれでも探知漏れはあるわけで、こういうことが起こるまで「セクシー田中さん」を読めなかったことはやはり探知網がまだまだだなと思わざるを得ないなと思っている。多くの漫画家、特に男性向けの少年誌や青年誌に書いている人たちは、やはり違う世界と感じることもあるのか、読んで「面白い!」と言ってる人がたくさんいるのが印象的だった。
そういう意味では、現在の女性誌の作品の売り方に、まだ改善の余地があるのではないかという気はする。男性誌の方は女性読者も多いし、男性誌に描く女性漫画家も多いのだが、女性誌の作品がブームになるということは「ベルサイユのばら」とか「スケバン刑事」の時代はともかく、最近は私の記憶に残っているものはない。24年組の山岸凉子さんなどの作品は読むことは読むのだが、その下の年代の作家さんたちはあまりよく知らないのが実情だなと思う。
「セクシー田中さん」は女性の視点だということはよく分かりつつ、キャラクターの描き方が丁寧で、ギャグとシリアスのバランスもいいし、一見類型的に見えるキャラクターの掘り下げ方など、男が読んでも面白いと感じる人は多いことは、皮肉にもこの事件が起こったからこそ明らかになった。
もしこの作品が男性の間でも支持され、大きな注目を持って実写ドラマが放映されることになっていたら、ドラマ化の経緯に疑問を持って問い合わせなどが増えて、結果的により前の段階で立て直しが行われた可能性もあったかもしれないとも思う。
この作品はそれだけの特別な作品であった可能性が高いと思う。もちろんすべての作品がドラマ化原作のネタとして使い捨てられないで済む状況は今までは難しかったと思うけれども、もっと注目されていればテレビ側の扱いも変わった可能性もある、というふうには思うわけである。この作品に関して、ということではあるけれども。
まあその件を除いても、より多くの人が面白いと感じる可能性のある作品が女性誌のマーケティングだけで広がる範囲が限定差されていたというのはやはりもったいないなと思うわけである。私もブログなどでは面白いと思う作品はなるべくその時点でマイナーなものでも取り上げようと心がけてはいるのだが、より適切なプロモーションができるようなピックアップ体制みたいなものが、出版社の中でもできていくと良いのではないか、と思ったわけである。
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